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中国経済四半期報告(2009年第1四半期)

主席研究員 柯 隆


追加景気対策の出動が濃厚

昨年10月30日に、人民銀行(中央銀行)は1年ぶりに商業銀行に対する貸出総量規制を解除し、その10日後の11月9日に、国務院は突如として4兆元(約56兆円)もの景気刺激策を発表した。今年に入って商業銀行の貸出は急増し、1-4月期だけで5兆元の年間貸出目標額を簡単に超えてしまった(図1参照)。にもかかわらず、景気は底についたままである(実質GDP伸び率は08年第4四半期6.8%→09年第1四半期6.1%)。

図1 商業銀行融資の推移

出所:CEICデータ

今年3月の全人代(国会に相当)閉幕の記者会見で温家宝首相は「予備弾薬」をたくさん備えていると追加的な景気対策の実施を示唆した。ここで重要なポイントは4-6月期の経済成長率の動向である。当初の予測では、1-3月期の景気が底に付き、第2四半期に回復に向かうとみられていたが、現在のところ、景気が回復に向かっている兆しは確認されない。

結論的に、4-6月期のGDP伸び率が7%程度の成長に止まれば、ほぼ確実に追加的な景気対策が7月末か8月ごろに発表されると予想される。では、なぜ景気回復が遅れているのだろうか。

まずは、想定外の新型インフルエンザが観光や旅客輸送などのサービス業を直撃している。そして、クライスラーやGMの経営破たんなど米国の実体経済が予想以上に悪化しているため、中国の対米輸出が当面上向くことは考えにくい。何よりも、国内の消費拡大は芳しくないことが重荷となっている。結果的に、経済成長を実質的にけん引するインフラ工事を中心とする固定資本形成に頼るしかない。

図2 固定資本形成と国有企業設備投資伸び率の推移

出所:CEICデータ

しかし、公共工事の恩恵を受けているのは国有企業であり(図2参照)、多くの民営企業、とりわけ中小企業は公共工事とは無縁である。中小企業は技術のインキュベーターとして裾野産業の重要な基盤を成していると同時に、雇用の受け皿としても重要である。中小企業を救済しなければ、雇用も難しくなる。さらに、失業率が高止まれば、消費も改善しない。実際に、今年に入ってから消費がそれほど上向いていない(図3参照)。中国経済はまさに負のスパイラルに陥っているといえる。

では、どのような追加的な景気対策が考えられるのだろうか。

もっとも可能性の高い対策としてさらに4兆元の財政出動の実施がある。現在、実施されている4兆元の財政出動は主として鉄道や道路などのインフラ整備のほかに、低所得層向けの住宅建設といったハコモノが中心である。その弱点は雇用の創出効果が弱いことにある。

新たに実施されると思われる財政出動は消費を刺激するポリシーミックスが中心となり、社会保障制度の整備、職業訓練の強化と中小企業対策などが重要になってくる。社会保障制度の構築は長期的な取り組みとなり、景気刺激の即効性は期待できない。これから実施されうる政策は政府が生活難に陥っている低所得層に対して直接保障を実施することである。

図3 民間消費と民間消費伸び率の推移

出所:CEICデータ

また、中小企業信用保証制度が整備されていない中国では、中小企業の多くは資金難に陥っている。深セン証券取引所で設立されている中国版ナスダックのような「創業板」(ベンチャー・ボード)の役割が期待されている。すなわち、将来性のあるベンチャー企業の融資難がそれによって改善できるとみられている。ただし、「創業板」はあくまでもシンボリックな存在に過ぎず、中小企業の資金難を解決するには、日本の中小企業信用保証制度のような仕組みの整備を急ぐ必要がある。

総じていえば、金融危機は現存の制度のあり方を点検する好機である。中国政府にとって経済成長率の回復を急ぐことよりも、持続可能な経済成長を目指すために、既存の諸制度を今一度点検し、国有セクター優遇のスタンスから民営企業が成長する公正な市場機構を構築すべきである。

別表 中国経済主要指標(2003~2009年1Q)

単位 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009.1Q
実質GDP成長率 前年比、% 10.0 10.1 10.4 10.7 11.4 9.0 6.1
第1次産業 2.5 6.3 5.2 5.0 3.7 5.5 3.5
第2次産業 12.5 11.1 11.4 12.5 13.4 9.3 5.3
第3次産業 6.7 8.3 9.6 10.3 11.4 9.5 7.4
固定資本形成 26.7 27.7 25.7 25.9 24.8 25.5 28.8
不動産投資 29.7 30.3 19.8 25.4 30.2 20.9 4.1
小売総額 9.1 13.3 12.9 13.7 16.8 21.6 15.9
輸出入総額 37.1 35.7 23.2 23.8 23.5 17.8 -24.9
輸出 34.6 35.4 28.4 27.2 25.7 17.2 -19.7
輸入 39.9 36.0 17.6 20.0 20.8 18.5 -30.9
貿易収支 億ドル 256 320 1,019 1,775 2,622 2,955 623
直接投資契約金額 前年比、% 1.4 13.3 -0.5 -2.1 13.6 23.6 n.a.
外貨準備 10億ドル 403 610 819 1,660 1,330 1,950 1,954
消費者物価上昇率 前年比、% 1.2 3.9 1.8 1.9 4.8 5.9 -0.6
マネーサプライM2 19.6 14.6 17.9 16.0 16.7 17.8 25.5
実質収入:農村住民 4.3 6.8 9.6 10.4 9.5 15.0 8.6
都市住民 9.0 7.7 6.2 7.4 12.2 14.5 11.2
都市部登録失業率 % 4.3 4.3 4.2 4.3 4.3 4.2 4.2

(注)都市部住民の実質収入は一人当たり可処分所得、農村住民の収入は一人当たり純収入である。
(資料)中国国家統計局