このページの本文へ移動

富士通総研

Japan

  1. ホーム >
  2. 調査・研究成果 >
  3. 中国通 >
  4. 四半期報告 >
  5. 2007年第3四半期

中国経済四半期報告(2007年第3四半期)

上席主任研究員 柯 隆


1. 続く高成長と08年北京五輪の課題

03年以降、中国政府が景気引締政策を実施しているにもかかわらず、景気は依然として過熱気味である。07年第3四半期の経済成長率は11.5%を記録し(図1参照)、その源泉は前年同期比26.5%伸びた固定資本形成である。キャッチアップ段階の中国経済にとって10%を超える経済成長は不思議なことではないが、問題はその中身にある。もっぱら設備投資にけん引され成長する中国経済は、国内消費需要が弱く、過剰生産が国際貿易不均衡をもたらしている。

図1 実質GDP伸び率の推移(1991年12月~07年9月、前年同期=100)

(資料)CEICデータベース

景気過熱の原因は市中の過剰流動性にあるが、それを詳しくみると、家計は将来の不安により消費を控え、貯蓄を増やしている。現在、貯蓄率(貯蓄÷GDP)は46%に達し、設備投資の源泉になっているが、限界資本係数の上昇により投資効率が低下している。同時に、貿易黒字の拡大により市中の過剰流動性が生じ、景気過熱にさらに拍車をかけている。

一方、市中の過剰流動性により、07年7月からインフレが再燃した(消費者物価指数:7月5.6%→8月6.5%→9月6.2%→10月6.5%、図2参照)。中国にとってもっとも懸念されるのはインフレの再燃である。ジニ係数が50%以上に達するなかで、インフレ再燃は低所得層の生活を直撃し、社会の安定が脅かされている。

図2 インフレ率の推移(2001年1月~07年10月、前年同期=100))

(資料)CEICデータベース

2. インフレ再燃のカラクリ

では、なぜインフレが再燃したのだろうか。中国経済の需給関係をみると、ここで消費者物価が上昇する原因は見当たらない。外国からの直接投資の増加と国内の生産能力の強化により供給不足に陥ることは考えにくい。事実、97年アジア通貨危機以降、工業製品の価格は一貫して低下し、今でもデフレ気味である。

図3に示す通り、衣料品価格は依然マイナスで推移している。また、図4に示したのは消費財と工業品価格の推移であるが、工業品価格は低い伸びで推移している。したがって、今回のインフレ再燃は製造業の供給不足によるものではなく、穀物とエネルギー価格の上昇によるものである。図3に示すように、06年半ば以降、穀物などの食料価格は急騰し、そのなかでもっとも価格が高騰しているのは豚肉やその油である油脂類である(07年34%上昇)。

現状において、インフレ再燃は悪いことばかりではない。農民の所得増が鈍化するなかで、農産物価格の上昇は農民の所得をボトムアップするメリットが期待される。問題は都市部低所得層の生活がインフレにより益々苦しくなることにある。1998年、国有改革が本格化し、それまでタブーだった国有企業余剰労働力のリストラも認められた。社会保障制度が整備されないまま、国有企業改革が本格化した。それを受けて東北や華北などの国有企業のウェイトの高い地域において、自宅待機の労働者が市役所前で座り込みするなど深刻な社会問題となった。したがって、中国政府にとり経済成長を維持するというのは経済構造上の歪みを乗り越えるためでもあった。

図3 インフレ再燃の原因(前年同期=100)

(資料)CEICデータベース

図4 消費財価格と工業品価格の推移(前年同期=100)

(資料)CEICデータベース

3. 景気引締め一段の強化の可能性

北京五輪を前に、景気が高ぶるのはある程度においては無理のないことであろう。しかし、過剰投資を背景とする好景気は経済成長の一速を意味する。家計は将来の不安から貯蓄を増やしているが、投資主体の企業は採算の合わないプロジェクトに投資すれば、いずれ不良債権になる。このことを考えれば、目下の高成長を喜ぶわけにはいかない。

図5 預金金利(1年もの)と貸出金利(1年もの)の推移

(資料)CEICデータベース

図5に示すように、04年から景気引締のために、金利が徐々に引き上げられた。しかし、景気過熱の進行に比べ、利上げの幅が小さい。なぜならば、内外において人民元切り上げに対する圧力が高まっており、思い切った利上げを実施すれば、米ドルとの金利が逆転し、元高に拍車をかけることにある。

結局のところ、政策当局は利上げを小幅に止め、その他の引締政策を模索せざるを得なかった。一つは公開市場操作である。貿易黒字に伴う外貨流入によって人民元切り上げ圧力を抑えるために、人民銀行(中央銀行)は日々ドル買い・人民元売りの為替介入を実施している。それと同時に、市中の過剰流動性を吸収するために、人民銀行は中央銀行手形を発行し、市中の過剰流動性を吸収している。

