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中国経済四半期報告(2007年第1四半期)

上席主任研究員 柯 隆


1.経済成長トレンド

中国の景気循環は10周期で起きているようだ。2003年の政権交替をきっかけとする景気過熱は再三に亘る景気引締めにもかかわらず、一向に落ち着く気配はない。具体的には、経済成長率は連続4年間二桁成長に達し、第1四半期は11.1%が記録された(別表の主要指標参照)。同時に、物価も上昇に転じ、第1四半期のCPIは2.7%だったが、3月の物価上昇率は3.3%に達した。国家統計局のスポークスマンは「このまま物価が上昇し続ける可能性が低い」と火消しに躍起となっているが、過剰流動性を背景とする物価の上昇はしばらく続くものと思われる。

図1 貸出金利(1年もの)と預金金利(1年もの)の推移

(資料)中国人民銀行

なぜ、景気過熱が収まらないのかに関して次の指摘をすることができる。

第1に、社会保障制度の未整備に起因する消費性向の低下により、家計の貯蓄率が大きく上昇している。家計の可処分所得に対する貯蓄性向は25%に上る。同時に、GDPに占める貯蓄の割合、すなわち、貯蓄率は48%に達している。国民の過剰貯蓄は過剰流動性に結びついている。

第2に、国内過剰貯蓄を背景とする投資がオーバーヒーティングし、それによって生産能力が国内で完全に消費されず、その過剰生産能力が輸出に向けざるを得ない。その結果、輸出が急増し、貿易黒字は急速に拡大している。こうした国際収支の不均衡は人民元切り上げの圧力となり、外貨準備の急増で国内の過剰流動性がもたらされている。

第3に、人民元の切り上げ期待が高まり、海外の「熱銭」(ホットマネー)が流入している。中国は資本取引の自由化を実施していないが、外貨管理規制は穴だらけである。輸出代金を水増ししてその分の外貨を国内送金する手口もあれば、香港と広東省の間を行き来するコンテナトラックで大量の現金が運ばれている。

2003年からの不動産バブルに続き、06年に入って株式バブルが生じている。06年上海の株価指数は130%上昇し、今年に入ってからさらに50%上昇した。政府は資産インフレを引き締めるために、利上げと預金準備率操作を実施しているが、それほど効果が出ていない。

人民元の対ドルレートは少しずつ切り上がっているが、急劇な元高を阻止するために、人民銀行(中央銀行)は日々為替介入を実施している。そのなかで人民元金利とドル金利が逆転すれば、投機的な外貨流入がさらに加速すると予想される。したがって、人民銀行にとって大幅な利上げは事実上できない。図1に示すように、人民銀行は少しずつ金利を引き上げているが、大幅な引き上げを実施していない。

実は、人民銀行にとっての政策手段は極めて限られている。為替介入に伴う過剰流動性を吸収するために、中央銀行手形を発行し、不胎化政策を実施している。しかし、公開市場操作は市中流動性を多少吸い上げることができるが、金融機関の融資ビヘイビアを変えることができない。2003年以降、繰り返されているのは預金準備率の引き上げである。03年9月、預金準備率は6%だったが、07年4月には11%に引き上げられた。

表1 預金準備率操作の推移

時 間 調整前 調整後 調整幅
1984 預金準備率導入→企業預金20%、農村預金25%、家計預金40%
1985 預金準備率の統一→10%
1987 10% 12% 2%
1988年9月 12% 13% 1%
1998年3月21日 13% 8% -5%
1999年11月21日 8% 6% -2%
2003年9月21日 6% 7% 1%
2004年4月25日 7% 7.5% 0.5%
2006年7月5日 7.5% 8% 0.5%
2006年8月15日 8% 8.5% 0.5%
2006年11月15日 8.5% 9% 0.5%
2007年1月15日 9% 9.5% 0.5%
2007年4月16日 10% 10.5% 0.5%
2007年4月29日 10.5% 11% 0.5%

(資料)中国人民銀行

中国経済の当面の動きについて、今秋開かれる共産党大会と来年の北京五輪、さらに2010年の上海万国博覧会などの政治日程と国際イベントから、交通インフラ整備などの特需から、現在の経済成長は少なくとも2010年まで続くものと思われる。

