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住居の検査・評価問題と仕組み作りの工夫

2005年12月1日(木曜日)

この2週間ほど、一つの社会問題が日本で大きな関心と話題を呼んでいる。それはある建設業者が売り出したアパートが品質が悪く、震度5という、日本ではよくある強度の地震に耐えられない欠陥住宅であるということが発覚したという事件である。問題は主に3つあると考えている。第一に、品質が劣質であることも重大だが、これ以上にそうした劣質な住宅が、関係者によって意図的に作られたということ、第二に、それで被害を受けている人々が安心できる救済手段がないということ、そしてさらに第三に、日本にはこのような事件を起こさせないような制度的仕組みが無いということである。

第一の問題については、耐震基準を満たさない住宅が、いくつかの建築業者によって作られて一般市民に売却されていたことが発覚し、そこには複数の関係者が絡んでいたことが解った。一人は設計士であり、建物の耐震性などを偽った「構造計算書」を数十件ほど作成していた。この設計士に数多くの偽装構造計算書をつくらせたとして爼上にのったのは、中堅建設会社の木村建設ならびに中堅マンション販売会社のヒューザーという会社であった。同社はマンションや住宅、ホテルなどの物件を何十件か作り、常識よりもはるかに安い値段で消費者に物件を売却していた。安い値段で売ることが出来た理由は、鉄筋量(本数や太さ)を減らしたりするような、意図的なコスト削減を行っていたからであると思われる。構造計算書によって建物全体の品質を表記するが、これらの業者は、姉歯建築設計事務所に偽りの証明書を欠かせて検査を通るように仕向けていた。

一方、1998年の建築基準法改正を受け、翌年から指定住宅性能評価機関が設けられ、現在では108ほどの機関が認証されている。そのうちの一つのイーホームズという会社は、劣質であることを知りながら、違反であるという告知をせず、数年間ほど黙認してきたとされている。従って、一般の消費者から見ると、破格の安値でしかも広いアパートが入手できるということで購入したが、実は強度不足で地震に耐えられず、それが虚偽申告と検査会社の黙認という二重の不正を、消費者は知らされていなかったことになる。つまり、関係業者が、消費者を意図的にだました犯罪行為なのである。

第二には、震度5程度で倒壊する物件は非常に危険であり、その管轄の自治体は使用禁止命令や退去勧告等を出しはじめている。消費者は、ローンをかかえたまま退去せざるをえない。これに対して、上に述べた業者は、賠償すると称して狡猾に実質負担を逃れる策を弄したり、倒産して負担を逃れる工夫をしたりして、まともに消費者の負担の弁済をしようとする努力はしていない。

これは、民間人同士の取引であるため、国や地方政府は消費者を退去させることは出来るが、財産ロスの賠償は出来ない。国や自治体は代替の家を用意し、なるべく早く移転するよう勧めるなどしているが、家賃を多少低くすることは出来ても、このようなケースは、業者と消費者間の私的な判断に基づく売買であり、基本的には消費者は業者が倒産したら、危険と全ての損害を一方的に被ることになる。

第三には、ヒューザーを始めとする建築主は、国の基準を無視して劣悪な住宅を作り、質を落とすことによってプロフィットを得たということだ。これを厳しく罰する制度が日本に無い。もし事故がおきれば、刑事責任と民事の賠償責任が発生する。刑事責任は、それが過失であるという場合には、それほど重くない。11月29日に開かれた衆院国土交通委員会の聴聞で、コスト削減の事実は関係者らに認められたが、これらが意図的に行われたのかどうかを証明することが難しい。とすると、刑事責任は軽いものになるだろう。関係者らがこれまで行ってきた不正による儲けに比べれば、はるかに小さい弁済額だ。倒産すれば弁済責任も無い。

これらの理由で、犯罪行為を行った者が得をする仕組みになっている。罪を犯したら、致命的な負担になり、罪を犯すこと自体が経済的にメリットがないという仕組みが日本にないのである。以上のような点が、露呈したために、この事件が社会的に非常に大きな関心を集めているのだ。しかも、事件は、犯罪の意図性といい、消費者の救済手段の無さといい、犯罪を繰り返さない仕組みの欠如といい、欠陥が多い仕組みだ。人々の暮らしに直結するものであるが、このような事件について多くの関係者はよくあること、すなわち氷山の一角に過ぎないと言っている。象徴的な事件に近い実態は、我々の身近に存在する。従って、一般の人々に大きな不安を与えている。

こうした問題を解決するにはどうすればいいか。最も重要なことは、市民生活を脅かす犯罪行為が経済的にペイしない仕組みづくりである。米国で住居の検査制度が普及している理由の一つは、政府に認証された機関の正当な評価を受けていない物件で消費者が損害を受けたり事故が生ずるなどの損害を受けた場合には、致命的な損害賠償を業者がしなければならない訴訟の慣行が浸透しているからである。従って、法規をまもらない社会的ペナルティ高い。一方、日本はこのような法的、社会的制裁のレベルが低いために無法行為が横行する。

米国のような訴訟過剰社会が必ずしも良いとは思わないが、市民生活を脅かす行為が経済的に禁止的な重い罰則を科せられるような仕組み作りを工夫することが重要だ。同時に、検査制度を実質的に強制的な制度とし、住居の精査に関わる人材を十分に養成するなど、インフラの整備が一刻も早くなされるべきである。