第6回 経済研究フォーラム
富士通総研経済研究所では、1999年10月20日(水曜日)経団連会館において第6回フォーラム「日本経済・産業の新生に向けて」を開催した。聴衆は282名を数え、盛況のうちに幕を閉じた。以下研究員の発表内容を、田中顧問(経済評論家)が特別講演で提示したシナリオを踏まえて紹介する。
米国経済の強さは本物だが、最近神経質な動きが見られることも否定できない。軽微な調整で終わらせるためには、日本の景気が回復しグローバル資金の受け皿になることが重要である。しかし、1300兆円の金融資産は将来への不安からゼロ金利でも動かず、個人消費に波及していない。国債の償還リスクを考えると、財政出動にも限界がある。松山は年金給付額の調整次第で、保険料率を据え置きつつ給付財源を確保できると主張するが、家計が動く前に企業が新時代のビジネス・モデルを採用し、情報分野など独立投資を実行してグローバル資金を呼び込むことが不可欠だ。資金が入れば円高になり、アジアは日本の内需に依存した経済運営、企業運営ができる。こうしてアジアの景気が回復し結果として日本の輸出が増えることは、1年前に円キャリー・トレードの逆転で実証済みである。
独立投資の重要性は当研究所の分析でも再三指摘されている。長島は産業活力再生特別措置法による投資抑制が中長期的な生産性の低下につながることを懸念し、新規投資を促進する税制を、また絹川は製造業における研究開発投資の収益率が非常に高いことを確認し、科学技術政策の対象として民間部門を見直すよう主張した。独立投資の中心となる情報技術については、浜屋が組織・人事制度の改革との相乗効果を強調し、湯川はネット企業がコミュニケーションが濃密な大都市の狭い地域で発展することに基づき、集積の形成を促す政策を訴えた。生田によれば環境経営の実践は長期的な企業競争力に不可欠であり、独立投資のもう一本の柱に期待できる。
日本への資金流入からアジアの経済回復に至るメカニズムは、今後の研究課題である。だが、これまで通貨危機を何とか回避してきた中国が独自の問題に直面していることを忘れてはならない。金は深刻な財政赤字を伴う国営企業の経営難が、政治行政の介入や無責任な経営者によるものであることを明らかにし、市場原理に基づくコーポレート・ガバナンスの構築を提言した。
詳細
【日本経済・産業の新生に向けて】
9時 受付開始
9時30分~9時40分 開会挨拶 理事長 福井 俊彦
午前のセッション
9時40分~11時40分 「企業経営と資本効率」
9時40分~10時20分 設備投資:設備年齢の動きと生産性に対する影響 主任研究員 長島 直樹
10時20分~11時 研究開発投資:R&D投資経済効果の再検討 研究員 絹川 真哉
11時~11時40分 情報化投資:情報技術の活用と企業パフォーマンス 主任研究員 浜屋 敏
11時40分~13時 昼休み
午後のセッション
13時~15時 「企業経営の新しい挑戦」
13時~13時40分 環境経営の高度化 研究員 生田 孝史
13時40分~14時20分 年金制度等の改革:総人件費コントロールの観点から 主席研究員 松山 幸弘
14時20分~15時 ネット企業の産業集積 主任研究員 安部 忠彦
15時~15時15分 休憩
15時15分~15時55分 中国企業のコーポレート・ガバナンス 研究員 金 堅敏
15時55分~16時55分 特別講演 米国経済・証券市場の動向と日本経済へのインパクト 経済評論家 田中 直毅
16時55分~17時 閉会挨拶 会長 村岡 茂生
「設備投資:設備年齢の動きと生産性に対する影響」
長島 直樹 主任研究員
産業活力再生特別措置法のもと、ストック調整の動きが加速し、今後1~2年は設備投資も抑制気味となる。投資抑制によって総需要が伸びず、景気の本格回復は2001年度以降にずれ込む懸念もある。しかし、さらに深刻なのは投資抑制が既存設備の設備年齢(ヴィンテージ)を上昇させ、中長期的な生産性低下・競争力減退につながることである。資本設備の量的過剰のみならず、質的な側面も考慮に入れた政策対応が必要だ。すなわち、設備廃棄に伴う助成だけでなく、新規投資を促進するための投資減税・加速償却を検討すべきではなかろうか。第二次補正予算も公共投資中心の論議から脱却すべきである。
