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中国経済四半期報告(2009年第2四半期)

主席研究員 柯 隆


出口政策模索されるも「進退両難」

中国経済は2008年以降の落ち込みからV字型回復の様子を呈している(図1参照)。08年の実質GDP伸び率は前年の13%から9%に落ち込み、09年第1四半期の6.1%はボトムだったようだ。その後、経済成長は第2四半期7.9%、第3四半期8.9%と回復基調に転じている(参考:1-9月の経済成長率7.7%)。

中国経済が回復向かう背景について、(1)08年11月に発表された4兆元(約56兆円)の財政出動、(2)08年10月から続いた金融引締めから金融緩和への政策転換と(3)欧米諸国経済の下げ止まりがあげられる。中国国内のエコノミストのほとんどは第4四半期の成長率がこれまでの勢いを続け、8.9%ぐらいになるだろうと予測している。その結果、年初掲げられた8%の経済成長目標の実現はほぼ確実になるとみられている。

図1 実質GDP伸び率の推移(1978-09年第2四半期)

資料:中国国家統計局

1.景気回復の内実

ここで、中国経済が底を打ち回復に向かう内実を検証してみよう。マクロ経済の主要指標のなかで顕著に上昇しているのは設備投資などの固定資本形成の伸び率であり、1-9月期は33.4%に達している(別添中国経済主要指標参照)。固定資本経済が急増する背景に、4兆元の財政出動があるほか、国有銀行を中心に商業銀行の貸出が急増していることもその一因であろう(図2参照)。

図2 金融機関貸出(フロー)の増加額の推移(2005~09年9月)

資料:中国人民銀行

08年の1年間金融機関の貸出は5兆元弱だったが、09年1-9月期だけでその額は8兆6,700億元に達した。同時に、マネーサプライを表わすM2の伸び率は08年の25.5%に対して、09年1-9月期は29.3%だった。温家宝総理はいかなることがあっても8%成長の目標を達成させると意気込み、金融・財政の両面から経済成長を持ち上げている。

問題は投資主導の経済から消費主導の経済に転換する必要があるといわれながらも、消費は伸び悩んでいる。08年の小売総額の伸びは21.6%だったのに対して、09年1-9月期は15.1%に止まった。温家宝総理は農村の潜在需要を喚起するために、「家電下郷」(1)や「汽車下郷」(自動車の販売促進策)を進めたが、それも不振に終わった。実は、農村で家電や自動車の販売促進のための補助金支給は農民を助けるというよりも、家電メーカーと自動車メーカーを救済するための愚作だったといわざるを得ない。

ほんとうに農村の潜在需要を喚起するならば、農民限定の商品券の支給が望ましいと思われる。農民が何を購入するかは自ら判断することであり、政府は一方的に家電や自動車の購入を押し付けるべきではない。

一方、08年まで好調だった国際貿易はここに大きく落ち込むようになった。図3に示したのは輸出と輸入の伸び率の推移である。08年に比べ、輸出は21.3%減少し、輸入は20.4%減った。貿易収支は依然黒字だが、08年の2,955億ドルに対して、09年1-9月期は1,355億ドルに止まった。

結果的に、経済成長をけん引する外需と内需はいずれも弱くなっているため、唯一頼れるのは設備投資である。しかし、これまで最大規模の財政出動は非効率な重複投資を引き起こし、セメントや鉄鋼などの過剰供給の問題が再び浮上しているうえ、将来的に、国有銀行のバランスシートに巨額の不良債権が生まれてくる恐れがある。同時に、政策的な過剰流動性は資産バブルを引き起こし、株式市場が極端に不安定な展開になっている。

図3 輸出と輸入の伸び率の推移

資料:中国商務部

2.出口政策の可能性を否定する温家宝総理の悩み

8月ごろから中国国内ですでにそろそろ出口政策の実施を考えるべきとの提言が出されているが、温家宝総理は年内の政策転換を否定している。最近の温家宝総理の発言を入念にチェックすると、「これまでの政策方針を堅持する」との談話がほとんどである。すなわち、経済は確かに回復の兆しをみせているが、8%成長の今年の目標を達成するために、積極的な財政政策と適当な金融緩和政策を堅持するということのようだ。

こうした状況下で政策当局は身動きが採りにくくなっている。金融緩和の方針を転換すれば、資産マーケットがクラッシュする可能性が高い。しかし、過剰流動性を放置すると、経済バブルが膨張し、いずれ破裂してしまう。そうなれば、景気が大きく後退するだけでなく、バブル経済の負の遺産として不良債権の問題も心配される。

個人投資家と投機筋は政策当局の弱みに付け込んで不動産と株式への投資を増額している。これは09年半ばまでの資産バブルが起きる背景である。しかし、行き過ぎた金融緩和が引き起こしている好景気がいつまで続くかについて市場では疑心暗鬼になっている。まさに、前進するのは棘の道だが、後退することもできない、いわば「進退両難」の状況に陥っている。

こうしたなかで、8月だけで上海の株価指数は21%も下落してしまった。事実上、長期保有を目的とする機関投資家が不在のなかで、個人投資家はちょっとした噂やデマで売りに走ってしまう。皮肉なことに、マクロ経済の回復の足音がすでに聞こえてきたにもかかわらず、1億3,000万もの個人投資家は市場と政府に対して信頼感を持てないようだ。

