ヒートアップする中国の企業の社会的責任(CSR)運動(2)
発行日 2006年1月20日
上席主任研究員 金 堅敏
中国のCSR運動ヒートアップの背景:内部要因
- 中国では、20数年続けてきた経済開発優先政策の「ツケ」が顕在化した。つまり、経済開発一辺倒で生じた「拝金主義」が蔓延し、信用喪失、偽帳簿・脱税の多発、偽物・コピー品の氾濫、出稼ぎ者権利の無視、鉱山爆発による死傷者の多発、貧富の差の拡大等で生じた社会矛盾は限界に達している。
- また、「小さな政府」、「サービス政府」の実現で、企業への社会的監視が欠如するようになっている。さらに、国有企業失敗の原因の一つとされた企業の加重な社会的負担は取り除かされなければならない。国有企業改革の過程で中国社会は、企業に社会的責任を求めなくなってきた。
- 胡錦涛政権は、歪みをもたらした経済開発一辺倒の政策から「調和の取れた社会建設」へと、いわゆる「黒猫白猫論」の修正を加え始めた。つまり、企業に計画経済時代の「社会的負担」ではなく市場競争社会の「社会的責任」を求め始めたのである。
「企業責任競争力論」の提起
- 他方、中国企業の大半は、いまだにCSRを企業の負担として見ている。製品販売のためにはCSRの審査や認証を受けざるを得ないと消極的な対応を見せている。
- これに対して数は少ないが、一部のエコノミストや企業家は、CSR基準・規格を国際社会に認められるグローバルな競争ルールと見なし、企業の社会的責任能力は競争力の要素を構成すると理解し始めている。つまり、「責任能力は、企業競争力の重要な構成部分であり、社会的責任能力のない企業には競争力がない。競争力のある企業は社会的責任を基礎と前提にしている」という「企業責任競争力論」、或いは「軟競争力」(Soft Competitive Advantage)を提起している。
- つまり、中国企業は競争力アップの一環として、コストカットから品質向上、マネジメント強化、設計の改善、市場開拓、R&D活動への投資へと順次取り組んできたが、現在は、CSRに取組む段階にきている。
中国の取組み
- CSRは貿易保護主義の道具になってしまう懸念を有するが、中国はCSR運動には積極的に取組みはじめている。例えば、CSRの原則となる国連のグローバル・コンパクトには好意的である。しかし、いろんな組織で制定された400を越えるCSR基準・規格は企業に加重な負担を強いるので、むしろ基準を統一化し実施したほうが低コストであると理解している。また、ISOによるCSRの基準化(ISO26000)についても反対しない方針である。
- 実際、アパレル業界のほかに中国の諸官庁の間ではCSR取組みを巡り主導権争いを見せている。

- 商務部系の「中国企業責任発展中心」は、2005年9月に「中欧CSRフォーラム」を組織主催し、100社に上る『中国企業社会責任建設北京宣言』を採択。
- 民政部系の「中国社会活動協会」は、2005年11月に「企業市民委員会」を立上げ、内外企業190社による『企業市民宣言』を採択、CSR活動ベスト30社を表彰した。
- 国家発展改革委員会系の「中国企業改革与発展研究会」は、2005年12月に「中国企業社会責任連盟」を発足させ、自称初めての『中国企業社会責任基準体系』(案)を公表するとともに、CSR活動企業ベスト10とCSR活動人物ベスト10を表彰した。
- 国家環境保護局系の「環境与開発研究所」は、1994年に設立され、「中国企業社会責任網 CSRNet」(www.csr.ied.cn) というWebサイトを立上げ、中国におけるCSRの啓蒙運動を推し進めている。
多国籍企業にCSRを求め始める
- 中国は、贈収賄の助長、不健全な租税回避行為、市場独占行為、労働基準回避行為等に見られるように、中国の未成熟さに付け込んだ経営をしている多国籍企業があることや、「調和社会」実現に多国籍企業からの協力が重要であることから、多国籍企業にCSRを求め始めている。
- 一部の多国籍企業は、中国の動きを利用すべく、自社のCSR活動を競争力向上に結びつかせ、中国社会におけるイメージ向上に生かしている。
