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金融危機が起こす保護主義、グローバル化の停滞

2008年10月15日(水曜日)

スピードを持った定石通りの対策

2週間をかけてアメリカ議会はBailout Billを通過させた。選挙が近いこともあって政治的パフォーマンスは致し方ないところだが、条件付ながら瀬戸際で大きな対策が実現することになった。しかし、忘れてはならないことは、海外から見ているとニューヨークとカリフォルニアが目立つが、アメリカは広大であって両者の間には堅実で保守的な階層が住んでいることだ。ともするとウォールストリートとシリコンバレーがアメリカの代表と思い込みがちだが、国民の大部分は保守的な愛国者という事実である。今後を見通した時に、このことは無視できない要素になるが、それは後で詳しく述べる。

7,000億ドルの救済策が承認、欧米主要国の連携した利下げ、そしてG7の共同声明と矢継ぎ早に手が打たれているが、人々の不安は払拭されない。いよいよ政府の銀行に対する資本注入というステップに踏み出した。1990年代の日本でも行われたことだが、金融危機への対処は、「流動性の投入」、「新たな規制の立案」、「不良化した資産の価格付け」、最後には「債務超過の恐れのある金融機関の査定と政府出資」だ。今回の危機は奥が深く規模が大きいこともあってか、対策が極めて短時間に行われている。スピードが速すぎるための混乱もあるし、不安心理によってプライベートファンドや投資信託から投資家が逃げており証券市場が暴落しているのだが、着実に手が打たれていることで遠からず落ち着きを取り戻すだろう。

グローバル時代の不均衡

10月7日付のニューヨークタイムスが重要な記事を載せていた。経済紙とはやや違った観点を持っているのだが、アメリカで始まった金融危機が海外に波及して、それがまたアメリカに返ってきた、というものだ。サブプライムローンに関係の薄かったロシア、ブラジル、インドネシアそして中東にまで影響を及ぼし始めている、と指摘している。

この記事を整理すると、2つの事柄についての指摘に集約できる。1つは金融のことであり、もう1つは実体経済についてだ。

前者の金融については、これだけグローバル化が進み、世界中の金融機関が相互に密接な関係になっているにもかかわらず、それをコントロールする機関が存在しないという制度の欠陥だ。EUには中央銀行があるが、財務担当の政策機関は国ごとだ。また、1997年に始まったアジア通貨危機で中心的な役割を果たしたIMFが今回はなんら有効な活動をしていない。それでは、G7がその役割を担っているかといえば、既にグローバル経済は先進7カ国を超えてしまっている。通常の状態であれば市場原理に任せておけるとしても、今回のように外部からの力が必要な場合に対応する組織が存在しない。これは金融のグローバル化が目を見張る速さで進んだにも関わらず、制度がこれに追いついていないということだ。換言すると、国境という存在に対してグローバル化が引き起こした矛盾である。

後者は危機が実体経済に移りつつあるということだ。今回の問題の発火元である金融機関が痛むのは致し方ないとしても、金融収縮は実体経済に影響を及ぼし始めた。それは、個々の国の経済を停滞させるのはもちろんだが、実体経済もグローバル化しているので、アメリカの消費の停滞が周囲を巻き込むことになる。アメリカの中からみれば数量的な減少ということになるが、アメリカへの輸出で急成長してきた国々においては、それに止まらず経済の構造が変わることにつながる。

既に表面化しつつあるのは、輸出を梃子にして急速な経済成長を見せてきた国々だ。東欧やアイルランド、あるいはロシアから資金を導入しようとしているアイスランドである。そして、これからはもっと多くの国が影響を受けることになり、中国、インド、ブラジル、そしてわが国も例外ではない。このように、サブプライムローンとは直接関係のない国の経済構造が変わらざるを得なくなってくるのである。すなわち、実体経済もグローバル化してきたのだが、それが停滞し後退するか、あるいは違う形に向かうかもしれなという問題である。

保護主義台頭の恐れ

アメリカはリセッション入りの馬の背にいると識者が指摘している。その対策については多くの専門家が提言しているのでここでは置くとして、企業人の目線としては、その後について考えておく必要がある。

