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中国5カ年計画草案から見えてくる中国の姿

発行日 2005年11月11日

上席主任研究員 柯 隆


さる10月8日から11日にかけて共産党5中全会が開かれ、新5ヵ年計画を審議し採択された。従来の5ヵ年計画に比べ、新5ヵ年計画における政府の役割は市場活動への介入から撤退するメッセージとして、計画ではなく「規画」というコンセプトが登場した。主要な目標として、効率化、省エネ、所得倍増、知財立国、所得格差の縮小などがあげられる。

中国版「所得倍増計画」

  • 20年前、「改革・開放」政策の初期において中国は、改革によって人々が豊かになることを期待され、国中が万物甦る春のような雰囲気であった。それから26年の歳月が過ぎて、経済規模は5倍以上に拡大したが、国全体が目標を失ったような雰囲気がする。今は少数の者が金持ちになり、すでに生活に満足している。一方、大多数の者は豊かになれる自信はなく目標を失いかけている。
  • したがって、新5ヵ年計画で重要なことは、従来のような生活者に実感できない経済成長率の提示よりも、所得水準の向上を示す計画によって人々を元気付けることである。今の中国はEU並みの先進地域(都市部)とアフリカ並みの後進地域(農村部)が並存する国であり、平均値を取ると、昭和35年ごろの日本と酷似している。
  • 当時、安保闘争で倒れた岸内閣を引き継いだ池田内閣は、デモ騒動などで騒然としていた世情に、所得倍増計画を発表し豊かな生活を国民に約束した。今の中国においても、所得格差の拡大や幹部腐敗の横行などで国民の不満が高まっている。とくに、低所得層を元気付けるために、所得の増加を約束することが必要である。新5ヵ年計画では、2010年の一人当たりGDPを2000年の倍にするとしているが、2005年現在すでに、50%増加し、08年の北京オリンピックと10年の上海万博の開催を考えれば、計画が前倒しで実現される公算が大きい。
  • 中国の実情を考えれば、深刻な失業問題を少しでも緩和するために、9%以上の経済成長を持続していかなければならない。問題は経済成長の中身である。今の経済成長は、高い貯蓄率を背景とする投資主導のものであるが、その主役は国有企業である。不採算プロジェクトが多く、不良債権が増える構造になっており、持続不可能と思われる。投資主導の成長から消費主導の成長に切り替えるために、安心して消費できる環境作り、すなわち、社会弱者層を救済する社会保障制度の整備が急務である。

中国社会の行方

  • 一方、経済高成長の持続は間違いなく社会の歪みをもたらすことになる。もっとも心配されることは、経済成長のスピードに比べ、モラルのレベルアップのスピードが遅く、そのギャップが拡大すればするほど社会は暴力的になる。今の中国社会は、経済成長が猛スピードで、走る列車のようなものである。それに乗り遅れるのを恐れて、人々は必死に追い着こうとする。しかし、経済成長が鈍化すれば、失業問題は一気に深刻化する。これは中国のポリシーメイカーが直面するディレンマといえる。
  • また、中国では信用秩序が成り立たないためで、市場経済の構築が大きなリスクに晒されている。市場経済のもとでの商取引においては信用がその根幹を成しているが、売掛金が不良債権化するのを警戒し、現金決済と前払制度が一般的になっている。
  • 信ずるものがないことは信用の崩壊をもたらしている。ハイエクが述べるように、「社会主義は理想として良いものだが、実現不可能である」。中国人にとって社会主義が実現不可能であるとすれば、次に何を信じたらよいのだろうか。市場経済はwinner takes all、すなわち、強い者勝ちのシステムであるため、行き過ぎた拝金主義が中国で横行している。政府はこのような行き過ぎた拝金主義を警戒して、社会主義市場経済の構築を理想として掲げているが、正しくは「資本社会主義」というべきであろう。
  • しかし、新たな国家作りは単なる経済成長だけでなく、社会構造のあり方、古きよき文化と文明の継承、コミュニティの再建、心の拠り所など、人間重視のいわば、動脈作りが重要である。60年代から70年代にかけて起きた文化大革命で、中華文明は寸断されたままである。人々にとって真の心の拠り所がなければ、やっていいこととやってはいけないことの分別が付かない。今、人々の行動の規範は、金銭という価値基準にのみである。
  • 日本経済は中国の高成長を背景とする特需に恵まれているが、相互依存関係が強まるのに伴い、積極的に中国の制度改革と経済建設にかかわっていくべきである。台頭する中国を脅威と見なすか、チャンスと捉えるかについては、日本の考え方一つである。国際貿易においては日本にとって中国はアメリカよりも重要な相手国になりつつある。イデオロギー的には相違があろうが、中長期的な視点から考えれば、日本にとって中国の経済発展は欠かせない存在である。