次世代知的情報アクセスへの期待(1)
2008年3月1日(土曜日)
爆発的な増大を見せる情報
21世紀に入り、人類の創出する情報量は、指数関数的な伸びを示している。昨年と今年の2年間で、世界中で増加する情報量は、人類がこれまで歴史上で産出してきた情報量の総和を上回るとの予測も出されている。また、その伸びは止まるところを知らず、2011年には、人類が2000年に算出した情報量である2エクサバイト(1018)強の約500倍、1ゼッタバイト(1021)にまで達するとの予測もある。
世界中で起こるこうした情報の爆発的な伸びは、情報通信の進展がもたらした一つの結果であることは言うまでもないが、その急激な伸びには目を見張るものがある。インターネット上で産出・蓄積されるデジタル情報は、対象とする情報の範囲を日々拡大するとともに、これまでインターネット上に存在し得なかった様々な情報を次々と取り込んできている。加えて、そうした情報が相互に連携し、また新たな情報を生み出すことで、情報量の急激な増大に、益々、拍車をかけることになっているのである。GPS等による位置情報やそれを活用した各種の移動情報、ブログやSNS等で個人が発信する多彩な情報や各種の履歴情報、リアル社会で提供されている商品やサービスに関する様々な情報、増加の一途を辿る放送や映画等の画像・映像情報、ICタグ等のセンサー情報、さらには、地理・気象などの自然環境情報など、取り扱う情報の対象領域や種類を拡張しながら、情報の産出・蓄積・交換・創出を加速化していっているのである。
言い換えると、私たちは今日、指数関数的に増大する多種多様な情報と日々向かい合いながら社会活動を営み、また、生きていかなければならない状況に、否応なしに置かれているとも言える。
増大する情報がもたらす影響の2つの側面
社会活動のあらゆる局面で、情報が急激な膨張と多様化を展開し続ける中、こうした情報がもたらす今後の影響を考えると、そこには大きく2つの側面が存在している。
一つは、まさに増大する情報の量的な側面であり、人類がかつて経験したことのない情報量の超巨大化が起こり、それもこの数年間という非常に短期間にそれが到来することである。
もう一つは、言うまでもなく質的な側面であり、膨大かつ多種多様な情報と向き合って、社会活動を営むことを余儀なくされる中で、情報の利用者であり、発信者である私たちが、情報の蓄積や交換、連携、また、流通を行う上で、情報の時間性や信頼性(確度・精度)、可用性等をどのように保持し、また、扱うことが可能か、という点である。これは視点を変えれば、利用者であり、発信者である私たちにとって、情報を利活用する際の安心や安全を担保する源泉であり、また、その直接的な要因であるとも言える。
量がもたらす質への転換
指数関数的に増大する多種多様な情報は、情報の質的側面に、もう一つ新たな要素を加えることになる。大量の情報が存在し、その情報同士がそれぞれ密な関係で連携を図ることにより、新たな情報の質を創出することになるからである。例えば、現在でも、既に様々なテキストや数値データに基づいたテキストマイニングやデータマイニングの技術が存在するが、こうした技術を活用したマイニング情報と、大量の情報が存在することによって実現可能となる高度な予測手法や解析手法に基づいた情報が、相互連携することで、今まで存在し得なかった新たな予見情報を提示したり、個別の事象を誘発したり、また、それを実現したりすることが可能となる。
また、画像・映像の大量かつ高品質の情報が存在するようになると、それが協調し、また連携することで、現実の社会では実現不可能なことが仮想空間において実現したり、また、その結果を現実の社会に投影したり、転化したりすることも可能になる。
つまり、量的増大とその連携が、これまでまったく存在し得なかった新たな情報の質的要素を産出し、また、そうした情報を利活用することにより、さらに新たな質の情報を創出することにもなるのである。前述の例で言うと、それは未来予測情報であったり、リアルとバーチャルの両世界に跨る情報であったりなど、これまでにはない新たな情報の質的展開力を見せるようになるのである。
膨大かつ多様な情報とどう向き合うか?