3.トピックス:「国進民退」で遠のく市場経済国地位の確立

2001年、中国は世界貿易機関(WTO)に加盟したが、未だに世界主要国の多くは中国の「市場経済国」の地位を認めていない。経済学では、市場経済について市場機構を通じて価格メカニズムとして市場の需給調節が行われる経済のことと定義されている。中国は30年前に比べ、価格の自由化を進め、価格メカニズムがかなり機能するようになったはずである。

にもかかわらず、日米欧を中心とする主要国はなぜ中国の市場経済国の地位を認めようとしないのだろうか。中国国内では、それは中国の発展ぶりを無視した先進国の傲慢な姿勢によるものとの批判がある。

過去30年間、中国社会の進歩は明らかであり、それは主に経済の自由化の推進によるものと思われる。30年前の中国では、私営企業は皆無だったといって過言ではない。現在、私営企業のGDPへの寄与度は3割に達した(株式会社化した国有企業を含まない)。そして、政府部門が直接コントロールする物価は全体の3%程度に減少した。人的資源の配分についても、大学や高校の卒業生は30年前政府部門が直接「分配」していたが(直接配置を決めた)、現在は基本的に「人材市場」(労働市場)を通じて就職することになっている。

とはいえ、市場経済の原理原則に反する側面もみられる。たとえば、石油や銀行業などの基幹産業への参入は自由化しておらず、国有資本によって独占・寡占されている。また、公共事業の発注について入札制度が導入されているようだが、その透明性が確保されておらず、民営企業が実質的に排除されるケースが多い。

昨年11月、中国政府は4兆元の景気対策を発表したが、その7割は公共工事である。しかし、実際にこれらの公共工事を受注したのはほとんどが国有企業である。今年に入ってから、国有企業の設備投資の伸び率は全社会の固定資本形成の伸び率を遥かに上回るようになった。換言すれば、国有企業だけは公共工事の恩恵を享受しているということになる。これを中国では「国進民退」(国有企業が前進し民営企業が後退する)という。

1998年ごろ江沢民前主席の時代、国有企業改革の重要な一環として競争的な産業分野において国有企業の民営化を進め、公共性の高い分野に限り国有企業体制を維持するとした。しかし、いつの間にか国有企業の民営化改革がトーンダウンし、金融危機を克服する財政政策に便乗し、民営化されるはずの国有企業がそのままになっている。過去60年間の経験から国有企業の弊害はすでに明らかになっている。

「国進民退」の動きが続けば、中国の経済体制はますます市場経済から遠のくことになる。では、どのようにすれば、「国進民退」から「民進国退」に方針転換できるのだろうか。

第1に、政府による国有企業への資本支配を改め、民営企業との吸収・合併(M&A)によって国有企業の民営化を推進する。第2に、水道やガスといった公共性の高い産業を除けば、すべての産業について新規参入を原則として自由化する。第3に、国有企業に対する優遇政策を撤廃する。それに加え、すべての企業に対する株主によるコーポレート・ガバナンスを強化する。

中国は日米欧などの主要国に対して、市場経済国の地位の承認を求めているが、その前に、抜本的な国有企業の改革が求められる。行政と企業が癒着する経済は市場経済とはいえない。公共事業の入札の透明性が確保されない経済も市場経済ではない。国民経済のなかで、民営企業が主役になることは市場経済国の地位を獲得する前提である。

別表 中国経済主要指標(2003~2009年2Q)

単位 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009.2Q
実質GDP成長率 前年比、% 10.0 10.1 10.4 10.7 11.4 9.0 7.7
第1次産業 2.5 6.3 5.2 5.0 3.7 5.5 4.0
第2次産業 12.5 11.1 11.4 12.5 13.4 9.3 7.5
第3次産業 6.7 8.3 9.6 10.3 11.4 9.5 8.8
固定資本形成 26.7 27.7 25.7 25.9 24.8 25.5 33.4
不動産投資 29.7 30.3 19.8 25.4 30.2 20.9 17.7
小売総額 9.1 13.3 12.9 13.7 16.8 21.6 15.1
輸出入総額 37.1 35.7 23.2 23.8 23.5 17.8 -20.9
輸出 34.6 35.4 28.4 27.2 25.7 17.2 -21.3
輸入 39.9 36.0 17.6 20.0 20.8 18.5 -20.4
貿易収支 億ドル 256 320 1,019 1,775 2,622 2,955 1,355
直接投資契約金額 前年比、% 1.4 13.3 -0.5 -2.1 13.6 23.6 n.a.
外貨準備 10億ドル 403 610 819 1,660 1,330 1,950 2,273
消費者物価上昇率 前年比、% 1.2 3.9 1.8 1.9 4.8 5.9 -1.1
マネーサプライM2 19.6 14.6 17.9 16.0 16.7 17.8 29.3
実質収入:農村住民 4.3 6.8 9.6 10.4 9.5 15.0 9.2
都市住民 9.0 7.7 6.2 7.4 12.2 14.5 10.5
都市部登録失業率 % 4.3 4.3 4.2 4.3 4.3 4.2 4.2

(注)都市部住民の実質収入は一人当たり可処分所得、農村住民の収入は一人当たり純収入である。
(資料)中国国家統計局

農村での家電製品の販売を刺激するために、値段の10%強に相当する補助金が支給される。