反日デモの経済への影響は軽微
発行日 2005年10月28日
主席研究員 朱 炎
日中経済関係に及ぼす悪影響への懸念
- 今年4月、中国の主要都市で反日デモが発生した。同時に、中国国民の対日感情も悪化している。これにより、日中間の経済関係は大きく影響されることを一部懸念する向きがある。
- 中国の人々の対日感情の悪化により、中国での日本製品の販売不振、在中国日系企業の経営環境の悪化など、日本の対中ビジネスを大きく影響されることが懸念する声も聞かれる。
- 日本企業の多くは、中国の反日デモと対日感情悪化の状況に対応して、中国事業の戦略を再検討し、投資計画の一時中断・中止を行うなど、中国事業の姿勢は慎重に転じた。
- リスク分散のため、一部の企業は「チャイナ・プラス・ワン」戦略を真剣に検討し始めた。すなわち中国以外の地域にも生産拠点を確保し、中国に一極集中している生産拠点を東南アジアに分散することを考えている。
相互依存と補完的な日中経済関係は影響されない
- しかし、日中経済関係は、反日デモと対日感情悪化に簡単に影響されるものではない。
- 第1に、経済のグローバル化が進み、日中間の経済的相互依存が深まっており、日中双方とも経済発展のため相手を必要する。この数年間の日中関係は「政経分離」のもとで維持されている。政治関係が悪化するなかでも、日中両国の政府はいずれも、政治的対立が経済関係に悪影響を及ぼさない政策をとり、経済関係の発展を促進している。ちなみに、10月17日小泉首相の5回目の靖国神社参拝は、日中政治関係にかなり大きな影響を及ぼすが、経済関係は今まで通り政経分離の原則で処理されるであろう。
- 第2に、日中両国の産業構造は相互補完的であり、日本の対中輸出と日本企業の現地生産・販売の多くは、中国国内で生産できない高品質とハイテク製品であり、中国企業への部品・素材供給も多い。同時に、高品質の日本製品に対する中国の消費者の信頼も高い。
- 第3に、日本企業の対中投資と中国事業は、グローバル戦略の一環として、競争力の維持、事業の発展のために進めているものである。日本企業が、急速に拡大する中国市場、重要な低コストの生産基地を簡単に放棄することは考えられない。
- 第4に、2003年にSARSが発生した際、中国事業の戦略の再検討や、リスク分散のための「チャイナ・プラス・ワン」戦略の検討など、日本企業がとった対応は、今回とほぼ同じであった。SARSの影響は約半年間続いたが、その後、日本企業の対中投資と中国事業は回復しさらに拡大した。今回の反日デモなどの影響もSARSの時と同様に、一時的なものに止まるであろう。
実際の影響は軽微、すでに回復
- 4月に発生した反日デモ、対日感情悪化は、実際に日中経済関係に悪影響を与えたのであろうか。デモ発生前後の日本の対中輸出および対中投資と、現地生産の日本車販売の実態を比較することで検討できる。
- まず、日本の対中輸出は、デモ以降も減少せず依然として伸びている。デモ直後の5月の前年同期比伸び率はやや低下したが、6月以降は回復した。日本の通関統計によると、デモ前の1~3月の対中輸出は前年同期比5.2%伸びたが、デモ後の4~8月は6%と伸び率が高くなった。しかも、4~8月の日本の輸出全体の伸び率5.2%よりも高い。すなわち、日本から中国への輸出において、デモによる影響は少なくすでに克服されたといえよう。
- 次に、日本企業の対中投資は、前述した日本企業の中国ビジネス戦略の調整により、新規投資は停滞する傾向があるが、すでに調印された投資案件の実行は影響されず拡大している。統計上の制約で、デモ前後の比較ができないが、中国側の統計によると、1~6月、中国向け直接投資(実施額)全体は3.2%減少し、主要投資者の香港、米国、韓国、台湾などからの投資がいずれも減少したなか、日本からの投資のみ大幅増、伸び率は20.4%にも達した。対中投資全体に占める日本のシェアと順位はいずれも昨年より上昇した。つまり、日本の対中投資はある程度の影響を受けたが、投資の減少にはつながらなかったといえる。
- さらに、中国人消費者に直接販売する日本製品として、中国で生産される日本ブランドの乗用車の販売は、反日デモ以降むしろ大幅に拡大している。日系5社の合計販売量は、1~3月に前年同期比26.9%増加したが、デモ後の4~7月には、伸び率は予想に反して大きく上昇し45.1%に達した。この間、4~7月に中国での乗用車販売全体の伸び率は36%に止まっていた。こうした状況からみると、デモ後も日本の自動車メーカーの健闘により、販売量はむしろ大幅に拡大し、中国での市場シェアも拡大している。ちなみに、7月に中国で行われた調査によると、日本車を購入したい比率は40%で、欧州車と同じである。この比率は、反日デモ前よりむしろ高くなった。
- こうした状況からみると、反日デモによる日中経済関係への影響は軽微であり、少なくても約半年経過した現在、すでに克服したと判断してよかろう。