そのほかに、M2の増加を抑えるために、人民銀行は預金準備率を引き上げている。07年10月現在、1年足らずで計9回に亘り預金準備率が引き上げられ、史上最高の13.5%に達した。しかし、あらゆる金融政策のなかで預金準備率操作の効果はもっとも小さいものである。預金準備率が史上最高レベルまで引き上げられたにもかかわらず、景気過熱は一向に収まらない。それを補足するために、人民銀行は今年に入って窓口規制を強化している。人民銀行は市中銀行に対して融資をこれ以上拡大しないように求めている。問題は今のところ効果が出ていない。

4. 国際収支の不均衡と景気過熱

内外の人民元切り上げ圧力が高まるなかで、人民銀行は05年7月21日に人民元の対米ドルレートを2.1%切り上げた。その後、人民元の為替レートはドル・ユーロ・日本円などの主要通貨からなる通貨バスケットを参考に日々変動するようになった。いわゆる「管理変動相場制」が採用されたのである。

図6 人民元の対米ドルレートの推移

(資料)CEICデータベース

しかし、自国通貨の為替相場と貿易収支との間には強い相関関係は見られない。図7に示すように、05年の人民元切り上げ以降も、貿易黒字は急速に拡大している。07年の貿易黒字は史上最高の2,500億ドルに達する見込みである。

中国経済の構造上の歪みを是正するために、人民元の為替相場についてフレキシビリティを拡大させる必要がある。しかし、途上国の中国において経済規模と所得格差の拡大によりバラッサ=サミュエルソン効果が示すような、経済成長に伴う為替の切り上げは必ずしも必然的な結論ではない。中国にとって懸命な政策オプションは人民元の為替レートを徐々に切り上げるとともに、経済構造の歪みを是正する制度改革を断行することである。

図7 国際貿易収支の推移

(資料)CEICデータベース

5. 結論:2期目の胡錦濤政権にとっての政策課題

さる10月15日、5年に1度の共産党大会が開かれた。これから2期目に入る胡錦濤政権にとり今回の党大会は特別な意味を持つ。一つは1期目で思うままの経済政策と政治改革をできなかったため、2期目で上海閥の人脈を排除し、胡錦濤政権の独自色を打ち出したい。もう一つは2012年以降の指導者候補を指名し、これからの5年間テストしなければならない。

このような文脈から考えれば、今回の共産党大会は成功裏に終わったといえる。曾慶紅国家副主席を代表とする上海閥の大半が排除された。そして、次期政権の中心人物として、習近平や李克強などの後継者が指名された。08年3月の全人代で承認されれば、ポスト胡錦濤政権はいよいよ始動することになる。

胡錦濤政権にとっての政策課題といえば、所得格差の拡大と環境公害の深刻化であろう。しかし、そのいずれを解決するためにも、共産党政権に対する監督監視を認めなければならない。具体的に、市場経済に適する政治体制の構築が求められている。市場経済と共産党一党支配の不釣合いは目下の社会構造の歪みをもたらしている。

別表 中国経済主要指標(2001~2007年3Q)

単位 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007.3Q
実質GDP成長率 前年比、% 8.3 9.1 10.0 10.0 9.9 10.7 11.5
第1次産業 2.8 2.9 2.5 6.3 5.2 5.0 4.3
第2次産業 8.7 9.9 12.5 11.1 11.4 12.5 13.5
第3次産業 7.4 7.3 6.7 8.3 9.6 10.3 11.0
固定資産投資額 13.0 16.1 26.7 27.7 25.7 25.9 26.4
不動産投資 27.3 21.9 29.7 30.3 19.8 25.4 30.3
小売総額 10.1 8.8 9.1 13.3 12.9 13.7 15.9
輸出入総額 7.5 21.8 37.1 35.7 23.2 23.8 23.5
輸出 6.8 22.3 34.6 35.4 28.4 27.2 27.1
輸入 8.2 21.2 39.9 36.0 17.6 20.0 19.1
貿易収支 億ドル 225 304 256 320 1,019 1,775 1,857
直接投資契約金額 前年比、% 10.9 19.6 39.0 6.3 24.0 ▲6.7 n.a.
実行金額 15.1 12.5 1.4 13.3 -0.5 2.1 10.9
外貨準備 億ドル 2,122 2,864 4,033 6,099 8,189 10,663 14,336
消費者物価上昇率 前年比、% 0.7 -0.8 1.2 3.9 1.8 1.9 4.4
マネーサプライM2 17.6 16.8 19.6 14.6 17.9 16.0 18.5
実質収入:農村住民 4.2 4.8 4.3 6.8 9.6 10.4 14.8
都市住民 8.5 13.4 9.0 7.7 6.2 7.4 13.2
都市部登録失業率 % 3.6 4.0 4.3 4.3 4.2 4.3 4.3

(資料)中国国家統計局

(注)2007年第3四半期は速報値。