私は富士通総研経済研究所・理事長の職と同時に、これまで長い間、慶應義塾大学で教授を勤めてきました。慶應義塾大学には40年間奉職してきましたが、この4月から千葉商科大学の学長に就任することになりましたので、慶應義塾大学を3月をもって退職することとし、去る3月3日に慣行に従って最終講義を行いました。最終講義は学生諸君だけでなく過去30年間にわたる島田ゼミの卒業生、親しくさせていただいている多くの先輩や友人など三百数十人の方々が集まり盛会になりました。
私は現職の大学教授を退任するにあたってこれからの社会を担っていく若い人々に向けてメッセージを送りたいと思い、“慶應義塾大学と私:若い諸君へ”という講演をさせていただきました。
講演で私が伝えたかったことは、以下のとおりです。
1)敗戦後の焼け野原から高度成長時代を経て日本が先進成熟国になった時代に私は生きてきました。それは、個人的には、いわば「夢が実現しえた時代」でしたが、これからの若い諸君は豊かな時代に生まれ育っているけれども、地球環境を始め多くのグローバルな大問題があり、高度成長も期待薄で私のような夢を持ちにくい時代であるかもしれません。
2)しかし問題が大きく、また課題が多いからこそ、そこに多くのチャレンジの機会もあり得るかもしれないし、受けとめ方によっては大変面白い時代を迎えているのかもしれません。
3)慶應義塾大学は来年創立150周年を迎えますが、その創始者、福沢諭吉先生は封建時代から明治維新を経て日本が近代化を始める激動の時代に生きた人物で、彼は時代の転換とメガトレンドを情報が極端に少ない時代であったにもかかわらず、国際的な視野でしっかり見つめ、日本が行くべき道を明確に描き出した人でありました。
4)福沢諭吉先生が示した日本の進むべき道は世界列強に踏みにじられない文明国となることであり、文明国の本質は「知と徳を磨いていく国民の精神状態」であると喝破しました。
5)日本をそうした文明国にするために福沢諭吉先生は自らの使命を、そうした精神状態を実現できるよう若者たちを教育することと定め、慶應義塾大学を創立し教育に一生を捧げたのです。
6)福沢諭吉先生から学べることは、時代の変化をしっかりと見定め、広い視野でその意味を確かめ、自らの役割を自覚しその実現のために努力することです。
7)若い諸君がこれから迎える社会は情報化が進み、世界中の情報がますます潤沢にしかも瞬時に手に入る時代ですが、一方では環境問題が深刻化し、人口爆発の中で経済格差が広がりかねない時代、そして思想状況が混沌とし、テロなど不可測な危険が潜伏する時代、また日本についていえば人口が減少し高齢化することから財政難・労働力不足・資金不足・地方の疲弊など深刻な問題が浮上してくる時代であります。
8)こうした時代の変化をしっかり見つめその本質を理解し、それに対して国としてもあるいは個人としてももっとも効果的な戦略を考え、また実行するならば、非常に大きな新しい機会を自分のものにすることができる時代でもあります。
9)ただ漫然と毎日を過ごすのではなく、問題を見据え情報を駆使し、自らを鍛え内外に友達をつくり、自分の目的を実現することが重要です。
10)前途に困難な問題があればあるほど、自分の定めた目的を実現したときの成果も喜びも大きいものです。
11)情報化の進展によって無限に情報が手に入る時代ではありますが、その情報が何を意味しているのかを理解できる学問が必要であり、問題意識と情熱が必要です。
そして、朝起きたら今日は何をしでかしてやろうかと考え、人生を終わるときには次の世代に何を残したかがいえるような人生を送ろうではないか、と問いかけました。
会場は大変な熱気に包まれ、講演終了とともにスタンディングオベーションを頂きましたが、私は若いときに人生の選択として教育者の道を選んだことは、改めて悔いのない選択であったと思ったしだいです。
一方、富士通総研経済研究所理事長の職はこれからもさらに努力して続けていきたいと考えており、加えてこの4月からは千葉商科大学で若い人たちの成長の環境をつくることに注力したいと思います。