北朝鮮の核実験について
2006年10月11日(水曜日)
10月9日、北朝鮮国営放送は、核実験を実施したというニュースを発表した。このことは、世界を震撼させた。もし、この実験が事実であり、それが成功したとすれば、北朝鮮は世界の8番目の核保有国に名乗りを上げたことになる。今日、世界各国は、テロの脅威と闘っており、北朝鮮は、国家的な規模でテロ行為とも言うべき様々な反社会的な行動をしていることが警戒されているため、とりわけこのニュースは、世界各国にとって重大な脅威と受け止められた。
世界諸国の首脳は、異口同音に厳しい批判あるいは避難の声明を発表した。日本の安倍首相は、折しも中国を訪問中であり、このニュースを、中国から韓国への移動中に入手したとされる。北朝鮮は、核実験をするとの予告を10月3日に出しており、世界諸国は批判と警戒感を強めていたところであった。胡錦涛中国国家主席を訪問した安倍首相は、中国首脳とも、北朝鮮の核実験反対の考え方を共有しており、実験後に会談を行った盧武鉉韓国大統領も安倍総理と同様、北朝鮮の行動に対して批難を行った。
安倍総理の初の外国訪問は、北朝鮮の核実験という反国際社会的行動を批判するという意味で、中国や韓国と共通の認識を強く持ったことは、皮肉ながら予期せぬ成果の一つであったともいえる。北朝鮮の核実験は、金策市上坪里で行われたと発表している。それがどのような状況で行われたのか、現在関係各国で確認作業が続けられているところである。異常な地震波は観測されているが、放射能値は確認できず、核実験が成功したのか否か、あるいはどの程度の規模であったのかどうかについてはまだ確証が得られていない。しかし、北朝鮮政府が核実験を実施すると予告し、その6日後に強行したという事実は重要であり、日本を含む国際社会は、それが深刻な事態に発展しないよう最善の手立てを尽くす必要に迫られているといえる。
核実験が、世界各国の専門家が当初想定した規模でなかったらしいということは明らかのようであるが、それが通常の爆弾ではなく、あるいは核実験そのものの失敗ではないとすれば、小型の核実験に成功した可能性もあると指摘されている。もし、小型核の実験に成功したとすれば、それは、2006年7月5日に強行されたミサイル発射実験、とりわけ精度の高いノドンに核弾頭を搭載できる可能性も否定できない。ノドンは、日本列島を北から南まで包み込む範囲の射程距離を持っているため、日本列島は既に核攻撃の範囲の中に入ってしまったといえる。そうした可能性を前提とすれば、被害を食い止める、あるいは、北朝鮮にそのような行動をおこさせないためにはどうしたらいいかということが、これからの日本にとって大きな課題となる。
現在、米国や日本などは、北朝鮮に対し、金融制裁などの経済制裁を実施しており、これらは北朝鮮の経済に対し一定の締め付け効果を持っているとされる。前回のミサイル実験後、国連の場で討議された経済制裁は、実現に至らなかったが、今回は、国連安全保障理事会諸国は、中国を除き、経済制裁に賛同する意向を示しており、中国もこれにあからさまに反対しにくい状況が形成されつつある。安倍首相は、帰国後の国会予算委員会で、もしこの核実験が事実であれば、日本は国連の合意だけでなく、それに加えて独自の経済制裁に踏み切る用意があるとの発言をした。
経済制裁が抑止力としてどこまで働くかは未知数であるが、一定の効果を持つことは期待されるだろう。さらに、日本は米国と協力の上、対ミサイル迎撃装置を整備するという手立てがある。対ミサイル防衛装置は現在のところ2011年に一定のシステムを完成させるために、準備が行われている。専門家によれば、この効果は、必ずしも全面的に信頼できるものではないとされるが、それでも多少の防御効果は期待されるだろう。
北朝鮮が、この時点でなぜ国際社会全体を敵に回すような核実験に踏み切ったのか、理解しにくい部分が大きい。米国が、イラク問題で手一杯である間隙を突いて賭けに出たという見方もあるが、そこから得られる効果は大きいとは思われない。宥和政策を推進してきた韓国に対しても、むしろ逆効果である。北朝鮮ウォッチャーによれば、軍部を中心とした国粋主義者の勢力が支配的になっているという観察もある。いずれにしても国際社会全体を敵にする行動が、国内においてどのような意思決定プロセスを通じて行われているのか、不明な部分が大きい。北朝鮮のそのような行動に対して、国際社会が抑止的圧力をかけることが北朝鮮の暴発を招く危険があるのか、ないのか、あるとすればどの程度あるのかに関心が持たれるところである。
北朝鮮の核実験についての最も危険なシナリオは、北朝鮮が、開発したミサイルをいくつかの国やテロ組織などに売却していると伝えられているが、それに核が加わり、核が拡散する危険性である。この点について、テロの拡散を強く恐れる米国や多くの国々が懸念を深めている。売却等による拡散が明らかになれば、米国は直接の軍事制裁も辞さないと考えられる。そして、その発動が明らかになれば、北朝鮮が暴発する危険性も高まるだろう。北朝鮮が暴発した場合、日本列島への核攻撃は、もっとも考えられうるシナリオの一つである。
我々は、そうした危険や可能性も踏まえ、北朝鮮の暴発を防ぎ、これ以上反国際的な行動をとらせないための最善の策を、緻密に、そして早急に構築する必要がある。もっとも重要な取り組みは、国際社会の一致団結した協力による北朝鮮への説得と抑止であろう。
北朝鮮のこうした脅威の高まりの中で、日本で核武装論が台頭する恐れを指摘する向きもあるが、「非核」を国是とする日本では、これまでのところそうした主だった論調は現れていない。国際社会と緊密な協調をとりながら、慎重に、組織的に、かつ早急に効果的な手段を組み合わせつつ、北朝鮮の反国際的、反社会的、そして反人間的な暴挙を食い止めてゆくことが、我々が今、取り組むべき最大の課題である。
