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第10回 経済研究フォーラム

富士通総研経済研究所は、2001年10月17日(水曜日)経団連会館において、第10回経済研究フォーラム「日本経済・産業再構築の鍵」を開催した。今回のフォーラムでは、苦闘を続ける日本経済の再構築のために今なすべきことは何か、構造改革と競争力強化をキーワードに日頃の研究活動の成果を報告するとともに、米国から学ぶべき教訓は何かとの視点から、ロバート・J・シャピロ 前米国商務省次官(現SONECON代表)による特別講演「ITバブルの崩壊とテロ事件発生後の米国経済」を実施した。9月11日の米国同時多発テロの発生とその後のアフガニスタンにおける戦闘が、下降局面にある米国経済と構造改革を急ぐ日本経済にどのようなインパクトを及ぼすのであろうか。世界を取り巻く不確実性が一段と高まる中で、本テーマに対する聴衆の関心は高く、参加者は312名と盛況であった。

当日のプログラムは3部構成から成り、午前中の第1部では、「構造改革の新たな視点」と題するテーマのもとでこれまで行ってきた共同研究の概要と3本の個別研究が報告された。

最初に松山から、共同研究の問題意識および政策提言の説明があり、続いて「社会保障を制度改革のエンジンとする枠組み」と題する研究報告がなされた。この中で松山は、小泉政権が9月に発表した構造改革工程表は、既得権益スクラップ策としての方向は正しいと評価できるものの、日本経済・社会を新しい成長軌道に乗せるためのビルト策が不十分であると指摘、生活保障における公的制度の縮小と自助努力拡大の具体的内容、新規雇用創出につながる地域産業モデルの提示が重要であると主張、公的年金給付の15%カットと積立金25兆円の返還、広域医療介護圏ネットワークの構築を提言した。

続いて田邉は、「保水を軸とする新産業創出」と題し、わが国の産業再生には、年間1兆円規模の「保水税」による保水事業やバイオマス(生物資源)・エネルギー産業の創出が有効であると提案、例えば森林整備事業や河川のコンクリート底をはがし小石を敷き詰める事業などは、環境保護と同時に短期的な需要創出効果もあり、潜在力が大きいバイオマス・エネルギーを活用すれば、エネルギー輸入量を1兆円規模で削減することができると指摘、農林水産業の食料・木材供給とエネルギー産業化により、地域経済の再生も可能となると主張した。

最後に渡辺は、「銀行貸出の配分と不良債権処理」について、銀行の不良債権問題が、銀行を経由する資金の流れすなわち銀行信用の配分の歪みを通じ、実体経済に悪影響を及ぼしている可能性があるとの仮説に基づき、企業のマイクロデータを用いた実証分析により、資金の流れの歪みはバブル期に大きくなった後90年代においても是正されていないことを指摘、不採算企業に対する追い貸しが、経済全体としてみても大きなコストを生んでいることを示し、こうした歪みを是正するためには、銀行経営者や株主のインセンティブを変え過小資本の解消を図ることが重要であり、今後とも銀行に対し資本増強を強く要請していく必要があると主張した。

午後は、前半の第2部において、「IT時代における競争力強化の道筋」と題するテーマのもとで、これまで行ってきた共同研究の概要と3本の個別研究が報告され、後半の第3部では、「米国経済の教訓」と題し、シャピロ氏の特別講演とこれに対するコメントおよび質疑・応答が行なわれた。

第2部では、初めに安部から共同研究の問題意識および政策提言の説明があり、続いて「エレクトロニクス産業の競争力向上に向けて」と題する報告が行なわれた。この中で安部は、90年代に成長したIT製品分野で日本が大きなシェアを取れなかった背景に、IT製品の生産形態が、従来日本が得意とした一体統合型からアンバンドル型のEMSやファウンドリーに外注する形態に変化したことが挙げられ、これに日本企業が対応できなかった点を指摘、今後日本が得意とするデジタルAV機器などへEMS形態が普及することを考えると、日本企業としても、従来のEMSの欠点を補うかたちでの提携型EMSの採用により、競争力を維持することが必要であると主張した。

