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第3回 経済研究フォーラム

経済研究所では、1998年4月15日(水曜日)経団連会館国際会議場において、「経済・産業・社会のメガトレンド-激動のアジアと日本」と題し、第3回フォーラムを開催致しました。当日は雨模様にもかかわらず318名もの聴衆を迎え、大盛況のうちに幕を閉じることができました。

経済研フォーラムもこれで3回目となり、発表成果のレベルもかなり向上し、漸くシンクタンクとしての基礎も確立したように思われます。質疑応答の際には厳しい質問をいただいた方からも、コーヒー・ブレークにおける意見交換では、詳細資料の請求や講演依頼と共に、「既存シンクタンクを凌駕するような成果を出している」という声すら聞かれました。参加者に対するアンケート結果によれば、発表者全員が5点満点中4点付近をマークしています。

各発表者の報告は以下の通りです。

詳細

「アジア通貨危機と世界経済」
中山 真一 主席研究員

要旨:
通貨危機に陥った国は、程度の違いはあるが、バブルの崩壊による過剰設備の存在、不良債権の増大による金融危機の他、切下げによる対外債務返済負担増、需要引締めによる景気後退、更には社会不安という五重苦に陥っている。この不況からの脱出は、通貨・経済システムへの信認の回復が前提であるが、緩やかな回復となる。輸出・輸入以外増加が見込まれる需要項目はない。貿易も一時的な要因を除くと急激な増加はない。新たな不安定要因はインドネシア、中国であり、いずれも深刻である。このような現状を改善するには、基本的には経済効率の改善が必要で競争の導入が不可欠となる。通貨危機の影響は直接的には大きくないが、デフレ傾向が強まる懸念がある。日本は国内景気の浮揚が第一で、東アジア空の輸入の促進、経済システムの改革を進めることが必要である。


「アジア経済:回復へのシナリオ」
朱 炎 主任研究員

要旨:
アジア経済が危機から回復するには3段階のプロセスが必要となる。第1段階(金融システムの安定)は、IMFによる資金支援の受入、引締め政策の実施、経常収支の改善、対外債務のリスケジューリング、金融機関の機能回復、人民元の切下げ回避といった条件を充たせば1年から1年半で済むだろう。第2段階(緩やかな回復)は、まず通貨下落によって輸出が拡大するがその効果は一時的であり、いかに内需回復につなげるかが課題となる。危機以前の水準まで戻るには3-4年かかるだろう。第3段階(新たな成長軌道)は、危機発生後5年で漸く構造改革の効果が現れ、危機以前とは異なるメカニズムを通じて成長軌道に復帰するものと考える。


「日米多国籍企業のアジア戦略比較:エレクトロニクス産業を中心にして」
栗原 潤 主任研究員
要旨:


グローバルな規模で大競争時代が到来した現在、多国籍企業は世界各地の景気に敏感に反応し、「適地適産」行動を実施している。今回、エレクトロニクス分野を中心として、日米多国籍企業のアジア地域における行動を比較した。日米多国籍企業は、アジアにおいて、投資残高、雇用者数、生産額どれをとっても、ほぼ拮抗しており、互いに凌ぎを削っている状況である。しかし、その戦略的行動は、以下の点で異なっている。日系多国籍企業は、ハード製品中心で、企業系列を重視し、垂直的一貫生産システムをアジアに展開する形で、いわばClosedな性質を保っている。米系多国籍企業は、ビジネスラインの上で、ソフト製品・ハード製品を巧みに絡ませ、垂直的一貫生産システムを戦略的に崩し、いわばOpenな性質を持っている。今後の日系企業は、日本型生産システムの長所を維持しつつ、米国の企業行動から幾つか学び取る必要があると考えられる。


「日本経済と社会のメガトレンド:所得分配・家族構造・人口動態」
森口 親司 顧問(帝塚山大学教授)
要旨:

女性の再生産率(出産率)が急速に低下し、少子化と高齢化が急速に進んでいる。高齢化が進むと大幅な需要の伸びが期待できないのみならず、国内貯蓄の超過供給が縮小して経常収支の黒字が低下し、円レートの将来にも大きな影響を持つ。生産年齢人口の減少により女性の労働供給に対する需要が伸びる中、この傾向を逆転させることは容易でない。しかし、地方分散が進むと通勤距離の短いところで雇用機会が増え、ITの発展で在宅勤務の可能性が高まれば、女性も子供をつくることに対してあまり抵抗しなくなるかもしれない。地方には輸出企業の高い生産性上昇の再配分に依存する地場企業が多い。輸出企業の脱日本の傾向が増えると、日本経済全体が沈滞する虞がある。そこで、それぞれの地域経済に適合する形で国際化、局地経済圏への参加を進める必要がある。地方経済の生産年齢人口は加速度的に縮小するから、雇用維持を目的として非効率な企業を保護する必要はない。むしろベンチャーキャピタルや社債・株式の発行、特許権の保護や、独創性の喚起など間接支援でいくべきだ。これからはこのような人口減少のマクロ経済学が重要だ。(文責:富士通総研)


