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次世代知的情報アクセスへの期待(3)

2008年11月13日(木曜日)

危機に瀕するアーカイブ映像情報

情報の産出・蓄積・交換・創出が加速化する中で、指数関数的に増大する情報の大きな要因となっているのが、放送や映画等の画像・映像情報であることは、異論のないところであろう。しかし、知的情報アクセスという面から画像・映像情報を捉えてみると、現状では不十分という感が否めない。とりわけ映像情報に関しては、利用者側のニーズが増大かつ顕在化傾向を示す中においては決して高い水準にあるとは言えない。

現在、映像の検索に関しては、メタ情報と言われる映像に付されたその映像の意味情報をもとに検索されているのが実状である。言い換えると、付与されたテキストの分析による画像の索引化で検索が行われ、映像情報そのものを検索対象にしているわけではない。加えて言うならば、映像に付与されたメタ情報自体が、必ずしも客観性や一般性が保持されたものではない場合もあり、故意か否かは別として、そうした恣意性が映像情報へのアクセスそのものを阻害する要因にもなりかねない。また、言うまでもないが、世の中には種々様々の映像が数多く存在し、その大多数に、現状ではメタ情報さえ付与されていない。

情報表現という意味では、量的にも質的にもテキストとは比較にならないほど高い価値を有する映像情報が、二次利用、三次利用できないばかりか、死蔵されているのが実態とも言える。さらには何の手段も講じなければ、今この瞬間に産出され、蓄積され、また交換・流通している映像情報も、これまでの映像情報と同様に死蔵の道を歩まざるを得なくなるケースも少なくないのである。

今年12月からオンデマンドサービスを開始する予定のNHKには、現在、フィルム、アナログテープ、デジタルテープ等、あわせて約60万時間分のテレビ・ラジオ番組が保存されていると言われる。これにメタ情報を付与し、体系化したデジタル情報として保存するために費やす時間が、番組平均1時間かかるとすると、全て体系化するためには、およそ60万時間かかることになる。これを24時間365日休むことなく10のライン構成で対応すると仮定すると、概ね7年弱の年月がかかる。また、この間にも番組は蓄積されるため、それが10万時間分であるとすると、総時間数は70万時間、約8年の歳月を費やさなければならない計算になる。

また、「教育や文化の振興を通じて戦争の悲劇を繰り返さない」との理念により、1946年国際連合の専門機関として設立された国際連合教育科学文化機関、いわゆるUNESCO(ユネスコ)に目を転じてみると、ユネスコには、世界の視聴覚用資料のストックが、映画を除いて約2億時間分あると言われている。仮に、前述のNHKの計算方法を当てはめて計算してみると、2283年という途方もない年数になる。ストックされている映像情報のみを見ても、その実態は危機に瀕している状況にあると言わざるを得ない。

映像情報による価値創造に向けて

映像情報へのアクセスは、アーカイブなどのストック情報に限らない。映像情報のもたらす効用とその適用領域の拡大傾向は日増しに増大しており、将来に向けても重要かつ多大なものになると予測されているからである。

例えば、カメラの急速な技術進歩によって、今や町中に様々な映像情報が溢れている。お天気カメラや街角カメラの映像もあれば、監視カメラに代表される環境カメラが映し出す環境映像もある。また、爆発的な普及を見せた携帯電話には、その多くに基本機能としてカメラが付くとともに、デジタルカメラは低価格で高画質化が図られ、そればかりか小型・軽量化が急速に進展したことで、誰もが、いつでも、どこでも、簡単に、映像を撮ることが可能になっている。また、こうして撮影された映像は、様々な形で蓄積され、交換され、また、双方向で流通し始めている。

さらには、映像の生成技術や編集技術、平面(2次元;2D)映像から立体(3次元;3D)映像化を図る技術など、映像処理等の各種技術革新によって、新たな映像情報の価値創造が実現可能になってきている。それは、大画面の高精細ディスプレイと連携することでバーチャルスタジアムを可能にしたり、2D映像から3D映像を組成することで、擬似的な実空間を実現するのみならず、その擬似実空間を容易に編集・加工できたりするなど、現実世界と仮想世界の関係性を、より進化、また、深化し始めているのである。

こうした映像情報がもたらす新たな価値は、映像情報であるがゆえの特長とも言えるのだが、そうした映像情報が有する価値の恩恵を受け、さらなる価値創造を図る上でも、映像情報のアクセス環境の整備が急がれる。NHK放送技術研究所が開発し、実用化途上にある二つの技術がある。メタ情報の自動生成・付与技術ならびに映像情報を映像として扱い、映像そのものの意味を解析・理解する、映像の意味理解技術だが、その早期の実用化や商用化が大いに期待されるところである。

知の協創により

前回取り上げたパーソナライズドにしても、今回の映像情報へのアクセス環境の整備・構築しても、次世代知的情報アクセスに関する取り組みという点では、何れもその1つの側面でしかない。次世代に向けて、真の知的情報アクセスを実現して行くためには、デジタルデバイドも視野に入れた利用者層の広がりへの対応、パソコンのみならず、携帯端末や情報家電、ロボットなどの利用端末の高度化への対応、固定、移動、その連続・連携や共有など、利用環境(場)の多様化への対応、映像情報やセンサー情報、リアルタイム情報などの情報・コンテンツの量と質への対応、さらには、安心・安全や教育・文化などの社会的重要度の高い領域での用途や目的への対応など、多くの課題が想定される。そして、その課題を解決していく道のりは、決して楽ではないことも事実である。しかしながら、私たちの目前には、否応無しに情報アクセス受難の時代が迫ってきている。

資源を持たない日本だが、“技術”と人々の“知”によって、これらに正面から取り組み、次代を切り開くために多くの人々が協力し、一緒になって推進する、まさに“知の協創”の実現こそが、解決への最大の近道であると信じるし、さらなる“知の創発”へ続くものになると考えるものである。

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佐々木取締役顔写真

佐々木 一人(ささき かずと)
(株)富士通総研 取締役 第一コンサルティング本部 エグゼクティブコンサルタント(主席研究員)
(株)長銀総合研究所を経て、1998年(株)富士通総研入社。2008年4月から現職。
著書に『新産業地図~激変する主要産業の現状と展望~(マルチメディア産業)』(共著;講談社)、『ケータイビジネス2001』(監修著作;ソフトバンク・パブリッシング)、『ブロードバンドビジネス2002』(著作;ソフトバンク・パブリッシング)など。その他、雑誌、新聞等に記事原稿を多数掲載するほか、通信・放送メディア産業、並びに、同関連事業に関する各種調査・研究、コンサルティング、アドバイザー等に従事。