広東省の輸出産業の経営困難と高度化への構造転換(2)
発行日 2008年10月6日
主席研究員 朱 炎
広東省の産業高度化への促進策
- 輸出企業の経営難は、広東省が実施した産業高度化を促進する政策とも関連している。
- 広東省政府は、今年から「騰籠換鳥」と呼ばれる産業構造高度化を促進する計画を実施し始めた。珠江デルタ地域を鳥篭に例え、現在の鳥である労働集約・低付加価値産業を追い出し、新しい鳥としてハイテク・高付加価値産業を迎え入れることである。すなわち、現段階に珠江デルタ地域に集積する労働集約・低付加価値産業を高度化させ、高度化できないものを珠江デルタ地域の外に移転させ、空けた土地、労働力の資源を活用し、ハイテク・高付加価値産業を導入する。
- 産業構造の高度化を促進するため、広東省はさまざまな措置を講じている。まず、政策誘導やコスト上昇させることを通じて、労働集約・低付加価値産業の経営困難を機に、その高度化を迫り、高度化できない産業を珠江デルタ地域から追い出し、移転させる。移転先に関しては、広東省は中央政府と異なる対策をとっている。中央政府は地域的均衡発展を図るため、沿海地域の労働集約・低付加価値産業を内陸地域に誘導しようとしている。商務部は広東省の周辺地域と内陸地域の31都市を「加工貿易移転の受け入れ重点地域」と指定し、工業団地建設に補助金を支給し、原材料・部品輸入の保証金(敷金)を免除するなどの優遇措置を与えている。広東省は移転企業を省内に止まらせ、発展が遅れている広東省の東部、北部と西部地域への移転を誘導したい。このため、広東省政府は工業団地建設、インフラ整備のため500億元、移転した企業への水と電気代の補助に400億元の資金拠出を決定した。
- また、低付加価値産業の高度化、輸出産業の国内市場進出、独自ブランドの創設を奨励する一方、国内外からのハイテク産業の誘致に力を入れる。さらに、企業の対外投資を支援し、ASEANなど新たな市場開拓をサポートする。
- 一方、広東省内の各市もそれぞれも対策をとっている。例えば、広州市政府は産業高度化措置の一環として、職員の給与を5年間に倍増させる「賃金倍増計画」を今年から実施し、08年の昇給率を14%と決定した。労働集約型産業が集中する東莞市は、産業構造の高度化と労働集約型産業の移転を通じて、出稼ぎ労働者を減らし、人口規模を現在の1200~1400万人(推定)を600万人まで減らすと計画している。
広東省経済への影響
- 広東省の輸出産業の高度化は、将来の発展に不可欠であるが、短期的には、大きな痛みを伴い、広東省経済にさまざまなダメージをもたらしている。
- 中国全体の3割を占める広東省の輸出の伸びはすでに減速している。今年1~7月、中国全体の輸出は前年同期比で22.7%も伸びたが、広東省は13.7%増に止まっている。比較すると、昨年同期は26.5%も伸びた。また、輸出のなか、主要構成部分の伸び率をみると、加工貿易(全体の約65%を占める)は12.9%、私営企業は4.5%、米国向けは6.3%増と減速し、アパレル製品は31%減である
- 広東省には、輸出が経済成長への貢献がとくに大きい。輸出の伸びが4%減速すれば、GDP伸び率を1%引き下げる。実際、広東省の今年上半期の経済成長率は10.7%、昨年同期より3.6ポイントも低下し、珠江デルタ地域の主要都市の成長率も軒並み低下し、しかも下落幅はいずれも全国平均より大きい。
- 中央政府は7月から繊維製品輸出の税還付比率の引き上げ、元高のスピードダウンなどの措置をとり、輸出抑制政策の修正も始まったが、広東省では労働集約型輸出企業への締め付けの手をまだ緩めていない。輸出企業の倒産、転廃業は増加する傾向にある。大手企業は危機を乗り越えても、中小企業の大量倒産は深刻な状況をもたらす。中小企業の倒産で、サプライチェーンは、一部の部品と生産工程が欠落することによって崩壊の恐れもある。また、広東省には出稼ぎ労働者は5000~8000万人にのぼると推計されており、倒産による失業の増加は大きな社会問題を引き起こす。
- 一方、企業の広東省内、もしくは内陸地域、ベトナムへの移転も期待できない。輸出企業の立地選択はコストよりも、ロジスティックスと通関の利便性、インフラ、裾野産業とくに部品産業の集積が重要である。しかも、コストの安い地域への移転は延命措置に過ぎず、高度化しなければ、将来もさらに移転せざるを得ない。企業にとっては、移転よりも、現地での高度化、もしくは現地での廃業との選択に迫られる。
- 労働集約・低付加価値産業が倒産・移転に迫られ、労働力の優位性を捨てると、代わりに経済成長を支えるハイテク産業は充分に成長していない現状では、広東省に産業空洞化も起こりうる。
- 産業の高度化は数年間かかることを考えて、輸出産業の経営難はしばらく続くであろう。
