【連載】内閣官房「ITによる改革の達成度に関する調査」の概要
第3回 医療分野の調査
コンサルタント 湯川喬介
2008年7月14日(月曜日)
1.はじめに
内閣官房では、IT戦略本部の下にIT新改革戦略評価専門調査会(以下、調査会)を設置し、IT新改革戦略で掲げた施策の進捗状況の評価をしています。特に、重点分野である医療については、「医療評価委員会(会長:國領二郎(慶應義塾大学総合政策学部教授))」を設け、具体的な課題の検討を行っています(第1回「調査実施の経緯と目的」参照)。
今回の医療分野における調査業務では、平成18年度に、医療評価委員会で論点として位置づけられている以下の3項目について、普及状況、利用者の満足度等の調査を実施しました。
(1)電子的な医療連携(電子紹介状等)
(2)健康情報の電子的な開示及びそれを活用した医療連携
(3)レセプトオンライン化による効率化
ヒアリングやアンケート調査等より、各施策の実施主体である医療機関や、医療サービス受益者である患者の満足度等について実感指標を用いて分析し、課題や今後の方向性について報告書にまとめています。この結果は、医療評価委員会で報告する機会も得ました。なお、本稿では、紙面の都合上「(3)レセプトオンライン化による効率化」に関する調査結果を中心にポイントをご報告致します。
2.レセプトオンライン化による効率化
レセプトオンライン化を実施している医療機関(2007年10月までの官報に公示されている)を中心にアンケート調査を実施したところ、職制(医師、医事課職員)によって負担と感じている業務の違いを明らかにすることができました。具体的な結果について、以下に示します。
レセプト業務に対しては、約4割の医師・約5割の医事課職員が負担感を感じていますが、医師はその中でも、「カルテ等を見直しレセプトの修正指示を出す」ことに対して最も業務負荷が大きいと感じていました。その実感は、医療機関がシステム導入時にBPR(*)を行なっているか否かによる違いはないという結果が得られています。これは、この業務が、システム化になじまず、BPR前後で変化していないためと推測されます
一方、医事課職員は「レセプトの目視点検」に対して最も業務負荷が大きいと感じています。ただし、システム導入時のBPRによって、医事課職員のレセプト業務全般に対する負担感軽減の効果は大きく、さらに、この効果は診療所よりも病院の方が比較的実感できています。これは、「レセプトの目視点検」等の作業量が膨大な業務や「査定レセプトの査定理由確認及び再請求の準備」等の複数部門にまたがる業務に対して、システム導入の効果が大きくなるためであることが分かりました。
なお、業務負荷については、医師・医事課職員ともに、「作業1回にかかる時間」「作業の回数」「作業の延べ時間」のいずれか、または複数の組み合わせが一定の値を超えた場合に、負担感が大きくなると思われます。更に、「医師個人の差」や「システムの差」についても業務負荷に影響を与えることが考えられます。
また、多くの経営者、医師、医事課職員はレセプト請求時の課題として「審査支払機関の審査基準が統一化されていない」と認識しており、その対策として「各都道府県の審査支払機関の審査ロジックを医療機関に公開する」「審査支払機関での審査基準を全国で統一する」必要があると言えます。審査ロジックの都道府県間の差異が解消された上で標準的な審査基準が明確に示されれば、医療機関は請求前に自らのレセプトを確認し、審査で認められるかどうか判断できるようになり、結果として、審査支払機関からの返戻件数が減り、業務の効率化に繋がると期待できます。
3.実感指標を用いたことに関する総括
今回の調査を行うことで、経営者、医師、医事課職員や患者がどのような実感を持っているのか、ある程度、把握することができたと言えます。今回、実感指標でよくとらえることができたのは、以下の2つのケースであると考えられます。
・定量的に計測することが難しかった利用者の実感等を計測できたケース
「(1)電子的な医療連携(電子紹介状等)に関する調査」では、「医療連携のIT化の効果への実感」は、「データ分析が行える」「紹介・逆紹介の件数が増加する」「人材教育に寄与する」「医師の偏在を補える」といった「医療連携のIT化のメリットへの認識」と相関が高いことが実感指標を用いて把握できました。
また、「(2)健康情報の電子的な開示及びそれを活用した医療連携に関する調査」から、「医療連携への満足度」と「紹介先・紹介元での診療計画の説明等に対する満足度」との相関が高いことが実感指標を用いて把握できました。
・定量的に計測してきた事象について利用者の実感からも分析できたケース
レセプト業務のプロセスごとの負担感については、従来、コストや時間の定量的な計測により評価してきましたが、職員等の負担感を計測し、コストや時間の定量的な値と負担感という実感の関係性を分析し、改善すべきプロセスを新しい観点から評価することができました(「(3)レセプトオンライン化による効率化に関する調査」結果より)。
4.最後に
今回のコンサルティングにより、国の政策に影響を及ぼす調査会に参加できただけでなく、その配下に設置され具体的な検討を行う医療評価委員会で調査結果等を数回にわたり報告する機会を得られたことは、医療分野における富士通総研の知名度向上の大変貴重な機会であったと言えます。
また、施策の達成度を実感指標という新たな考察方法で検討したことで、実感指標が施策の進捗を把握するのに有用な手法だと分かりました。この実感指標を用いた考察方法は、今後の調査検討業務に大いに役立つと期待されます。
注釈
* BPR: Business Process Reengineering
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