懸念されるのは、金融資本市場が落ち着いたとして、その先において経済の停滞あるいは縮小に止まらず、各国が保護主義に移っていくことだ。今回のアメリカで直接傷つくのは金融業界とサブプライムローンの借り手である個人だ。株式市場の下落によって企業の財務も悪化しているが、産業界の基本的な体力や技術は傷ついていない。GMなどのビッグスリーの危機は元々原油高から来ており、金融危機がこれを強めたにしても別問題として捉えるべきだ。

今後、アメリカ政府は国内産業を大切にしていくだろう。それはアメリカ国民の民意に沿うことでもある。11月4日に選出される新大統領は、産業の振興によって強いアメリカの再生を目指すだろう。そして、それはヨーロッパも同じだ。元々ヨーロッパは自国の産業優先の傾向が強いが、一層それが濃厚になるだろう。

したがって、強い国による保護主義が台頭してくる可能性が高く、ここ何年かで急速に進んできた実体経済のグローバル化が一時的に停滞すると考えられる。グローバル化は世界中の資源を市場に乗せることで効率的な活用を実現するのだが、その停滞は随所で需給のアンバランスが発生するという歪な形の構造になり、修復するには一定の時間を要することになるだろう。

経済構造の再設計

わが国のように国内に大規模な生産設備を持ち、国内のマーケットも大きい国では、国内需要拡大策に転換することもあり得る。むしろ苦しいのは、東欧などグローバル化の波に乗って急速に伸びたが国内の需要が追いつかない国だ。中国も同じ一面を抱えている。ありていに言えば、アメリカが膨大な貿易赤字を承知で大量輸入していたのも、ローンで借りた泡銭だから気前よく買っていたというところだ。輸出先が無くなった国はグローバル化以前の状態に戻ることになるだろう。

それでは、わが国が安泰かというと、もちろんそうではない。2つの問題があると考えられる。1つは、個々の企業の事柄であり、もう1つは経済構造の問題だ。

今回暴走があったとはいえ、投資銀行機能はなくなることはない。その理由は一般事業会社が必要としているからだ。投資銀行は複数の顔を持つが、一般事業会社に対して提供してきた機能に経営資源の効率化がある。例えば、バランスシートの資産・負債の形を変換することで、企業間で融通し合うことを可能にする。資金の効率的活用である。もう1つ代表的な機能としてM&Aの仲介があるが、これは事業ポートフォリオを入れ替えることでヒト、モノを有効に活用する手段だ。当面投資銀行の活動が沈静化するだろうから、事業会社は自らの手でこれを行わなければならなくなる。

次に、内需を刺激するために公共投資が急速に増加していくと予想される。2002年から続いてきた好景気は昨年末で終わったということだが、その原動力になった対米輸出の減少は単に数量的な縮小では収まらない。産業によってそれぞれ事情が異なり、全体としては構造的な変化が起きることになる。すなわち、個別企業の問題では収まらず、経済全体の鳥瞰図が必要になる。自動車、電機などは既に縮小が始まっており、鉄鋼や機械にも陰りが見え始めてきた。

政府は内需拡大を打ち出すことになるだろうが、その形は今までとは違うものでなければならない。これまでの地域振興や環境対応ではなく、例えば農業の仕組みを抜本的に改革するなどの思い切った設計図とプロセス作りの好機である。

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佐々木取締役顔写真

福井 和夫(ふくい かずお)
(株)富士通総研 顧問
70年富士通に入社。95年富士通総研取締役研究開発部長に就任。98年に同総研取締役金融コンサルティング事業部長兼研究開発部長、2005年常務取締役第一コンサルティング本部長、2008年6月より顧問に就任、現在に至る。他に、早稲田大学ビジネス情報アカデミー講師、日本コーポレート・ガバナンス・インデクス研究会(JCGR)監事も勤める。著書に「新たな制約を超える企業システムの構想」「ネットワーク時代の銀行経営」(富士通出版)等がある。