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雇用の質を改善する時代

2006年11月07日(火曜日)

日本経済の景気が回復し、この11月にはこれまでのいざなぎ景気を上回る歴史上最長の59ヶ月を上回ることになった。小泉政権の構造改革の効果もあり、日本経済の循環構造は健全(robust)に機能しており景気回復過程はさらに続くものと見込まれる。この長期回復過程は、回復というよりは「新成長時代」と形容されるべきかもしれない。

日本経済がバブル崩壊後の深刻なデフレに悩んだ1990年代後半から2000年代初頭にかけては求人倍率が著しく低下し失業率が高まり、雇用を増やすことが緊急の課題であった。雇用は、景気低迷の影響だけではなく、製造業において生産拠点の海外移転、農林水産業の構造的縮小、公共工事の削減による建設事業の減退など、構造的な縮小要因もあった。このような制約条件の中で量的な拡大をいかにはかるかが戦略的な焦点となった。

当時、筆者は小泉首相の経済顧問として生活関連サービスを中心とする「530万人雇用創出計画」を提言し、その実現に努めた。経済構造が高度化する中で先進経済はいずれもサービス経済化へのメガトレンドに突き動かされており、その流れを政策的にさらに促進しようと考えたわけである。

その後、景気回復の後押しもあって「530万人雇用創出計画」はほぼ達成された。地域によって格差はあるが、2002年ごろから雇用の量的拡大は全国的に進展し、雇用水準は高まった。労働市場の需給バランスは大都市圏や工業地帯を中心に、労働力不足傾向すら顕著になりはじめている。深刻なデフレの脱却の過程でこのように雇用の量的拡大はそれなりに達成されたといえる。

他方、この過程でしだいに明らかになってきた重要な課題がある。それは雇用の質の劣化である。雇用の質の劣化というべき現象が若年者・中高年者、特に30代の働き盛りの階層で顕著になりつつあり、また地域的にも深刻な格差の拡大の恐れが見えている。

以下、これら4つの問題のあり方を説明し、今後の対応の方向を考えてみたい。

1. 若年層の問題

現在、人口構造の変化もあって、若年労働力の供給は減少しつつある。それにもかかわらず、フリーターやニート(NEET: Not in Employment, Education or Training)が増えている。フリーターは約300万人、ニートは約80万人もいるといわれている。フリーターとは、賃金はともかく、フレンジ・ベネフィットや訓練や各種の保障など雇用の安定性の欠けた職場で働く人々である。これらの人々の中には、管理されることを嫌ってそうした職場を選んだ人も少なくないが、多くの人々はバブル崩壊後のデフレの雇用機会において雇用が縮小したために安定した仕事につけなかった人たちである。ニートと呼ばれる人たちの多くは職業世界にそもそも馴染めずその外に滞留している人々である。これらの人々は本来貴重な労働力であるのにもかかわらず、このままの状態で推移すれば技術も身につかず雇用の安定性もなく、将来、社会問題になりかねない人々の予備軍である。

2. 中高年層の問題

2007年は戦後のベビーブーマーが60歳定年を迎える年とされている。2007年に60歳になる人は約216万人(国勢調査)といわれるが、いわゆる定年を迎える人は100万人から120万人以上いる。将来、年金の減少が予測される中でこれらの人々は将来の生活設計に不安があるとともに、熟練をもった人々が職場から大量にいなくなるという問題もある。労働力不足を迎える日本がこれらの人々の貴重な熟練をいかし、かつ、これらの人々の老後の生活により安心できる展望を与えるための新たな取り組みが求められている。

3. 働き盛りのサラリーマンの問題

30歳代を中心とする働き盛りのサラリーマンの雇用と労働に深刻な問題がある。バブル崩壊後のデフレ過程で長期化した多くの企業が新規採用をストップし雇用の削減を進めたために、労働の現場では比較的若手とされる働きざかりの30歳代の勤労者に過大な負担がかかる傾向がある。とりわけ有能なホワイトカラーの多くは、成果主義のもとで事実上のサービス残業をさせられて、メンタルヘルスを害し家庭生活にも支障をきたすなどの弊害が発生しつつある。この貴重な労働者達の勤労意欲と健康、そして将来の発展性を確保するために新たな発想の取り組みが、企業の側からもまた公共政策としても求められている。

4. 地域の雇用問題

日本は2005年から総人口が減少し始めた。現在日本の人口は1億2800万人ほどいるが21世紀の中ごろ、2050年、すなわち今から40年ほど先には人口は約1億人(「人口問題研究所」の中位推計では1億59万人、下位推計では9203万人)ほどに減少する。

人口減少は、特に北海道、東北、北陸、四国、中国、南九州などで著しく、地域経済の空洞化の進展に伴い、地域の経済循環が機能が不能に陥る恐れもある。これらの地域のとりわけ若者男子は、仕事を求めて大都市や工業地帯に向かい、残された地域では高齢者が残るだけでなく、結婚も減少するので家族の再生産も進まないという悪循環もみられる。

この問題に対処するには、戦後半世紀をかけて大都市と工業地帯に流入し、高齢化を迎える段階になって、これからの人々がより健康環境のよい地域、すなわち人口の少ない、あるいは減少地区に移り住んでいただくオプションを地域自治体としても民間産業としても政府の政策としても提供し、多様な可能性として広げていく努力が求められる。

以上のような問題を展望すると、そこに共通しているのは、雇用の新しい発想である。すなわち雇用の量的拡大から質的改善を求める時代に入ったということである。

安倍政権は再チャレンジ戦略をすすめるとしているが、その重要な部分にこうした雇用の質の改善の問題が横たわっている。政府の政策としても、また全国の地域の活性化戦略としても、人々の交流を支える民間ビジネスとしても、雇用の質の改善を中心に新しい発想と新しい取り組みが求められていると思う。