華南地域における日系製造企業の経営活動の実態(2)
発行日 2006年11月17日
上席主任研究員 金 堅敏
ケーススタディ:B社(深セン)
- 中国における本社の主要な生産拠点は、深セン市と広州市にある両拠点であり、販売拠点は、上海(内販)と香港(輸出)にある。今回訪問したB社(深セン)は、デジカメのユニット(レンズユニット、モードユニット)及びオーディオ部品を生産する技術集約的な拠点であり、これらのユニットや部品を「転廠」(内部取引として付加価値税納付必要ない手法)して広州工場で製品(デジカメ等)に組み立てる。したがって、広州工場(従業員約4,500名)は労働集約拠点である。深センと広州との賃金差を狙った工程配置戦略である。
- 2006年本社の中国での生産出荷額は1,000億円近く達しており、中国での生産額は、全社の4割近くで光学ユニットでは9割に達している。ただし、中国市場での売上高は、1割に止まっている。
- 1992年4月に100%資本で設立されたB社(深セン)工業は、深セン経済特区内の工業団地に立地している。製品は、2002年ごろはデジカメ製品の輸入関税が45%であったため、現地生産・現地販売であったが、WTO加盟により2005年にはデジカメ製品が関税ゼロになったので、形式上は100%輸出(保税扱い、EDIオンライン処理)である。
- 現在の具体的な事業内容は、技術開発、購買活動(発注、図面作成など)、レンズ生産、鏡枠・外長生産、金型設計・製作、レンズ・ファインダー・光学ユニットの組み立て、光学測定と設備の設計、製作、評価等である。
- 素材・中間財・部品の調達は、日本から20%、香港から80%(うち、中国から40%、東南アジアの日系・台湾系現地企業から40%)である。中国現地の部品は安いが、品質問題に懸念があり、現地調達率が高められないゆえんである。
- 社内には技術開発部門が設置されており、約100名の開発スタッフが配置されている。本社のアジア地域の技術センターとして機能している。スタッフのうち30名は日本での研修を受けていた。
- 現在、B社(深セン)の従業員は、9,606名いるが、3,000名前後は3ヵ月契約の派遣社員である。15%は大卒・大専卒(3年制大学卒)、残りは高卒・中専卒(専門学校卒)である。日本人駐在員は26名でうち3人は現地採用である。購買、財務、品質の三部門の部長以外に生産関連の部長はほとんど現地化された。しかも、製品の品質問題はほとんどない。むしろ、下流の顧客からも高く評価されている。
- 大卒の初任給は2,550元で、マネジャーは7,000~8,000元である。高卒は810元(現在の特区内最低賃金810元と同額であるが、当社の4月の賃金改定で最低賃金の調整は6月であるので、同額になった)。ワーカーの賃金上昇率は法定最低賃金上昇率と比例しているが、技術者・スタッフの賃金上昇は3~4%に止まっている。
- ワーカーの離職率は、36%前後(年率)で、技術者・スタッフの離職率は14%前後である。人事面で成果主義などを取り入れ、定着率の向上に努めている。ワーカーの採用方法はA社(深セン)(TOPICS No.44を参照)と同じであるが、技術者・スタッフの募集はインターネットで行う。
- 知財の違法流出問題は確認されていないが、特に金型設計・製作、レンズの製作に関する技術・ノウハウ流出の懸念はある。ただ、特定エリアへのアクセスの制限などの対策は取っている。また、技術的に1人では生産が確立できない仕組みにしているので、流出しにくい。
- 経営活動の中で反日感情は感じていない。
- 地域の電力会社と協議により停電はないが、自家発電設備は備えている。
- 特に課題は感じてないが、税務局や税関との手続き上に煩雑さを感じる。また、政策上も外資を選別しているので、政府から積極的なサポートは期待できなくなっている。
まとめ
- 企業が経済特区内外に立地するメリットに大きな差はなくなっている。むしろ、開発区に入ることによって、電力の安定供給メリットがある。
- 華南地域のワーカーの離職率は極めて高いが、現地労働部門と内陸部労働部門の連携により離職も補充も計画的に行われているので、ひと手不足で生産が影響するほどの問題になっていない。むしろ、生産調整にあわせて大量の派遣社員が使えるという労働契約の弾力性を活用している。また、日系製造企業の間にはワーカーの入れ替わる激しい状況で品質確保できる仕組みができている。
- 大卒初任給は他の地域と比べても高くないし、賃金上昇率も低い。大学卒業生就職難という状況と一致している。また、華南地域では、現地採用の日本人が数多く活躍している。
