中国の環境税導入の難航と問題点
発行日 2008年2月8日
上席主任研究員 柯 隆
環境税の導入と3つの素案
- おおよそ10年前から環境税の導入が検討されてきた。環境公害問題の深刻化を考えれば、環境税の導入はやむを得ないことと思われる。しかし、環境税の導入はすでに時が熟しているといわれているが、実際の問題としてはそれほど簡単なことではない。
- 中国では、環境保護行政を担当するのは国家環境保護局であるが、部(省)に昇格されておらず、行政的権限は限定的である。現在、環境税の導入は財政部(財務省)、国税総局と国家環境保護総局の合同作業になっている。歳入を確保したい財政部と徴税コストを心配する国税局と環境保護の実効性を高めなければならない環境保護局のそれぞれの考え方は明らかに異なる。
- 05年から国家環境保護局中国環境規画院は「中国環境税収政策枠組み設計と実施戦略」の研究プロジェクトに取り組んできた。同プロジェクトには、環境保護局の専門家のほかに、財政部科学研究所、国税総局科学研究所と中国社会科学院財政貿易研究所の専門家も参加している。
- その研究成果として3つの素案が提起されている。一つは広義の環境税の導入である。これは受益者負担の理念に立脚し、国民から幅広く環境税を徴収する考えである。もう一つは汚染物質排出税である。これは企業や家庭の汚染物質排出量に応じて徴税するという考えである。さらに、環境汚染製品に対する課税である。たとえば、燃料税や化学肥料・農薬に対する課税はこのカテゴリーに入る。
- 環境税に関する3つの素案が提起されたが、そのフィージビリティは十分に立証されていない。もっとも環境税が導入された場合、企業がその税負担を安易に消費者に転嫁する可能性が高く、実際の環境保護効果は疑わしい。そして、汚染物質排出税の場合、汚染物質排出量を正確に計測するのは難しく、実際の徴税は難航すると予想される。
- 何よりも懸念されるのは、環境税の導入が歳入確保を目的とし、実際の環境保護は二の次になる恐れがあることだ。現在、中国はカネがないわけではない。国税総局の速報によると、07年の税収総額は約5兆元に上り、前年比31.4%も伸びた。それのGDPに占める割合は20.1%に達する。したがって、中国にとって環境保護の制約は資金不足ではなく、行政と企業の環境保護意識の欠如にある。こうした本末転倒の状況に陥らないように、環境税の導入の有効性を担保する制度基盤を構築していかなければならない。
環境行政の改革と市民運動の重要性
- 現状において環境破壊が進む背景に、経済成長に偏重する政府の姿勢、環境破壊企業や団体への監視・罰則の怠り、環境保護の国民意識の遅れなどがある。結果的に過去30年間の年平均経済成長率は10%近くに達する半面、大都市を中心に大気が重度に汚染され、都市部を流れる川の90%は下水溝と化している。
- 今回、環境税の導入が検討されたのはこうした背景があるためである。一部の主要都市では、環境保護を目的とするNGOが組成されている。しかし、有害の化学物質を垂れ流しする悪質な企業に対する罰則が不十分であるため、環境破壊の行為は日常茶飯事になっている。黄河も長江も巨大な下水溝と化しつつあるなかで、沿岸の住民がその水を飲料水に使っていることを考えれば、まさに待ったなしの状況といえる。しかし、社会の暗部の報道が社会不安を引き起こす恐れがあるとして、厳しく制限されているため、マスコミによる監督機能も限定的である。
- 環境保護局は企業から「排汚費」(汚染物質排出費)を徴収しているが、それ以上のことはほとんど何もしない。こうした現実を考えれば、環境税の導入は単なる国民の税負担を増やすだけで、環境の改善にほとんど寄与しないと批判されてもしかたがない。
- 4月、胡錦濤国家主席は訪日の際に、環境・省エネ技術面の協力を要請するものとみられるが、設備と技術面の協力だけでは不十分である。近年、国民の環境保護意識の高まりに伴い、環境保護局の存在が以前より重要視されているが、その業務執行能力は限定的である。具体的な制度改革として、環境保護行政の権限と責任を明確化し、環境汚染企業と団体に対する罰則を厳格に実行することが重要である。「科学的発展観」を打ち出した胡錦濤政権は国民の環境保護の意識を呼び起こすためのトップダウンの改革を決断すると同時に、NGOによるボトムアップ的な大規模な市民運動を奨励すべきではなかろうか。
