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人民元の切り上げ予測とその影響(2)

発行日 2005年6月17日

上席主任研究員 朱 炎


進めている切り上げ準備

  • 元の調整に向けて、準備作業はすでに進められており、人民元の調整はいよいよ秒読み段階に入った。
  • 具体的な動きとしては、次のことが指摘される。
  • 第1に、海外からの投機資金の流入を防ぐため、4月から外資系企業の外貨調達を規制し、5月から外資系銀行(支店)の海外からの資金調達に対する規制措置も発表した。
  • 第2に、資本取引の規制緩和として、今年に入ってから対外投資のための外貨調達の規制を緩和し、5月に在外企業が海外で得た利益の海外での利益留保を認めた。
  • 第3に、5月18日から、外為市場で外貨の取引範囲を拡大し、人民元を介しない8種類の外貨同士の取引を認めた。
  • 第4に、5月にドルなどの外貨預金の利上げを実施した。
  • 第5に、貿易摩擦を防ぐため、今年から繊維製品の輸出の自主規制、輸出関税の徴収などの措置を実施し始めた。背景には、WTOの決定により、今年から先進国の繊維製品の輸入枠(クォータ)が撤廃されたことにより、中国からの繊維製品の輸出が急増したことが挙げられる。
  • 最後に、香港ドルの制度調整も援護射撃となる。香港通貨管理局は香港ドルの対米ドルペッグを改め、小幅変動を認め、目標相場圏制度を導入し、5月18日から実施した。従来の7.8HK$に固定した対米ドルレートを、7.75~7.85HK$(±0.64%)の変動幅に変化させた。同時に、コール市場で短期金利を引き上げ、元高を狙う投機資金の抑制を試みた。これにより、人民元の調整を実施しても、香港経済へのマイナス影響が軽減された。

中国経済への影響

  • 元の切り上げにより、中国経済はさまざまな影響を受けるであろう。
  • 短期的には輸出の一時停滞など、マイナス影響が大きくなる。中国の輸出企業の多くは、もともと利幅が薄く、増値税(一種の付加価値税)の還付(17%の税率で徴収、7~14%で還付、実際の税負担は3~10%に軽減)で採算を維持している。例え5%の切り上げであっても、多くの輸出企業が赤字に転落する。ゴールドマンサックスのレポート(4月)によると、5%の人民元レートの上昇で貿易黒字が解消し、10%では輸出が15%減少、貿易赤字に転落すると予測している。輸出の停滞が、貿易黒字の減少を招き、貿易収支が均衡する水準までなら耐えられるが、中国経済はもともと外需への依存が高く、輸出の停滞は経済成長の減速、失業の増加、社会不安を誘発する恐れがある。また、巨額の不良債権を抱えている金融システムにも悪影響を及ぼす。
  • 一方、プラスの影響としては、上記のさまざまな元安の弊害が克服されるほか、経済過熱を抑え、引き締め政策の実施にもプラスに働く。長期的には、経済の歪みの解消、競争力の向上に寄与する。

日本と米国への影響

  • 日本への影響はさまざまである。日本企業の対中輸出が促進される。近年、「中国特需」で最高益を更新する日本企業が少なくない。人民元の切り上げは、対中輸出拡大への追い風になろう。中国に進出した日系企業に対しては、原材料と部品を海外から調達する場合にプラスであるが、製品輸出にはマイナスになろう。また、中国が採った資金流入を規制する措置の影響で、日系企業の一時的な資金調達難も予想される。さらに、元高につられて、一時的な円高もありうる。
  • 一方、元高の米国経済への影響は大きくない。元高で中国製品の輸入がある程度減少しても、米国の産業構造と生産コストからみると、国内生産の拡大による代替は考えにくい。結局、他の国の安い製品の輸入は減らず、輸入先を中国から他の途上国にシフトするだけである。同時に、ドル安による対中輸出の急増も期待できない。対中輸出の構成をみると、価格弾力性が大きい製品は少なく、競争力が強い製品は政治関係に制限される。したがって、人民元の切り上げによる米国の貿易赤字を解消する効果は薄いであろう。