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動き出した中国の独占禁止法制

発行日 2008年10月6日

主席研究員 金 堅敏


『独占禁止法』の実体規定

  • 2007年8月30日に公布され、2008年8月1日に施行される『独占禁止法』は、『反不当競争法』、『価格法』、『外国投資者による国内企業のM&Aに関する規定』などの各法規に散在している独占禁止規制内容を集約して、新たな内容を追加した体系的な独占禁止実体法である。
  • 『独占禁止法』の規制対象は、1)独占合意(カルテル)、2)市場支配的地位の濫用、3)事業者の集中(企業のM&A等)、の三つである。また、「中国特色」とも言える「行政独占」の禁止についても第5章という専門の章を設けている。
  • 「行政独占」の禁止とは、行政機関の権限濫用による競争制限に対する「公的独占」の禁止規定である。私的独占禁止を取り扱う日本の独占禁止法にはない規定である。中国では、地方政府が行政権限を行使して地域内企業を保護しようとする傾向が強く、統一された国内市場が実現されていないのが実情である。「行政独占」の禁止はこうした地方保護主義を打破し、全国統一市場を実現しようとするものである。
  • また、『独占禁止法』第31条は、外資と事業者集中について規定している。「外資が国内企業を買収、またはその他の方法により事業者集中に参加し、国家安全にかかわる場合には、本法の規定により事業者集中を審査するほかに、国の関連規定に従って国家安全審査を行わなければならない」と規定している。つまり、中国の独占禁止法は自由で公正な競争秩序維持に止まらず、国内事業者に対する外資企業の買収に係る国家安全問題をも取り扱っている。因みに、日本では外資買収にかかわる国家安全の問題は『独占禁止法』ではなく『外為法』で取り扱っている。
  • さらに、第2条では、海外での事業者集中行為であっても中国での市場競争に影響を与える場合は、本法が適用される。日本の『独占禁止法』にはない、いわゆる域外適用の規定である。海外で行われたM&Aも中国の独占禁止執行機関に届け出る必要となる場合も考えられる。

『独占禁止法』の執行体制

  • 上記『独占禁止法』が施行されたと同時に、事業者集中申告基準の公布、国務院独占禁止委員会の設立、などで「中国特色」のある独占禁止法制は動き出した。
  • 独占禁止ガイドラインの第一号となる「独占禁止法事業者集中申告基準」(事業者集中が国務院の規定する申請基準に達した場合、事業者は独占禁止執行機関に対して事前に申請しなければならないとしている)が8月3日に公布された。判断の難しい市場シェアではなく売上高で事前申告が必要かどうかの判断基準になっている。中国国内で活動している企業の4%前後は、事業集中を行う場合には事前申告が必要であると見込まれている。40以上とも言われる公布されていない独占禁止ガイドラインの制定が急がれている。
  • 独占禁止法制の執行体制については、諸外国と違って2層体制を取っている。2008年8月1日に国務院独占禁止委員会が設立され、独占禁止政策や市場の競争状況の調査研究、独占禁止ガイドラインの策定、独占禁止行政・法執行活動の調整に当たっている。しかし、当該委員会の構成や活動ルールはまだ公表されていない。
  • 国務院独占禁止委員会の下には、三つの中央官庁からなる独占禁止法執行実施機関を置く。国家発展改革委員会はカルテル規制、国家工商総局は支配的地位の濫用、商務部は事業者の集中をそれぞれ担当すると言われている。国家工商総局と商務部はそれぞれ、独占不当競争禁止執行局と独占禁止局を設立したが、国家発展改革委員会の担当部署はまだ公表されていない。三つの執行機関とも担当分野のガイドライン作成などに着手しはじめている。
  • 以上の独占禁止委員会とは別に、米国の外国投資委員会(CFIUS)に倣って外資買収にかか わる国家安全を審査する専門員会を設置する。商務部のほかに、国家発展改革委員会、工業情報化部やその他の政府機関から構成される。ちなみに、日本ではこのような委員会は設置されていない。

『独占禁止法』の運用実態

  • 『独占禁止法』が施行された当日に『独占禁止法』関連の三つ((1)国家質検総局関連訴訟、(2)地方政府税務局関連訴訟、(3)国有通信会社関連訴訟)の訴訟が提起された。(1)について法定起訴期間が過ぎたことで受理されなかったが、(2)については裁判所に受理されたが、被告である地方政府税務局による訴訟対象である「行政独占」行為の是非により訴訟を撤回された。(3)についても裁判所に受理され、法廷審理に入る見込みである。
  • 国内事業者に対する外資買収案件については、米コカコーラ社は中国国内の飲料大手である「Huiyuan Juice」に対する買収に当たり、事業者集中申告基準に基づいて中国商務省に独占禁止申請を届け出た。
  • 世界鉄鉱石生産の第2位のBHPビリトンによる同第3位のリオ・ティントの買収案についてBHPビリトンは、中国商務部に独占禁止審査の届け出をした。域外適用案件として、中国の独占禁止審査は大いに注目されている。