Skip to main content

English

Japan

攻めの農業を中心としたスマートビレッジの実現を目指そう

2011年11月1日(火曜日)

1. はじめに

日本の農業は、所得の減少、担い手不足の深刻化、高齢化及び食料自給率の低下など、多くの課題を抱えています。さらに、東日本大震災で東北地方の農業は大きな被害を受けました。農業を主な産業とする中山間地域では、雇用も減少し、活力が低下しています。

こうした中で、国や地方自治体が相次いで、農山漁村の資源をエネルギー生産へ活用促進する、いわゆるスマートビレッジ構想を打ち出しています。しかし、その内容はまだ再生可能エネルギーの活用や豊かな自然や景観との共存といったコンセプトにとどまっています。

ここでは、生産する農作物のみならず、施設栽培のノウハウ・設備・環境制御システムなど、仕組み自体を世界中に提供するオランダの事例を参考に、農業を中心とした街づくりについて述べます。

2. 生産性向上のためのエネルギーの有効活用

農業が活力に満ち、若者が魅力を感じて従事したくなる産業になるには、やはり生産性の高い、儲かる産業となる必要があります。そのためのオランダ農業の取り組みを、エネルギー資源の効率的活用という点に絞って見てみましょう。

CHPシステムを活用したトリジェネレーション

【図1】CHPシステムを活用したトリジェネレーション

オランダでは農作物の収量を上げるために、施設内の環境を徹底的にコンピュータ制御しています。その制御因子としては、(1)日射、(2)温度、(3)湿度、(4)CO2が主なものですが、大規模なトマト農家の実に95%が、自らCHP(Combined Heat and Power)システムを用いて天然ガスを燃やし、CO2、電力、および熱エネルギーを抽出しています。そして、CO2は施設内に供給して光合成に利用し、電力は補光ランプに、そして熱は施設内の温度・湿度調節にと、全てを無駄なく利用しています。その結果、トマトの収量は1㎡あたり60~65kg(日本の約2倍)を誇り、また余った電力は電力会社に売却して副収入を得ています。

CHPエンジン

【写真】CHPエンジン

もちろん、施設の規模や天然ガスの価格および供給インフラ、あるいは電力事情の違いなどの制約があり、このスキームをそのまま日本に持ち込むことはできません。しかし、まずは農業というビジネスにおいて、いかに収益を最大化するか、そしてそのために採算の合う大規模なエネルギー利用を厭わないという姿勢は学ぶべきところがあります。日本においても、まずビジネスという観点から、最良・最適なエネルギーの利活用を検討することが重要であると考えます。

3. 街の中央にグリーンハウス

そうしたビジネス感覚に溢れ、“元気な”農業生産者が中心になった街づくりの事例を1つ紹介します。

ドイツとの国境に近いオランダVenloのGreen Portkas Venloでは、エネルギーを街の公共施設で効率的に有効利用するために、農業施設を中央に据えた街づくりが進められました。農業生産法人SunnyTom社の新しいグリーンハウスでは、CHPシステムで天然ガスを燃やして産出した熱(熱水)について、地下の帯水層を利用して低コストで備蓄しています。そして、その熱エネルギーを周辺に誘致した学校や養護施設へ必要な時に供給することで、副収入を得ています。公共施設側でも通常より安いコストで光熱費が賄われるため、win-winの関係が成立しています。このプロジェクトのポイントは、国や自治体がこれを推し進めたのではなく、SunnyTom社の社長であるJoep Ramakers氏が自ら企画し、関係者を巻き込んで実現させた点です。

農業施設の“熱”を公共施設に提供する仕組み

【図2】農業施設の“熱”を公共施設に提供する仕組み

4. おわりに

オランダの生産者と話をしていて感銘を受けるのは、“ビジネス”を徹底的に追求するその姿勢です。生産者の「Entrepreneurship」(起業家精神)が尊ばれ、まず本業で徹底的に収益を追求することが原点ということが当たり前となっています。

日本においても、まず農業で収益を上げる工夫を追求し、採算に合うエネルギー利用をシミュレーションすることがまず第一歩と考えます。その先に、よりクリーンなエネルギー活用、ひいては地域経済の活性化、雇用の促進が見えてくるものと考えます。

関連サービス

【農業・バイオマス】
安全な食の安定的な供給、農作物のエネルギー・マテリアルへの利用、農業がもたらす環境保全などの多面的な視点を踏まえ、国・地域が抱える農業の課題をともに克服していきます。


桑崎喜浩

桑崎 喜浩(くわさき よしひろ)
株式会社富士通総研 金融・地域事業部 シニアマネジングコンサルタント
1993年 富士通株式会社入社、同年 株式会社富士通システム総研(当時)へ出向。
保険会社向け業務改革構想策定支援、新販売チャネル企画支援、契約管理システム再構築PMOなどに従事。