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グローバル化のビジネスモデルの見直しを

2008年12月4日(木曜日)

1. グローバル化のビジネスモデル創造

2002年に始まった戦後最長の景気拡大は昨年の第3四半期で終了したが、これは1990年のバブル崩壊後の「失われた10年」からの劇的な回復であった。それは政府の施策あるいは学者やエコノミストの提言というよりも民間企業が技術力を磨いて輸出を大きく伸ばしたからであった。すなわち、民間企業が国内の需要が頭打ちであるために海外に進出したのだが、そこには様々な戦略があり、独自のビジネスモデルが構築されたのである。

わが国だけを見た場合には、33兆円という巨額の為替介入による円安誘導も大きな要因に違いないが、世界に目を移すと、この時期はグローバル化が劇的に進んだのであり、輸出で稼いだのはわが国だけではない。BRIC’sを始めとして東南アジア諸国など広い範囲にわたっている。グローバル化という概念は、世界中の資源を効率よく使って経済を発展させるということである。資源保有国とそうでない国の二極化を生み出すという副作用はあるが、グローバル化はマクロでみれば良いこととされている。ところで、マクロで良いことが個別企業にとってもそのまま良いとは限らない。個別企業は、自らの環境に合ったビジネスモデルを生み出さなければならないのである。

2. 業種によって異なるビジネスモデル

ここ何年かを振り返ると、わが国の企業はそれぞれ自分のビジネスモデルを開拓してきた。代表的な例を挙げると以下のようになる。

  • 自動車メーカー・・現場主義による徹底した効率化やコストの絞り込みは良く知られたことだが、同時に、アメリカを例にとると、複数の州に工場を展開して雇用を作り出すことで地元を味方にし、日本車排除を避けてきた。また、ハイブリッドカーのイメージを強調し環境保護団体を味方につけることも行った。日本と違って欧米のNPOは社会を動かす力を持っており、これを意識した洗練された戦略である。
  • 鉄鋼メーカー・・素材産業全般に共通することだが、海外企業と提携・連携を通して巨大化し、大手主導の寡占体制を目指してきた。さらに、鉄鉱石、石炭などの資源確保を狙った縦型の連携モデルを作り上げてきた。
  • 家電などの消費財メーカー・・一つは、中国、東南アジアへ生産拠点を展開し低コストを実現した。一方で、液晶のような高度技術については国内工場に投資を集中し、巨額の投資を分散させない戦略を取って高品質と低コストのバランスを目指した。

個別企業の戦略は以上のようにそれぞれである。マクロの議論と個別企業の戦略は分けて考えなければならないことが良く分かる。

3.アジア通貨危機と景気刺激策

重要なポイントはここからだが、最近交わされている議論では、グローバル化が進展する背景には必ずマクロの流れがあるとされている。今回の場合には、アメリカFRBのグリーンスパン議長が2001年の1年間で5%近い急激な利下げを行ったことが決定的な要因と言われている。

1997年にアジア通貨危機が起きて、タイ、インドネシア、韓国などが大きなダメージを受けた。その対策にIMFが立ったのだが、それが評価できるものではなかった。すなわち、グローバル的な危機に対して、それを救済する機関が不在であることが判明した。

以降アジア各国は先進国資本に頼った発展を止めて投資レベルを極端に落とした。これまで進んできたグローバル化が停滞を始めたのである。この状態が続けば世界全体が不況に陥る危険性が大であった。アメリカは世界のGDPの30%を占めている。世界の不況はアメリカの大きなダメージにつながる。そこでグリーンスパン議長が大幅利下げでアメリカの消費を刺激し、世界経済を再び好況に持っていったとされている。

4.バブルの破裂はビジネスモデルの再構築につながる

経済は往々にしてオーバーシュートする。極端な利下げはアメリカのバブルを生み出したという見方があり、それは2007年8月に破裂した。バブルが破裂したということは、アメリカが従来のように大量の輸入をできないということにつながる。それはアメリカにとっては数量的な意味に過ぎないのだが、輸出国にとっては産業構造の変化となる。それは、とりもなおさず個別企業のグローバル戦略が通用しなくなることを意味する。輸出国の環境が大きく変わるのだから当然のことである。

手をこまねいて、世界景気が回復するのを待っているわけにはいかない以上、個別企業は改めてグローバル化ということを自らの立脚点で見直さなければならない。何を海外に求めるのか。マーケットか、生産拠点か、パートナーか。利益を生み出すバリューチェーンをどう作るのか、実現するための戦略は、リソースはどうするか等々。

一部のエコノミストが言うように、経済構造が全く変わってしまうわけではないが、未体験ゾーンに突入することは間違い無い。過去の成功体験に引っ張られることは避けるべきで、何よりも大切なことはグローバル化の形にもいろいろあるという当たり前のことを再確認することである。新しい形態に沿ったビジネスモデルを創造しなければならない。

また、現在の円高を見ると、M&Aの好機と写る。それは事実だが、買値が安いということはそれなりの理由がある。無条件に良い買い物であれば、世界中が貧乏になったわけではないから必ず他の買い手が現れるはずだ。競合がないということは、世界中がお買い得とは思っていない証拠である。

やや乱暴な言い方になるが、平常時では手に入らない圧倒的な技術やシェアを持っている企業に対するM&Aであれば好機だろう。三菱UFJ銀行がJ.P.モルガンチェースに出資したが、短期的には批判を浴びているものの中期的には投資銀行業務を獲得するという評価はあってしかるべきだろう。一方で、単に資金を出して株主になっただけという例も散見される。また、現在アラブ産油国がやっているように、石油枯渇後に向けて国を支える産業を育成するという戦略的な投資にとってもグッドタイミングと言えよう。

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佐々木取締役顔写真

福井 和夫(ふくい かずお)
(株)富士通総研 顧問
70年富士通に入社。95年富士通総研取締役研究開発部長に就任。98年に同総研取締役金融コンサルティング事業部長兼研究開発部長、2005年常務取締役第一コンサルティング本部長、2008年6月より顧問に就任、現在に至る。他に、早稲田大学ビジネス情報アカデミー講師、日本コーポレート・ガバナンス・インデクス研究会(JCGR)監事も勤める。著書に「新たな制約を超える企業システムの構想」「ネットワーク時代の銀行経営」(富士通出版)等がある。