タイにおける日系企業の経営活動の実態(3)
発行日 2006年12月22日
上席主任研究員 金 堅敏
D社(バンコク、製造拠点Rayong)
- D社は、1993年4月に本社100%資本により設立された化学素材製造会社である。タイの投資誘致ゾーニングのゾーン2に当たり、タイの石油コンビナートがある地域である。近くには、ラムチャバン港というタイ唯一の工業製品専用港(取扱量の世界ランキング19位)がある。
- D社は、製販分離の形を取っており、製品の1/3は中国へ輸出し、2/3はタイ内販である。製品の応用分野は主に家電などである。利益率は内販の方が高い。原料は、すべて自社のシンガポール製造子会社から調達している。
- 120名の従業員のうち、大卒が80%で、残りの24名は高専卒・短大卒等のオペレーターである。スタッフの中に中国系が多い。日本人駐在員は2.5人(社長は、バンコクにある販売会社の社長を兼任している)である。装置産業であるので、社員数は少ない。従業員の離職率も非常に低い。むしろ、適正流動性がないと、従業員構成のアンバランスになってしまう懸念があるほどである。
- バンコクの法定最低賃金は191THB/日(約5.2ドル)に対して、生産現場の法定最低賃金は165THB/ 日(約4.5ドル)である。D社の高卒の初任給は162ドル(法定最低賃金+α)で、大卒の初任給は324ドルである。マネジャー級では、1,351ドル~1,622ドル前後になる。給与上昇率は物価上昇率とリリンクした5%前後である。社員寮は用意していないが、基本給の15%を住宅手当として支給する。
- 技術流出問題は確認されていない。優秀なスタッフばかりで給料も高目設定なので流動性も低く、技術流出の懸念もない。
- 組合は組織されていないが、労務問題もない。従業員とスムーズなコミュニケーションが取れれば、労務問題は爆発しないはずである。ただし、タイでは、労働紛争の判決は基本的に労働者側(ほとんどの判決は労働者勝訴である)に有利である。
E社(統括会社:バンコク、製造拠点:地方)
- E社(統括会社)は、傘下に1996年に本社により設立された3つの製造企業を有する。企業1(売上高70~80億円)は、100%自社資本であるが、企業2(売上高330億円)は、当初地場大手化学素材メーカーとの合弁企業であったが、現在は相手出資分を買取り、100%日系企業となった。企業3(売上高120億円)は、73%の出資企業であり、その他は台湾などの外資資本である。
- 各拠点の輸出/内販比率は異なるが、全体では、輸出と内販は半々である。内販の顧客は、ほとんどローカル企業である。タイに競争するメーカーはいないが、関税の低下により輸入品と競争している。前払い制度を取っているので、代金回収問題はない。先行者の利益を享受していると自負している。
- 原料の現地調達率も各拠点により異なるが、平均的に50%前後である。アンモニア、ベンゼンなどは、日本、マレーシア、インドネシアなどから輸入している。
- 三拠点を統括(販売を含む)する社長(CEO)はタイ人であり、本社の常務執行役にもなっている。各拠点には副社長を含め、2人の日本人駐在員を配置している。三拠点合計の従業員数は560名で、うちオペレーター350名(安全性や技術要求が高いので、オペレーターも高専卒、短大卒を採用する)、スタッフ200名である。
- 従業員の離職率は3%前後である。組合はないが、社長がタイ人なので社員とのコミュニケーションがうまく行われている。また、社内のキャリアアップの道が開かれているので、従業員の定着に寄与していると思われる。
- 高専卒の初任給は、230ドルで、大卒初任給は622ドルである。マネジャー級では、1,081ドル~1,622ドル前後となる。給与上昇率は6%前後である。
- 技術流出問題はない。秘密保持契約により、合弁相手への違法流出の懸念はない。
- 電力や水不足問題について過去はあったが、現在はない。経営環境は日本と変わらない。
- その他:E社の社長は、タイ人で米国留学修了後(化学マスター)、米系企業に一年間在籍、その後、E社の合弁相手代表として合弁企業2の社長に就任、合弁相手企業倒産による資本関係変更でE社に留任、能力や人格が評価され、現在のポストについた。
- その他:タイに独立法人格の技術センター(アジア)を設立して高付加価値の技術開発の展開を始めたところである。
