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労働組合の設立で揺れる外資

発行日 2006年11月2日

上席主任研究員 柯 隆


中国では、官製の労働組合組織「工会」は労働者自らのものというよりも、国有企業を中心に、労働者の福利厚生を担当し、同時に、共産党に代わって労働者を管理するためのものである。憲法では、ストライキやデモの権利が保障されているが、実際には、社会の安定を脅かす行為として禁止されている。

労組設立に関する政府の方針転換

  • 外国企業にとって、中国に労使紛争は存在せず、従業員の賃上げは基本的にインフレ率に比例して調整されてきた。台湾や香港の企業を中心に、労働者の権利が「労働法」によって十分に保障されていないことを利用して、労働者、とりわけ、出稼ぎ労働者に劣悪な労働環境を押し付けてきた。
  • 胡錦濤・温家宝政権になってから、調和の取れた社会作りを行うとして、労働者のこうした不満に耳を傾けるようになった。その重要な方針転換は外国企業のなかで労働組合の設立を求めているのである。このことによって中国の低賃金を狙う外国企業の直接投資に変化が生じるのかもしれない(在中国香港商会)。なぜならば、労働組合は経営側が提示する賃金に不満があれば、ストライキを敢行することができるからである。その結果、中国のブルーカラの賃金が上昇し、外国企業にとって工場としての中国の魅力は低下する。
  • 中国の政策転換に対して、もっとも恐れているのは、台湾や香港の企業である。同時に、韓国系企業も神経質になっている。かつて、韓国では労働組合の強烈な賃上げ運動は韓国企業に大きなダメージを与えた。中国では同じことが起きないように、「韓国の労働組合の歴史を中国は見習うべきだ」と苦言を呈している。
  • 本来ならば、中国が市場経済を導入する以上、労働者の権利を維持する労働組合の設立は当然のことである。その役割として、労働者が経営側に不当な扱いをされたとき、労働組合は労働者を代表して経営側と交渉し、自らの権利を守ることである。しかし、外国企業がもっとも恐れているのは労働組合が過激な行動に出るのではないかということである。
  • すなわち、これまで労働組合が設立されていなかった状況下で、労働者に対する賃上げは実質的に経営側に任されていた。これから労働組合が誕生すれば、賃上げ要求が激しくなり、経営側がそれへの対応に追われると予想される。これまでのところ、外国企業は労働者の賃上げ要求に応じなかったとして、労働者の自発的なストライキが多数起きている。そのうちの一部は、労働契約を巡る解釈の違いや休日出勤の手当ての支給を巡る問題だった。

労組との友好関係の構築

  • 労働組合が設立されない状況下で、労働者の不満やストレスはすでに「爆発」する寸前に来ている。それを察知した胡錦濤・温家宝政権は労働組合の設立を認め、労働者の不満を和らげようと努力している。実は、中国社会の不満は単なる経営側に対するものだけではなく、政府に対する不満も高まっている。一歩間違えば、経営側に対する労働者の不満が共産党・政府に飛び火する恐れがある。
  • しかし、だからといって労働組合の設立を禁止し続けるわけにはいかない。恐らくは中国政府の狙いとして、労働者に過酷な労働条件を押し付ける外国企業に改善を求めるために、労働組合の設立を認めたのであろう。その他の大半の外国企業は法律を守っており、労組が設立されても、苦しい立場に追い込まれることはない、と政府は考えているようだ。
  • 実際、一部の悪質な企業を除けば、外国企業の大半は法律を守っている。労組が誕生しても、経営側と労働者側の関係悪化を阻止したいのは外国企業の本音である。中国では市場経済の経験が浅く、労働者らがちょっとした噂で過激な行動に走る恐れがあるのは事実である。こうしたなかで、外国企業にとっていかにして労組と友好な関係を築き上げるかは課題である。
  • そのなかで、日系企業はもともと欧米系企業に比べ人気が低く、日本人経営者と現地の従業員とのコミュニケーションが十分に取れていない、という問題を抱えている。日本企業の企業文化として、経営側と従業員の関係について運命共同体を構築し、紛争よりも協力して困難を乗り越えることである。しかし、こうした愛社精神を育成する前提として、相互の信頼関係を構築し、経営側と従業員が同じボートに乗り、公正で風通しのよい経営が求められている。