こうした変化が予測される中で、私たちは今後、膨大かつ多様な情報とどのように向き合うべきなのだろうか。一昨年開催された『ITによる「情報大航海時代」の情報利用を考える研究会』の報告を受けて、現在、経済産業省が取り組んでいる「情報大航海プロジェクト」が、その一つの答えを示すに違いない。
このプロジェクトは、経済産業省の主導により、産学官の連携によるオールジャパンでの開発を推進しているものであるが、これまで述べてきた通り、膨大かつ多種多様な情報と対峙しながら生きることを余儀なくされつつある社会において、情報の利用者であり、発信者である私たちが、膨大な情報の大海原から必要な情報の所在を知り、それを整理し、それらを組み合わせることで、情報の有効活用を可能にしようとするものである。また、こうして得られた利用者のニーズに最適な情報は、利用者のさらなる知的活動を創造するとともに、新たなサービスの提供やイノベーションの創出を可能にすることになると期待され、この実現を図るためには、次世代の情報検索・解析技術が非常に重要な鍵を握っていることを付言している。
また、知的創造活動やイノベーションの創出を促進するためには、技術によるブレークスルーとともに、社会、文化、経済など、様々な側面から「情報大航海時代」の課題を検討し、その解決を図ることが重要になることにも言及している。例えば、新たなサービスを実現する際には、既存の産業構造や法制度では想定されていなかった著作権や個人情報等に代表される権利関係の課題を解決しなければならないし、情報大航海時代において、より安心で安全な社会を実現するための諸課題についても、その対応策を講じていくことが必須になるとの認識を示している。
実際、情報大航海プロジェクトでは、こうした社会の実現に向けた具体的な取り組みを推進しており、事業面においては、2010年に先行的事業が実施可能になるように、先進的なモデルサービス実証事業への取り組みを行っており、技術開発面では、次世代に向けての情報検索・解析技術の基盤となるべく様々な共通基盤技術の開発とその検証に着手している。さらには、上述した著作権や個人情報等に代表される権利関係などの制度・制作等の環境整備に向けた取り組みも推進しており、まさに、事業、技術開発、制度の三位一体型の取り組みを実施している。
プロジェクト自体は、今年度から3カ年計画で実施される予定になっており、前述した情報の指数関数的な伸びに歩調を合わせる形で展開されることになっている。
加速化を図るさらなる取り組み
「情報大航海プロジェクト」のこうした取り組みを見ると、私たちが直面する膨大かつ多様な情報にどのように向き合うべきなのかの答えを提示してくれるものと確信する。しかし一方で、より一層の加速化を図る必要があるのでは、との声も少なからずある。情報の量的増大と質的変化に即応することへの期待が大きいが故であろう。
こうした声に呼応するかのように、経済産業省は昨年12月に、産業界の経営トップ層と学識経験者等の有識者をメンバーに迎え、「『情報大航海時代』における経済・社会・文化のあり方に関する研究会」と銘打った研究会を組成している。技術開発のブレークスルーをより一層推進すること、また、先取りした法体系や法制度のあり方を検討すること、イノベーション創出のさらなる推進に向けての次なる社会基盤のあるべき姿を検討すること、加えて、情報大航海時代を支え、推進していく人材(人財)像とその仕組みのあり方を検討すること等をテーマに掲げ、プロジェクトのより一層の加速化を図ろうとしているのである。
研究会は来年度も継続実施する予定になっているが、こうした加速化の動きも含め、プロジェクト推進のより一層のスピードアップを期待して止まない。それは、国民経済的に見ても非常に重要であることは言うまでもないが、何よりも、情報の利用者であり、発信者である私たちに、膨大かつ多様な情報と対峙するため、受動的手段を単に提示するだけには止まらないと考えるからである。スピードアップを図ることで、プロジェクトの様々な成果をいち早く提示し、また、その成果を利活用することで、利用者に対して、より能動的な取り組みと実践の機会を醸成し、提供することになるからである。もちろん、それは言うほど簡単なことではないが、より多くの人がこうした動きを支援し、推進し、それに協力することで、資源を持たない日本が、“技術”と人々の“知”によって次代を切り開くことになると信じるのである。また、それこそが次世代に向けての知的情報アクセスを牽引する真の原動力になるだろうし、“知の創造”を目指す次世代知的情報アクセスそのものの姿を示していると考える。
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佐々木 一人(ささき かずと)
(株)富士通総研 取締役 S&Cコンサルティング事業部長 プリンシパルコンサルタント(主席研究員)
(株)長銀総合研究所を経て、1998年(株)富士通総研入社。2003年4月から現職。
著書に『新産業地図~激変する主要産業の現状と展望~(マルチメディア産業)』(共著;講談社)、『ケータイビジネス2001』(監修著作;ソフトバンク・パブリッシング)、『ブロードバンドビジネス2002』(著作;ソフトバンク・パブリッシング)など。その他、雑誌、新聞等に記事原稿を多数掲載するほか、通信・放送メディア産業、並びに、同関連事業に関する各種調査・研究、コンサルティング、アドバイザー等に従事。
