日本CTOミッション訪中報告(1)
- 中国研究機関の実態 -
発行日 2005年10月14日
上席主任研究員 金 堅敏
日本を代表する大企業のCTOによって構成される「日本CTOフォーラム」では、中国の研究開発の動向や関係機関との連携強化に強い関心を持っており、この度、北京、上海にCTO8名からなるミッションを派遣し、関係機関のトップや政府要人との交流を行った。筆者は、ミッションのコーディネーターとして全日程に参加したが、以下その概要を二回に分けて報告する。
中国研究機関については、上海市政府、上海張江ハイテクパーク、中興通信上海R&Dセンターと中国科学院の4ヵ所を訪問した。
(1)上海市政府
- 上海市では、まず胡延照副市長を訪問した。13年連続二桁経済成長を実現した上海を中心とする浙江省、江蘇省からなる長江デルタの人口は、日本の総人口を越える1億4千万人であり、一人当たりGDPは3,500ドルを超えている。その市場性、数多くの大学や豊富なR&D人員に着目し、近年外国企業は150ヵ所のR&Dセンターを設立した。
- また、知的財産権保護については、市場秩序維持としての信用システム整備の一貫として、政府は非常に重視している。
- 生産拠点としての立地優位性が薄れつつある中で、上海市としては外資誘致の重点を、ハイテク産業や多国籍企業による地域本部や物流センター、R&Dセンターの誘致へシフトしつつある。そのためには、多国籍企業が強い関心を持っている人材環境整備や知的財産権保護に本腰を入れ始めた。
(2)上海張江ハイテクパーク
- 今回訪問した上海張江ハイテクパークは、バイオ/医学、集積回路とソフト開発の三本柱からなるハイテクパークである。中国最大のICチップ生産企業である中芯国際(SMIC)やマイクロソフト、HP、インド系ソフトトップ5社、医薬品メーカーのRoche、GSKなどの国内外企業が生産拠点として進出しているだけでなく、50社以上のR&Dセンターも設置されている。
- 地場企業ではIBMのPC部門を買収したLenovoなどが、海外多国籍企業ではGE、モトローラ、Amway、SONY、オムロン、DUPONTなどのR&Dセンターが設置されている。また、復旦大学、上海交通大学、清華大学、中国科学技術大学等の国内有名大学の研究所や、中国科学院所属の研究所及び公的研究機関、試験機関も数多く進出している。また、ベンチャー企業や留学生帰国者に対する創業支援体制も整っている。
- これらの組織や機関が相互に連携し、研究開発、ベンチャービジネス、ハイテク産業の一大産業集積地となりつつある。
(3)中興通信(ZTE)上海R&Dセンター
- 続いて訪問した有力通信機器メーカーZTEも、張江ハイテクパークに大規模な拠点を設置している。4,000名の社員が働いているZTE上海センターは、R&D、生産、販売の三位一体の組織であり、移動設備、携帯端末、ネットワークにかかわる技術の研究開発を行っている。多くの海外留学帰国者や20数名の外国籍研究要員も活用さている。
- ZTEの上海センターは、ソフト開発成熟度CMM3の認証を受けたが、CMM5に達した地場有力企業「華為」の上海センターには及ばなかった。また、商品開発や技術サポートが主要な業務となっており、基礎研究はあまり行われていない。その弱点は、エリクソンや富士通等のグローバル企業との技術提携によって補おうとしている。
(4)中国科学院
- 北京では、全人代副委員長兼中国科学院院長の路甬祥先生を訪問した。中国独特なイノベーション機構でもある中国科学院は、5万人のスタッフ、3万人の大学院生を抱える国家レベルの研究開発組織であり、下部には430社の企業を所有している。
- その研究領域は、1)自然科学、2)資源・生態とかかわるもの、3)国レベルの戦略的なハイテク技術、4)国際レベルの先端技術である。現在もっとも重視している研究開発分野は、(1)資源/エネルギー関連、(2)バイオ、(3)新材料/ナノテク等である。
- 現在、中国科学院は大学や企業の研究開発と差別化を図れなくなっている。研究に対する評価も、論文の多寡など学術的貢献よりも、産業発展に対する貢献と技術発展に対する貢献を中心にしている。そこでは、国家レベルのプロジェクトを担うと共に、研究開発能力の弱い中小企業への技術サポートも重要な機能となっており、内外企業との産学連携が特に推し進められている。例えば、サムソン電子とは四つの共同研究センターを設置しているという。
- 大学や企業のR&D活動と比べ、中国科学院の優位性は、中長期的な研究テーマに慣れていること、大型研究設備の必要なテーマ、複数の技術領域が必要とする研究にある。日系企業も、中国科学院の研究開発能力や人材育成システムを生かすことは考えられる。