「情報技術と生産性パラドクス」
松平 客員研究員/浜屋 研究員
要旨:

アメリカでは情報化投資と生産性の関係について盛んに研究が行われている。最近は、組織や人事制度の改革によって情報技術は間違いなく生産性向上に貢献するようになった、つまり「生産性パラドックス」は解消した、という研究結果が主流を占めている。これに対してわが国では情報化投資と生産性に関する定量的な分析はほとんど行われていない。われわれが行った調査研究では、調査対象となった企業のうち、製造業では情報化投資が企業の付加価値に貢献していることが明らかになったが、非製造業では生産性パラドックスの存在を示唆する結果となった。また、日本企業においても、情報技術の導入と仕事の自主性や成果主義への移行といった組織・人事制度の変更には有意な相関関係が見つかった。しかし、予算面での権限委譲や報酬面での改革は情報技術の利用度とは有意な相関はなかった。このことから、情報技術の導入は結果的に日本企業の組織を変えているが、戦略としての情報技術戦略と組織・人事戦略の間には齟齬があることもわかった。日本企業のホワイトカラーの生産性を高めるためには、計画の段階から調和をとって情報化と組織人事改革を進めることが必要である。


「Private Financial Initiative:日本への導入に向けて」
岸 研究員
要旨:

PFIとは、(1)公共サービス提供に民間の専門性・創造性・技術力・管理運営能力を最大限に活用、(2)民間が設計、建設、資金調達、運営を行う、(3)公共部門は民間から提供されるサービスを購入(必要に応じて)、(4)公共部門はプロジェクトの計画立案に特化する、というものである。PFIの対象をこれまでの公共事業分野はもちろん、さらに他の公共サービス事業にも幅広く適用していく「マーケット・テスティング」を実施することが望まれる。これにより、有効かつ効率的な公共サービス提供が可能になると考えられるが、その際に、資産調達よりもそこから生み出されるサービスに焦点を当て、民間の創意工夫、柔軟性を最大限に生かし、民間企業間の競争確保、民間へのリスクの移転、パフォーマンスに応じた支払いシステムといったことを着実に実施体制の中に取り入れることが重要である。


「日本経済活性化の方策を探る」
米山 主任研究員
要旨:

現在の景気低迷は、消費不振によるところが大きい。家計は、金融システム不安をきっかけとして、将来に対する先行き不安を強め、消費性向(可処分所得に占める消費支出の割合)を低下させている。現在の不況を脱するためには、消費を活性化する必要がある。ここで提案したいのは、個人の耐久財消費や住宅購入について、購入価額の一定割合を所得から控除するという制度である(個人の消費に対する減価償却制度)。この制度は支出に対する減税であるため、所得に対する減税よりも確実な消費拡大効果が望めると考えられる。仮に、個人が購入する耐久財、住宅のすべてが償却の対象になるとすれば、減税効果は約2.7兆円となる。さらに、環境・福祉・情報化対応型の耐久財、住宅については、上乗せ償却を認めることにすれば(償却率の引き上げ)、将来に向けた望ましい消費を拡大させることができる。


「日本経済再興の産業的課題」
香西 泰 顧問 ((財)日本経済研究センター会長)
要旨:

米国経済のインフレなき好況は、米国産業界の競争力強化も確かに一因であろうが、アジアや日本からの安価な輸入品が物価を抑制するとともに、低金利の日本から大量に流れ出した資金が米国に向かったことが大きい。もし世界の資金の流れが変調を来たせば、株式市場の暴落もないとは言えず、そうなれば世界同時デフレの懸念もある。日本は金融システムの再建が遅れており、万一世界同時デフレに突入すれば非常に怖い。また、財政政策の発動に際しては、日本政府の信用を傷つけ資金調達が不利にならないよう、またストップ・ゴーの陥穽に陥ることのないよう留意する必要がある。しかし、財政・金融に留まらず、過剰設備投資からくる資本係数の高さ、資本生産性の低さも大きな問題である。過剰設備投資は国際的な収益還元基準からかけ離れた資産価格に起因し、実質的な設備投資はむしろ抑制されている。資産価格の下落による調整は一面では望ましいが、デフレ効果が心配である。市場為替レートと購買力平価が大きく乖離する現在、円安による調整が続くだろうが、それは生活水準の悪化を意味する。やはり技術革新によって資本効率を引き上げる以外に最終的な解決はない。(文責:富士通総研)