同床異夢の米中関係
―対立と協調、では日中関係は
発行日 2006年5月12日
上席主任研究員 柯 隆
昨年秋ハリケーン・カトリーナにより延期された胡錦濤国家主席の訪米がようやく実現した。ブッシュ大統領と胡錦濤国家主席の首脳会談は、協調ムードの中ワシントンで行われた。
ブッシュ政権の対中姿勢変化の背景
- 二期目を迎えるブッシュ政権には、イラク問題、北朝鮮問題、イランの核開発問題など外交上の難問が山積している。こうしたなかで中国との対立を回避し、国際問題の解決に取り組むには米中の協調が不可欠である。また、今秋の中間選挙に向けて対中貿易赤字の削減や人民元の問題など議会からの注文も多い。一方、胡錦濤政権にとって、アメリカとの貿易摩擦、知的財産権保護問題などの経済問題に加え、独立志向を強める台湾の陳水扁政権を封じ込めるために、アメリカの協力が不可欠である。
- 首脳会談のあとに行われた記者会見で分かるように、米中の協調姿勢が再確認されたものの、政府レベルでの協力拡大には実質的な進展がなかった。とくに、イランの核開発問題や北朝鮮問題など、アメリカの注文に対して、中国は従来の見解を繰り返しただけであった。これに対して、ブッシュ大統領は台湾問題に関し「台湾の独立を支持しない」と明言したものの、それ以上踏み込んだ発言を避けた。
- いわば、同床異夢の米中関係において、両首脳はそれぞれの国内事情によりこれ以上踏み込んだ発言をすることはできなかった。アメリカにとってアジアにおける利益を確保するために、日本がもっと積極的な役割を果たしてもらいたいが、小泉政権は内政問題に没頭し、アジア外交を積極的に展開する意志はないように見受けられる。
- とはいえ、ブッシュ政権はアジア問題にこれ以上エネルギーを使う余力はない。結局のところ、北朝鮮問題の解決に向けて6者会談の枠組みで中国の努力に期待するしかない。その見返りとして台湾の独立を支持しないと明言したのであろう。中国にとってはブッシュ大統領からこのような発言を引き出すことでとりあえず満足できたようだ。
功を奏する中国の経済外交
- むろん、中国もブッシュ大統領の立場、すなわち、秋の中間選挙を乗り越えなければならないことを十分に理解している。それもあって、呉儀副総理はミッションを率いてアメリカで162億ドルに上る大型買い付けを行った。実は、このような米議会への対策は大型買い付けだけではない。
- 2月下旬から呉儀副総理を筆頭とする商務委員会は、知的財産保護のキャンペーンを大々的に繰り広げた。また、米議会からの批判を和らげるために、中国に対する制裁関税法案を提出しようとしたシューマンなどの強硬派議員を北京に招待した。わずか1週間足らずの滞在だったが、帰国後発言のトーンは大きく変わった。
- もっとも特筆したい点は、呉儀副総理は買い付けミッションに国家質量管理局長を同行させ、BSE問題で輸入が禁止となった米国産牛肉の輸入再開を検討していることを示唆した。全米において牛肉をもっとも多く輸出しているのはブッシュ大統領の古里であるテキサス州である。中国外交の用意周到さを物語っている。
- 胡錦濤国家主席はワシントンを訪問する前に、シアトルに立ち寄り、ボーイング社やマイクロソフト社など米国の代表的な企業を訪問し、ビル・ゲツCEOの自宅を訪れるなど、いわば経済外交を展開した。
- また、胡錦濤国家主席はエール大学で行った講演のなかで、米中が過去の戦争では同盟国だったことを強調した。米中両国の相互理解を深めるために、大統領やノーベル賞受賞者を輩出してきたエール大学生を100人北京に招待することを突然発表するというパフォーマンスも行った。
- 他方、胡錦濤の訪米に先立ち、4月10日ワシントンでブッシュ大統領は日中関係の改善がアメリカにとっても大きな利益となることを明言し、日中の関係改善を促した。実際に首脳会談のなかで日中問題が再度取り上げられると期待されていたが、ブッシュ大統領はそれについては言及しなかった。
- 小泉政権はアジアにおいてアメリカが期待するほどの役割を果たしてない。過去1年間ブッシュ大統領と胡錦濤国家主席は5回会談を行ったのに対して、日中の首脳は相互訪問すらできない状況にある。日米・米中関係がそれぞれ新たな展開を見せるなかで、日中関係は未だ改善の兆しさえみえない。
