人民元の切り上げ予測とその影響(1)
発行日 2005年6月17日
上席主任研究員 朱 炎
強まる切り上げ圧力
- 5月17日、米国財務省は主要貿易相手国の為替政策に関する報告書を議会に提出した。中国に対して、固定相場制から柔軟な為替制度に直ちに移行しなければ、半年後には「為替操縦国」と認定し、厳しい制裁措置を発動するとした。これは、人民元の切り上げを求める米国から中国へのいままで最も強い圧力であり、「最後通告」ともいえよう。
- 今回の米国からの要求は、人民元の対米ドルペッグの放棄と変動幅の拡大、すなわち変動相場制への移行と切り上げである。
- 同時に米国は、貿易面でも中国に対する圧力を強めている。5月に、2回に分けて繊維・衣料計7品目のセーフガードを実施し、知的所有権の侵害によるWTO提訴も示唆した。
- 米国が中国への厳しい措置をとった経済的背景として、米国が抱えている「双子の赤字」がある。昨年の対中貿易赤字は1,620億ドルに達し、今年1~3月の赤字は最高記録を更新し、前年同期比39.2%も増えた。政治面では、来年の中間選挙を控えて、産業界、議会からの圧力に真剣に対応しなければならないことが挙げられる。
- しかし、例え人民元の切り上げを実施しても、米国経済に対して、6,600億ドルを超える貿易赤字を解消する効果はほとんど期待できず、生活必需品の価格上昇により、インフレが加速される恐れもあるという見方もある。5月20日、FRBのグリーンスパン議長もこの趣旨の発言をした。
- この意味では、米国からの要求は経済よりも、政治的な意味合いが大きいといえよう。
- 米国の圧力に対し、中国政府は屈しないとの立場を変えていない。温家宝首相は、5月18日に、「為替制度は中国の主権、外部の圧力には屈しない」と発言し、「経済問題の政治問題化」として米国を批判した。
中国政府の対応
- 中国政府は、現在の為替制度の弊害を認識している。元安は、中国の輸出促進や、経済の安定に貢献してきたが、さまざまな歪みも生じた。輸出の急増で世界各国との貿易摩擦が激化し、輸出税還付で財政に大きな負担をかけた。国際収支の黒字と外貨準備の増加によりマネーサプライが拡大し、人民元切り上げを狙うホットマネーが不動産市場などに大量に流入した。これらは、いずれもマクロ経済運営に困難をもたらした。
- 中国政府は、為替の調整が不可欠と認識し、実施を準備しながら、タイミングを探っている。
- 現段階には、制度調整の手段として、以下の4つの方法が考えられる。

- 一定の変動幅を設け、実施を突然発表する。
- 現行制度の範囲内で、ある程度の元高を容認しながら、徐々に元高へ誘導する。
- 米ドルペッグを放棄し、複数の通貨とリンクするバスケット制を導入する。
- 外貨保有の規制緩和、一部の資本取引の規制緩和により、ドルへの需要を拡大させ、元高圧力を緩和させる。
- こうした方法のなかで、1.と2.は比較的実施しやすく、可能性も高い。その際、輸出企業の対応能力を配慮し、調整の範囲を5%以内に抑え、しかも急激な元高を避けるため、時間かけて相場の調整目標に徐々に近付かせる。3.は複雑、かつ影響が大きいため、選択される可能性が小さい。4.は補助的な手段として、いずれの方法とも同時併行できる。ただし、資本取引の完全自由化、自由交換性の実現は、将来の目標ではあるが、現段階では難しいであろう。
- 人民元調整を実施する時期について、以下のように予想できる。
- 中国政府は切り上げの実施に当たっては、米国の圧力よりも、投機筋の動きを警戒し、元高の悪影響を最小限に抑えることを重視している。切り上げの圧力が高いとき、切り上げ観測が広がる時は、投機筋に狙われやすいため、こうした時期を避けなければならない。したがって、米国の圧力が和らぎ、切り上げ観測が収まり、投機筋の動きが沈静化した時期を選ぶであろう。元高の歪みの解消、米国へのある程度の配慮などの要因を考慮すれば、年内に踏み切る可能性が高い。