2.行き過ぎた資産インフレの危険性

現状において家計のポートフォリオ選択は極めて限られている。金融資産のほとんどが国有銀行に預けられている。富裕層を中心に不動産投資が行われているが、ほとんどの低所得層にとってそれは無関係である。将来の生活不安を考えれば、少しでも資産を増やしていきたいところである。しかし、預金金利が低く抑えられているため、利息収入は当てにならない。

06年に入り、株式市場の改革が一段落し、5年間に亘る低迷期からそろそろ脱出するであろう期待に基づいて個人投資家を中心に株式投資を増やしている。07年5月15日現在、全国に9,500万の投資家がいるといわれ、そのほとんどは個人投資家である。家計は銀行預金の一部を株式市場にシフトしている。

図2 上海株価指数と深セン株価指数の推移

(資料)上海証券取引所、深セン証券取引所

問題はほとんどの個人投資家がデイトレーダーであり、投資対象企業の業績にほとんど無関心なことにある。日々の値動きを見て、株式の売買を繰り返している。機関投資家の不在と長期に保有する安定株主の不在により、株式市場は極端に不安定化し、投資家のほとんどは疑心暗鬼しながら、株式投資を行っている。何よりも、個人投資家の一部はほぼ全財産を株式投資に投じている。このまま株価が暴落し、株式バブルが崩壊すれば、多くの個人投資家が巻き込まれ、深刻な社会問題に発展する恐れがある。

3.米中戦略対話と人民元改革

中国経済が順調に成長しているにもかかわらず、指導部と政策担当者にとっては状況は四面楚歌のようだ。内外経済の不均衡はほとんど是正されることなく、経済規模だけが拡大している。05年7月21日以降、人民元は徐々に切り上げられるものの、貿易不均衡はさらに拡大し、ほとんど縮小する気配はない。

結果的に、米国からの圧力が強まるたびに、人民元の対ドルレートが少し切り上がる、という受身的な調整パターンになっている。まず、米国からの圧力に屈した元の切り上げは経済の国際不均衡の是正には寄与しない。それよりも、現在のような切り上げでは、却って投機的な外貨流入をもたらす逆効果になる。ここで、重要なのは人民元を少しずつ切り上げることではなく、為替レジームをチェンジしていくことである。

図3 人民元と香港ドルの対米ドルレートの推移

(資料)中国外貨管理局、香港金融管理局

ブッシュ政権は残り1年半足らずだが、中国との経済関係を大きく悪化させたくないのが実情であろうが、民主党に惨敗した以上、議会対策として、時として中国にハードなアプローチをすることも考えられる。とはいえ、米国の国際戦略のなかで、中国の重要性は一段と強まり、対立よりも対話が重視されると思われる。

別表 中国経済主要指標(2000~2006年)

単位 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007.1-3
実質GDP成長率 % 8.3 9.1 10.0 10.1 10.4 10.7 11.1
第1次産業 2.8 2.9 2.5 6.3 5.2 5.0 4.4
第2次産業 8.7 9.9 12.5 11.1 11.4 12.5 13.2
第3次産業 7.4 7.3 6.7 8.3 9.6 10.3 9.9
固定資産投資額 13.0 16.1 26.7 27.7 25.7 25.9 25.3
不動産投資 27.3 21.9 29.7 30.3 20.5 25.4 29.7
小売総額 10.1 8.8 9.1 13.3 12.9 13.7. 14.9
輸出入総額 7.5 21.8 37.1 35.7 23.2 23.8 23.3
輸出 6.8 22.3 34.6 35.4 28.4 27.2 27.8
輸入 8.2 21.2 39.9 36.0 17.6 20.0 18.2
貿易収支 億ドル 225.4 304.0 256.0 320.0 1,019 1,774.7 464.0
直接投資契約金額 % 10.9 19.6 39.0 6.3 24.0 ▲6.7 n.a.
実行金額 15.1 12.5 1.4 13.3 -0.5 2.1 11.6
外貨準備 億ドル 2,122 2,864 4,033 6,099 8,189 10,663 12,020
消費者物価上昇率 % 0.7 -0.8 1.2 3.9 1.8 1.9 2.7
マネーサプライM2 17.6 16.8 19.6 14.6 17.9 16.0 17.3
実質収入:農村住民 4.2 4.8 4.3 6.8 6.2 7.4 12.1
都市住民 8.5 13.4 9.0 7.7 9.6 10.4 16.6
都市部登録失業率 3.6 4.0 4.3 4.3 4.2 4.3 4.3

(資料)中国国家統計局

(注)2007年第1四半期は速報値