「研究開発投資:R&D投資経済効果の再検討」
絹川 真哉 研究員
本研究は日本の製造業における研究開発(R&D)投資の生産性を検証し、産業内のR&Dストック収益率が50%前後と非常に高い一方、産業間と政府・大学からのR&Dスピルオーバー、そして基礎研究の収益率に対するプレミアムが確認できないことを示した。産業競争力強化を目指す科学技術政策としては、民間R&Dをいかに刺激するかがもっとも重要で、現行の研究開発に対する税控除制度は抜本的に改める必要がある。
「情報化投資:情報技術の活用と企業パフォーマンス」
浜屋 敏 主任研究員
アメリカでは、情報化投資と生産性に関するパラドックスは、企業が新しい情報技術にふさわしい組織・人事制度を導入したことによって解消したと言われている。この報告では、日本企業における情報技術の活用と組織・人事制度、および業績との関係を分析し、その結果を発表した。わが国の企業においても情報技術の活用と組織・人事制度の改革には相関関係があり、その効果がROAや労働生産性にあらわれていることがわかった。
「環境経営の高度化」
生田 孝史 研究員
環境意識の高まりを反映して、企業にとって環境経営の実践とその高度化は、長期的な企業競争力の維持・向上に不可欠となっている。環境理念の確立と環境マネジメントシステムの導入を終えた日本企業は、施行錯誤しながら環境経営ツールを導入し、適切なパフォーマンス評価をした上で、社外に対して積極的な情報開示と環境配慮型ビジネスの提案を行う必要がある。
「年金制度等の改革:総人件費コントロールの観点から」
松山 幸弘 主席研究員
政府の厚生年金改革案は年金支出合計の約15%削減が柱だが、医療、介護、租税などを合わせた国民負担率を50%以下に抑えるには年金支出を30%以上削る必要がある。そこで、来年から2020年までの間、年金給付額の物価スライドを「実際の物価上昇率マイナス1%」とすることを提言したい。これにより年金生活者への給付財源を確保しつつ、保険料率を20年間据え置きかつ世代間不公平是正も達成できる。
「ネット企業の産業集積」
湯川 抗 研究員
インターネット先進国アメリカの事例から考えると、ネット企業は大都市の極めて狭いエリアに集積しフェース・トゥ・フェースのコラボレーションやコミュニケーションを行うことで発展している。日本でもそうした集積地域が発生し始めているのではないかという仮説の基に東京23区のネット企業の数を調査した結果、渋谷区・港区の一部で集積が発見された。東京都や各区はこうした集積を利用した政策的支援を行うと効果的である。
「中国企業のコーポレート・ガバナンス」
金 堅敏 研究員
本研究は、将来の企業モデルとされる現行株式会社制度・運営自体を分析した上で、政治・行政の介入、経営陣の責任不在が企業赤字体質の源であることを明らかにし、民間ファンドへの国有株や個人株の委託管理及び株式会社の内部機関相互チェックの強化で市場原理に基づくコーポレート・ガバナンスが構築されることによって企業の赤字体質を根絶させるべきことを提言したものである。
特別講演「米国経済・証券市場の動向と日本経済へのインパクト」
田中 直毅 顧問 (経済評論家)
アメリカの株価が崩れて、日本のような長期低迷が始まることはない。日本の経済システムの脆弱性に比べて、アメリカが過去10年ほどで作り上げてきたシステムは、相当強靭なものだ。しかし、いかにアメリカが強靭でも、アメリカ一国で世界の中に立っているわけではない。アメリカの経済調整を軽微にするためには、豊富な金融資産を背景にした日本が世界の投資家に評価してもらえるような経済システムを作り上げる必要がある。
