三角合併法制について
2007年4月10日(火曜日)
新しい会社法の一環として「三角合併」問題が懸案となっていたが、来る5月から関連税制の整備の見通しも踏まえ、三角合併法制が成立する見込みが高まってきた。三角合併(Triangular Merger)とは、外国企業が日本企業を買収する際に、日本の会社法の規定に基づいて作られた子会社を活用して買収する方法を法的に認めるものである。買収をする外国企業と直接買収行為をする買収企業の子会社、そして買収される日本企業の3者がかかわるので三角合併と表現されている。この法制のもとで、外国企業は直接キャッシュでなくとも株式の名義を書き換えることで日本企業の買収が可能となることが外国企業の対日投資を促進する上で大きな意義を持つものである。
この問題には大きな背景がある。日本経済は高齢成熟化しつつあり、活力を維持するためには外からの建設的な刺激を受けることがますます必要となっている。高齢化が進むにつれて、家計貯蓄率が低下しているが、そのことによる資金不足傾向を是正するには、外からの良質な長期投資資金を受け入れることが必要だ。そうした投資は短期的な投機的投資ではなく、長期の直接投資であり、多くの場合、日本市場に興味を持つ外国企業による事業活動への投資の形をとる。日本は密度の高い産業集積をもつ産業国家なので、多くの場合そうした投資は既存の日本企業を買収(M&A)することによって行われる。そうした投資は資金だけでなく、新しい技術や経営手法や人材が投入されることにもなるので、成熟化しつつある日本経済の活性化に様々な意味で役立つのである。
かつての高度成長時代以来、日本企業の活動はグローバル化し、世界各地で積極的な買収などによる投資を進めてきた。その動きはますます加速されているが、そうした戦略が世界で受け入れられるためには、日本経済そのものも外からの投資に対して開放することが必要だ、という意見が経団連など産業界を中心に長年に亘って主張され、10年ほど前から日本の法務当局も重い腰をあげ、海外からのM&Aを円滑にするための法整備に取り組んできた。それが三角合併法制であり、昨年の5月に新しい会社法体系が整備される時に、この合併法制もその一部として整備されるはずだった。ところが残念なことに、ライブドア問題など、資本市場における一連の不祥事が持ち上がり、合併法制を巡る議論が混乱したため、会社法のこの部分だけ1年遅れて今年の5月にその決定が持ち越されたのである。
近年、日本経済が急速な構造転換を遂げる過程で、国内企業同士の合併・吸収などが多くの産業で企業規模を問わずにこれまでになく活発に行われるようになってきているが、そうした動きは企業再編への人々の関心を高めると同時に、買収に対する経営者の警戒感や恐怖感を高めることにもなった。そうした空気も背景にあり、三角合併法制についてこの1~2年経団連はにわかに慎重な姿勢をとるようになり、法務当局もそれを無視するわけにもいかず、この過去1~2年、関連する法律や施行規則の整備はいささか難航した。
三角合併法制そのものにも財界の一部などから強い異論があり、また三角合併を支えることになる関連税制の整備についても異論が唱えられた。三角合併法制については、買収される側の企業の株主の特殊決議を要件とすべきだ、といった極論までも一時は主張された。特殊決議は全株主の3分の2の賛成を必要とするもので、数万人以上にものぼる株主に対し、その要件を満たすことは事実上不可能である。論議の過程でさすがにそうした極論は後退した。
一方、税制については買収企業の株式を名義書換によって取得した時点で課税される現行の所得税法を、株売却などによって実際に利益があがった時点で課税する繰り延べ税制が無ければ、株の書き換えによる三角合併は事実上機能しない。この繰り延べ税制を伴う税制整備の中で、日本で買収行動を行う外国企業子会社の資格要件を事実上買収法制が機能しないほど極めて狭く定めようという議論も買収を警戒する経済界の一部から強く出されるなど、税法整備の過程も容易ではなかった。しかしそれらの難点も3月末までに買収法制に一定の実効性を持たせる形で事実上克服されたために、三角合併法制は必要な税法改正の裏打ちの見通しを含めて来る5月1日から実行される見込みになったわけである。
三角合併法制の成立は、海外企業の日本への投資に制度上大きな可能性を開くものであり、日本経済の活性化に役立つことが期待される。翻って、中国、インドなどの大国や、韓国やシンガポールなど多くのアジア諸国は、国々の長期的発展の基本戦略として優れた外国企業の経営資源の導入を進めており、日本の状況は多少の進歩はあったとはいえ、そうした世界の時代の流れの中では大きく立ち遅れていると言わざるを得ない。国外の優れた経営資源を積極的に導入することによって、自らの体質を改革し、新たな活力を身につけることの重要性を、私共日本人は今、強く認識すべき時に来ていると思う。
