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見える化と見せる化

2008年3月10日(月曜日)

見える化というキーワードが叫ばれて久しいが、昨今のITの進展に伴って、経営者が見ることが出来る対象範囲や見ることができる人の範囲は格段に拡大しつつある。さらに、企業内から外部への情報拡散のスピードは想像以上である。それを充分に認識しないで経営し、内部告発に端を発した数々の不祥事になどで企業イメージダウンにつながるケースが散見される。すなわち、「ばれないだろう・握りつぶせるだろう」という思い込みや、企業論理優先で消費者不在の姿勢では、一瞬にして情報が共有されるネット社会では通用しないということである。一方、こういった環境変化を認識し上手く付き合う企業はステークホルダから高い評価を得ることができ、それを企業競争力の一部としている。

企業活動で誰が何を見たいのか

昨今「見える化に取り組みたい」と言われる事が多くなっている。しかし、企業の見たい事業や活動のレベルにより、見たい対象は絶対値/比較/変化度合いなどの多様な組み合わせが存在する。見える化の目的はアクション項目を定めるための気づきを生むことであり、多くの場合は他と比較することから気づきが生まれる。アクションとは目指す将来へのマネジメントアクションを意味しており、目指す将来像を念頭に「何を見たいのか」を議論することがポイントである。見える化で何を見たいのですかと聞くと、販売、在庫、生産などの事業プロセスの情報を、地域、顧客、製品毎の切り口で分析したいという要望が多いが、なぜそれを見たいのか、どのように分析しようと考えるのかについては曖昧なケースが多い。

見える化で測定する指標をKPI(Key Performance Indicator)と呼び、活動の成果を測る成果指標と、プロセスの改善能力・成熟度などを測る能力指標とに分類できる。企業におけるKPI設定の考え方の代表例として、BSC(Balanced Score Card)のフレームが挙げられる。個々の具体的な指標例は場面によって多くの標準が提唱されており、例えばSCORモデルなどがある。世の中で最も標準的KPIはPL/BSであろう。このような標準を用いる理由は、同業他社との比較ができることであり、比較することによって様々な気づきを生むからである。ここで留意すべきは、企業の経営的活動成果と、現場の日々のプロセス指標との間の因果関係を定め、組織内で共有する点である。即ち、改善に向けた投資と期待効果を経営者と現場とで指標として共有し、成果を追求する活動の定着化が重要なのである。お客様によっては、これを戦略マップと呼んで、事業計画立案の必須事項として運用されているケースもある。

見える化の壁

ここ10年のITの進歩により、情報収集できる対象が特定領域から不特定領域へと格段に広がった。一方で信頼出来ない情報と真に必要な情報の区別が難しくなっている。ITの進化を実感する卑近な例は、オープン化に伴う検索技術の発達である。例えば全文検索技術や画像・音声検索技術が浸透し、利用者はどこに何があるか意識する必要がなくなってきている。またWeb2.0が象徴するように、今までは企業などからの一方的情報発信が常識であったが、今では双方向が当たり前となっている。

翻って企業内部ではどうか。ここでもエンタープライズサーチと呼ばれる技術により、検索されるデータ形式の標準化制約が緩和されてきている。同時に、今までは個人PC内に保存していた情報も、ネット上の仮想ドライブなどの普及などにより、データ収集のハードルは以前よりも低くなっており、よりスピーディで広範な見える化を実現できるようになった。製品の生産状況などもICタグなどによって正確な情報収集が可能となってきた。

しかしながら、経営者の見える化への期待に応えるためには、ITでは克服できない領域が存在する。例えば、企業活動の源泉となるマスターデータの粒度統制である。すなわち、企業活動において地域毎に顧客コード体系が異なったり、納入実績の取得サイクルが日次・週次・月次と拠点によって異なったりする状況下で、企業内で横串を通して見える化することは、ITによってカバーできない領域であり、課題として認識、対応する必要がある。

即ち、情報の信頼性、粒度、時間軸などを考慮し、「見える」「見たい」「見るべき」のそれぞれに潜む壁を経営者が認識した上で、数値化された情報を基に経営判断する必要があろう。

・ 見える・・・企業活動の正しい数値化の壁、データの粒度や運用に依存

・ 見たい・・・分析する視点の壁、企業内・外、過去・現在・将来予測を勘案して

・ 見るべき・・・社会の期待に応える壁、CSRに代表される多様なステークホルダの視点で

見える化から見せる化へ

従来の見える化のスコープは、主に企業内部で発生した情報を企業内部に発信することが中心であった。従って、時間軸も過去・現在であり現状認識の意味合いが強いケースが多い。しかしながら、企業のステークホルダの多様性が顕在化し、彼らの声が企業の存続を決定すると言っても過言でない現在、見える化のスコープは企業内部に閉じていてはならない。企業活動をガラス張りにする努力を継続し、将来リスクへ備えている姿を発信し、ステークホルダと双方向のコミュニケーションを可能にするためにも、見える化と見せる化とはセットで捉えるべきである。

対象情報の時間軸を現在から将来へ拡張し、コミュニケーション対象を企業内からステークホルダへ拡張して考えると、以下のような捉え方ができる。

(1) 企業内×現在:BPRを目的とした見える化

(2) 企業内×将来:事業継続、企業リスクマネジメントへの対応

(3) ステークホルダ×現在:IR/CIを目的とした見せる化

(4) ステークホルダ×将来:CSRを念頭においた経営

このように、(1)BPRのための見える化から、(4)ステークホルダとの双方向コミュニケーションかつ将来事業展開へスコープを進化させることで、社会との信頼関係を第一とするCSR経営を支えるための見える化・見せる化と捉えるべきである。多様なステークホルダへの見せる化を遂行することで、企業プロセスは緊張感を高め、ステークホルダとしての従業員の満足度も高まり、より競争力のある企業体質の実現に結びつくものと考える。

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細井事業部長顔写真

細井 和宏(ほそい かずひろ)
(株)富士通総研 産業コンサルティング事業部長 兼 イノベーション推進室長
1983年富士通(株)入社後、エネルギーSE、英国駐在、製造業SEを経て2006年(株)富士通総研へ出向、現職。製造業のお客様を中心として事業革新・業務プロセス革新、情報化構想立案、ITガバナンス策定などのコンサルティングに従事。グローバルなSE経験を活かして製造業の経営・事業戦略立案からIT化構想への展開を得意とする。
McGill University Master of Management、特種情報処理技術者