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中国における労働力過剰と人材不足のディレンマ

発行日 2006年9月29日

上席主任研究員 柯 隆


公式統計によれば、中国の失業率は4.2%である。常識的に考えれば、決して高い水準とはいえない。しかし、この失業率の定義は都市部の失業登録者に限定したものである。登録できない者と農村部の失業者を含めれば、失業率は20%近くになる(都市部の登録労働人口1億9,000万人に対して、2,100万人が失業状態にある。農村部に4億9,000万人に対して、1億人以上は失業状態にある。したがって、失業率は最低でも17.8%になる)。


過剰労働力のプレッシャー

  • ワシントンのブルッキングス研究所で開かれた講演会で、中国の労働社会保障大臣田成平は次のように述べた。「中国の都市部で毎年2,400万人の雇用需要がある。実際に就職できるのは1,100万人程度であり、残りの1,300万人は就職できないでいる。そのうえ、農村部には、4億9,700万の労働力がいる。2億は出稼ぎしており、1億8,000万人は農作業に従事している。このようなアバウトな計算でも、なお1億人の農民は余剰労働力になっている」。
  • 中国政府は雇用を創出するために、3万6,000ヶ所の職業紹介所を設立した。これらの職業紹介所では、雇用に関する需要と供給のミスマッチを解消するための努力をするほか、国有企業からレイオフされた労働者の再就職を助けるために、職業訓練を無料で実施している。
  • 問題は、投資主導の経済成長のもとで労働集約型の産業は競争力を失い、産業構造の高度化が遅れることになる。しかし、労働生産性の向上により、失業問題はいっそう深刻化している。本来ならば、中国のような人口の多い国では産業構造の高度化を図ると同時に、繊維アパレル産業のような労働集約型産業も維持していかなければならない。これは中国にとってまさにディレンマになっている。

人材不足の制約

  • 一方、中国に投資している外国企業の多くは人材不足という悩みを抱えている。とくに、エレクトロニクスのような技術集約型の企業は熟練技術者を募集しても、企業からみて、満足できるレベルに達している者が少ない。こうしたことを背景に、近年、熟練技術者とマネージャになる人材が不足し、それによって人件費が上昇傾向を辿っている。
  • 日系企業はその企業文化から賃金のベースアップのスピードが遅いため、一般的に、中国の大学生の間で人気は高くない。欧米系企業は能力主義と成果主義を徹底しているため、賃金のベースアップが早い。結果的に、優秀な人材は日系企業から欧米系企業へと流れている。
  • むろん、欧米系企業にとって悩みがないわけではない。優秀な人材をヘッドハンティングする動きが盛んになっていることで、欧米系の企業でも離職率が高いレベルで推移している。たとえば、システム・エンジニアになれば、離職率は軒並み20%を超える。
  • こうしたなかで、地場企業は優秀な人材を定着させるために、あの手この手で努力している。企業にとってもっとも重要なのはチームを束ねるマネージャである。マネージャの離職を防ぐために、会社の株式を購入できる権利であるストックオプションを与える企業が少なくない。とくに、地場企業の多くは規模が小さいため、賃金水準のレベルで欧米系や日系企業と互角な競争はできない。ストックオプションの付与や仕事の自主決定権の拡大などで職場への定着が図られている。これらのやり方は日系企業にとっても大いに参考になると思われる。
  • そのほかに、仕事のやりがいを強化することも重要である。中国で実施した企業調査で明らかになったことだが、ホワイトカラーが離職する一番の原因は給料に対する不満ではなく、仕事の内容に不満を持つからといわれている。とくに、開発系の企業の場合、手持ちの仕事が終了し、新たな仕事がまだ受注できない「谷間」に、優秀な人材の離職がもっとも多い。
  • 最後に、仕事に対する評価である。日本の企業文化の影響で従業員に対する評価は一般的に公表されない。マネージャの裁量に委ねられるケースが多い。しかし、中国の国民性から、日本企業の「秘密主義」にどうしても抵抗感を感じざるを得ない。欧米系企業の場合、全従業員の評価を公示することが常識になっている。それに対する不満があれば、従業員は上告できる。それによって、評価するほうも評価されるほうも適度な緊張感が保たれ、業績向上に寄与すると考えられる。日本企業は自らの企業文化を大切にすることが重要かもしれないが、進出先の市場ニーズに対処するために、経営の現地化が求められている。