経営難にあえぐ中国の輸出企業
発行日 2008年7月10日
主席研究員 金 堅敏
「悪化」する経営環境
- 米サブプライムローン危機に端を発した外部環境の悪化に加え、中国国内における以下のような政策調整は中国で活動している外資企業に大きなインパクトをもたらしているが、地場輸出企業の経営により大きなプレシャーを与えている。
- 1. 人民元の切上によるコスト高
05年7月21日に人民元相場の制度改革開始以降、ユーロに対しては6%切り下がったが、対米ドルは15.2%、対円は13.6%上昇した。中国の輸出企業の利益率は平均で10%前後、中小輸出企業に至っては60%の企業が5%以下となっているので、人民元切上の影響、特に米国や日本市場に特化している輸出企業への影響は大きいと考えられる。 - 2. 輸出還付税の引下げによるコスト増
「減順差」(貿易黒字削減)を通商政策の最優先課題として掲げた中国は、07年7月1日から553種類の「両高一資」製品(高エネルギー消費、高汚染物質排出、資源多消費)の輸出税還付を廃止し、繊維など2,268種類の労働集約製品の税還付を引き上げた。平均で3%~8%のコスト増(或いは利益減)となった。 - 3. 労働力コストの上昇
毎年行われる法定最低賃金の引上げ、08年1月1日に施行される「労働契約法」による社会保険加入の義務化や残業代支払の厳格化により労働コストは平均で15%以上(現地ヒアリングでは80%以上のコスト増も聞かれる)となる。 - 4. 原材料・エネルギーなどの価格上昇
自由化されている原材料価格の上昇は急ピッチである。例えば、08年3月の鋼材価格は昨年同期比36%と急増した。インフレ抑制のための価格統制で石油製品と電力は抑えられていたが、急速な原油高に耐え切れず、08年06年20日にディーゼルは18%、ガソリンは16%も値上げした(産業電力価格は4.7%の引上げに止まった)。規模の大きい企業は原材料の大規模調達や最終製品の価格転嫁で価格上昇インパクトをある程度吸収できたが、中小企業は丸受けとなった。 - 5. 「実質」金利急上昇
経済過熱にインフレ進行が重なり、中国では金融引締政策が実行されている。大手企業では株式上場や社債発行、銀行からの融資が優先的に受けられるが、金融引締政策の影響を一番受けているのは中小企業である。地下金融が横行している温州市などでは、銀行貸出金利の4倍~10倍で資金の貸借が行われているという。 - 6. 環境コストの内部化政策によるコスト上昇
中国は、03年7月1日から汚染物質排出企業に対して排出量に応じて「排汚費」を徴収しはじめたが、徴収単価は低かった。しかし、近年環境コスト内部化政策を厳格に取り始め、徴収単価は大きく引き上げられた。例えば、07年7月1日から江蘇省「排汚費」単価では排ガスは100%、排水は30%も引き上げられた。
中国輸出企業への影響
- 以上のような環境の「悪化」は、労働集約的な中小輸出企業の経営を圧迫しはじめた。例えば、紡績業の盛んな江蘇省呉江市盛澤鎮では中小企業の30%以上を占める数百社の繊維企業は倒産・廃業した。また、広東省にある5,000社の靴メーカーのうち07年で約1,000社が閉鎖した。また、中国輸出全体の伸び率(1-5月)は、23%で昨年の25.7%より大きく低下していないが、アパレル製品の輸出伸び率は9.3%で昨年同期の15.4%と比べ低下率が倍以上である。輸出伸び率が維持されているのは、輸出企業の利益率の低下という犠牲の上に成り立っている。
- 中国最大の影響力を持つ中央電視台は、08年11から15日まで四夜連続で「輸出企業生存調査」(繊維企業、製靴企業、製皮企業、家具企業)の特別番組を組み、労働集約的輸出企業、特に中小企業の惨状を放映し、視聴者に中国製造業の将来を考えさせた。
中国政府と中国企業の対応
- 中国の沿岸部では、05年ごろから「騰籠換鳥」戦略(限られた発展空間に低付加価値産業から高効率で高付加価値産業を入れ替える戦略)を取り始めたが、目だった成果はなかった。ただし、07年半ばから矢継ぎ早に打ち出された政策転換で企業の変革を強く促す中国政府の決意は固かった。実際、中国商務部は06年1月に「万商西進」計画(3年の時間をかけて1万社の外資企業・東部企業が中西部に投資する計画)や07年11月に「加工貿易傾斜移転活動」計画(加工貿易を沿岸部から内陸部への移転計画)を打ち出して製造拠点の内陸部への拡散を促している。他方、広東省は珠江デルタの労働集約産業を省内の山間地区への移転計画を出しており、地方レベルでも産業の地域調整政策を見せている。
- 政策に頼れなくなったと悟った中国の輸出企業も積極的な戦略転換を模索しはじめた。コスト削減・新設備導入による効率改善、新製品開発等の技術革新、低コスト地域(内陸部と後発国)への移転、人民元やユーロ等強い通貨による決済、新興市場開拓、輸出から国内市場への転換、M&Aを通じた組織再編、業種転換など様々の対策が見られる。
