米中戦略経済対話を読む
発行日 2008年6月27日
主席研究員 金 堅敏
「米中戦略経済対話」の背景と経過
- 「米中戦略経済対話」(US-China Strategic Economic Dialogue: SED)は、米国の対中貿易赤字が急増し、中国政府による「為替市場操作」への制裁論議が高まった背景の下で米政府の提案により設置された米中間経済政策フォーラムである。米側は、フォーラムを通じて影響を与え自国有利の方向に中国の経済政策を変化させようとしている。他方、中国側は、フォーラムを米不満のはけ口として活かし経済問題の政治化を防ぎ、メンバーではなかったG8の代わりにG2(中国・米国)スキームを模索しようとしている。米経済学者C.Fred Bergsten(Peterson Institute)もG2構想を提起している。
- 06年12月北京で第一回目が開催されて以降、第2回目(07年5月22日、ワシントン)、第3回目(07年12月、北京)、第4回目(08年6月、米メリーランド州アナポリス)と、米中交代で年2回開催されている。各回のSEDには両国の主要閣僚が顔を揃えた。
- 米中SEDの議題は人民元切上、貿易不均衡の是正、中国の知的財産権侵害問題、市場開放であったが、第3回のSEDは中国製品の品質や安全性問題も大きく取上げられた。
新たな動きを見せた第4回「米中戦略経済対話」
- 第4回SEDの重要な議題は、マクロ経済政策、市場開放、エネルギーと環境分野の協力、貿易と投資拡大などであった。これまでは、人民元レートの問題、中国市場の閉鎖性、中国における知的財産権侵害問題、中国製品の安全性問題など中国の政策が議題の中心であったが、今回は、米サブプライムローン問題や米ドル安、原油価格高騰など、米国内の政策イシューやグローバルイシューも議論の的となった。中国の政策担当者に対する一方的な「説教」からお互いにより「平等」な立場で対話ができた。
- ただし、今回のSEDでは、『米中エネルギー環境10年協力枠組み協定』の調印と米中相互投資協定締結に向けた交渉開始の合意と言った実質的な成果を見せたが、為替問題、貿易不均衡問題、金融市場開放問題など重要な議題について新たな進展はあまり見られなかった。ブッシュ政権の終期に近づき、双方が即効性のある結果よりも中長期で戦略的な対話を好んだ。特に、中国側は、新政権の下でSEDフォーラムが継続されるかどうかを見極めたいと考えている。
- 脇役であったエネルギー環境問題が合意できたのは、米中の利益対立が少なく世界第1・2位のエネルギー消費国としての共通の利益があったからであろう。米中間の「緑色同盟」(グリーンアライアンス)が例えられている。ただし、エネルギー分野の対話において米国側から中国のエネルギー戦略備蓄計画の透明性問題が提起された。また、中国国内のエネルギー電力などの価格規制についても問題視した。中国対外経済政策から国内政策へシフトしはじめた米国側の思惑が見て取れた。
- 中国企業による対米投資の加速は、これまで米企業による対中投資一辺倒を双方向に向かわせた。したがって、相互投資協定締結交渉開始の合意は双方の要請に応えている。米系投資ファンドによる中国企業買収や中国の政府系ファンドなどによる対米投資の困難さはお互いの投資を阻害している。また、金融市場開放との関連で米中間の駆け引きも第4回SED開催直前で見られた。2年前に停止していた外資系金融機関の中国証券業への進出認可を再開したが、6月15日に認可されたのは、数年前申請した米シティやモルガン・スタンレーではなくクレディ・スイスであった。それと対抗するように米連銀は中国工商銀行と建設銀行の米支店設立申請を却下したという。投資摩擦は貿易摩擦とともにキーイシューになった。
- 米中貿易不均衡問題については、中国側統計によると、08年1-5月に対米輸入伸び率26.3%は対米輸出の伸び率9.1%を上回ったが、貿易黒字額は削減するところか、1.2%増えた。中国は第4回SEDのタイミングに合わせて120社以上の中国企業を訪米させ、米企業から136億ドルに上った商品購入や技術導入などの商談を成立させ、対米貿易不均衡是正に一層努力しているとアピールした。他方、米国によるハイテク及び製品の輸出規制が米中貿易不均衡をもたらした要因であると中国側は声高に注文をした。米側も中国側の努力を評価し、対中輸出も高い伸び率を見せているのでこれ以上の問題提起はしなかった。
- 議題が逆転したのは、為替イシューについてであった。米国側は、人民元切上問題(05年7月以降20%以上切上げ)よりもドル安による国際為替システムの不安定や商品価格高騰に悪影響を与えたという中国側の指摘への説明に追われた。また、マクロ経済政策において米国側は、中国側に対する「説教」からサブプライムローン問題に伴う政策や監督の失敗という苦言を飲んだことも対話のイニシアティブシフトを物語っていた。
米中戦略経済対話の行方
- 中国は、主要経済パートナーであるEU、日本などとも戦略経済対話のスキームを立ち上げており、対米SEDを継続させる意識は強いが、結論は米新政権しだいである。ただし、経済問題が米新政権の取組むべき最大な政策課題である以上、名前は別として実質的なSEDという対話の枠組みは必要であろう。