次に西尾は、「産業競争力強化のための大学の役割」との視点から、主として研究活動においてこれまで大学が果たしてきた役割と課題を検証し、競争力向上に果たす大学の役割を強化するための方策につき提言、特に上位大学では、これまで研究費や施設設備など多くの投資が行なわれてきたにも拘わらず、論文数や引用数などに十分な成果として結びついていないとし、今後旧帝国大学系以外の大学の研究環境を整備し、層の厚い大学システムを作ることにより、大学間の競争を高めることが必要であると主張した。

最後に峰滝は、「日本のIT革新と生産性の強化」と題し、日本の産業の国際競争力を向上させるためには生産性の強化が必要であり、そのためにはIT革新の観点からみて何が重要であるかとの問題意識から、労働生産性上昇の要因をCapital DeepeningとTFPに分解し産業別に実証分析を行い、今後IT革新が日本の生産性を上昇させるためには、IT利用産業においてITを有効利用できる人材の供給が必要であり、IT産業においてはサイクルの早いイノベーションの波に適応できる開発力が求められると主張した。

第3部の特別講演では、シャピロ氏が、ITバブルの崩壊とテロ事件発生後の米国経済について、IT需要の落込みが過剰生産、過剰在庫を生み、製造業の設備投資の減少を招き、経済全体の景気後退を引き起こしている中で、今回のテロ事件の発生したため、消費者や企業の先行き不安が増加していると指摘、経済が逆風にある中でのショックだけに、経済の落込みに一層拍車をかける懸念があり、米国経済の回復は9-14ヶ月後になろうと予測、回復の鍵は景気刺激的な財政政策、消費の回復、対ユーロ・ドル安の持続にあると指摘した。

また、米国経済に影響を及ぼしているショックとして、(1)テクノロジー・ショック(2)財政政策ショック(3)生産性ショック(4)金融ショック(5)テロリスト・ショックの5つを取上げ、経済回復にとって重要なのは、国民経済や政策システムが、技術、組織、政策転換に対して如何に開かれているかであり、日本は豊かな人的資源、技術、資本を活用し、企業や政府がビジネスや経済を開放していくことが大切であり、それによって国内外の市場に対するショックに柔軟に対応していくことができると主張した。

これに対し、根津は、OECDでの経験も踏まえ、各国のIT革新の現状につき比較検証するとともに、米国のブロードバンドの将来性、今後のITによる米国の生産性上昇の可能性、テロ発生を契機としたセキュリティとプライバシー保護等につきコメント、フロアーからも日本の現状との比較も含め活発な意見が出された。

詳細


「日本経済・産業再構築の鍵」


9時 受付開始
9時30分~9時40分 開会挨拶 理事長 福井 俊彦

午前のセッション
9時40分~11時40分 第1部「構造改革の新たな視点」
9時40分~10時20分 社会保障を構造改革のエンジンとする枠組み 主席研究員 松山 幸弘
10時20分~11時 保水を軸とする新産業創出 主席研究員 田邉 敏憲
11時~11時40分 銀行貸出の配分と不良債権処理 客員研究員 渡辺 努


11時40分~13時 昼休み

                                    
午後のセッション
13時~15時 第2部「競争力強化の道筋」
13時~13時40分 エレクトロニクス産業の競争力向上に向けて 主任研究員 安部 忠彦
13時40分~14時20分 産業競争力強化のための大学の役割 上級研究員 西尾 好司
14時20分~15時 日本のIT革新と生産性の強化 主任研究員 峰滝 和典

15時~15時20分 休憩

15時20分~16時50分 第3部「米国経済の教訓」
15時20分~16時20分 特別講演
「テック・バブル崩壊後の米国経済」 SONECON代表 ロバート・シャピロ (前米国商務省次官)
16時20分~16時35分 コメント 常務理事 根津 利三郎 (前OECD科学技術産業局長)
16時35分~16時50分 質疑応答

16時50分~17時 閉会挨拶 社長 佐藤 至弘