ヒートアップする中国の企業の社会的責任(CSR)運動(1)
発行日 2006年1月20日
上席主任研究員 金 堅敏
高まる企業の社会的責任(CSR)論
- 2004年後半から中国における企業の社会的責任(CSR)運動がヒートアップしている。メディアがCSR問題を盛んに取り上げているだけでなく、欧米のCSR関連の組織団体担当者を招いたシンポジウムや研修会は、WTO加盟時と同じような盛況ぶりを見せている。また、中国独自のCSR関連基準制定の活動も活発になっている。
- 欧米系のCSR関連団体やCSR審査・認証団体は、中国で活発な活動を展開しているが、2005年12月には、中国企業連合会が、日本経団連の下部組織である海外事業活動関連協議会(CBCC)との共催シンポジウム「企業の社会的責任を巡る国際動向と企業の対応」を北京にて開催した。
中国のCSR運動ヒートアップの背景:外部要因
- 中国のCSR運動ヒートアップの背景には、外部要因と内部要因がある。外部要因には(1)サプライチェーンを通じた欧米諸国におけるCSR運動の中国への波及効果と、(2)中国企業の海外展開「走出去」戦略に対する配慮がある。
- (1)については、中国がグローバルな生産拠点になったがゆえに、欧米のCSR運動が中国製品の調達を通じて下流から上流へ遡って波及してきている。例えば、米系の国際社会責任機構(Social Accountability International)は、中国でのビジネスを展開している多国籍企業を通じて、自ら制定した企業の社会的責任基準であるSA8000(Social Accountability 8000)を、中国企業(地場サプライヤー)に求めている。中国側の統計によると、1997年1月~04年7月までに、地場企業8,000社が多国籍企業にSA8000に基く審査か、SA8000の認証を受けるよう要求された。
- 中国製品の仕向け地の消費者やCSR活動団体は、「品質」等商品それ自身だけでなく、その商品の「生産プロセス・生産方法」(PPM)を問い始めている。つまり、中国企業は、WTOルールを越えた「社会的規制」を受けざるを得なくなっている。
- (2)については、近年中国企業自身が海外市場を展開する際、現地市場におけるCSR運動の壁に直面していることがある。例えば、2004年9月にスペインで、「温州靴城」(中国温州地域産の安い靴の直販センター)が燃やされた事件があった。コピー品や環境汚染を垂れ流したプロセスで生産された激安品(温州産靴)に対する競争に敗れたスペインの靴業者やCSR活動家による過激な行動であったが、温州靴業界もCSR配慮が足りないと反省していた。国際化の先頭に立ったレノボ、華為、中興などの地場有力企業は例外無く、海外市場で厳しいCSR審査を受けている。
- また、中国の大手国有エネルギー企業は、海外資源開発を推進しているが、中国国内では、海外における石油、鉱山のような資源開発活動は、CSRが重視されなければ「資源略奪者」に化けてしまう恐れがあると問題提起している。
中国側の対応
- 中国では、無賃労働、社会保障の未加入、劣悪な労働環境等生産条件等の問題が山積していることは認識されているが、欧米の民間組織が制定したCSR規準・規格をそのまま受け入れることは拒否している。例えば、2004年10月、国家認証監督委員会は「中国でSA8000の認証をそのままでは推進しない」と表明した。その代わり国家標準監督委員会が20の省庁を組織して中国独自のCSR基準を制定することとなっている。
- しかし、欧米のCSR運動により大きな影響を受けている中国の輸出セクターでは、真剣な取組みを見せている。例えば、2005年5月に中国紡績工業協会の主導で「社会責任普及員会」を旗揚げし、中国独自のCSR基準「CSC9000T」( www.csc9000.org.cn )をスタートさせた。「CSC9000T」は、中国ビジネス界による初めてのCSRへの実質的な取組みとなった。
- また、国際化を図る中国企業は、輸出一本槍から現地投資へ切り替える戦略を取り始めている。前述の温州靴メーカーは、スペインでの合弁事業立上げを通じて現地での税金納付、雇用への貢献、現地中間財調達、「ヒト」現地化等を通じて現地社会との融和を図りはじめている。
- さらに、一部の企業は、情報の公開や説明責任を果たそうとしている。例えば、中国移動やレノボはCSR報告書をまだ出していないが、近年財務報告書に企業社会的責任の章を設けた。特に、海外市場に上場している中国企業は、CSR関連の情報を積極的に開示し始めている。
