エアロゾル
大気中に存在する粒子は小さな空気分子と波長(~数ミクロン)と同程度の大きさを持つエアロゾル粒子に分けられます。このエアロゾル粒子は太陽光を散乱・吸収することで放射収支 に影響を与える(冷やす方向)他に、雲の生成粒子として間接的に放射収支に影響を与える(冷やす方向)こともわかっています。私たちの身の回りに存在するエアロゾルには、中国の黄砂、火山灰、すす、海塩粒子、土壌粒子、硫酸塩エアロゾル等があげられます。
南極オゾンホールの発見以来、成層圏エアロゾルが不活性塩素の活性化や窒素酸化物の除去に対して重要な役割を果たしていることがわかり、それらが原因となって極域でのオゾン層破壊が引き起こされていることもわかっています。オゾン破壊に与える影響はエアロゾルの組成に大きく依存しています。特に極域でのオゾンを理解する上でエアロゾル粒子の特徴を理解する必要があります。
ここでは、成層圏で観測されるエアロゾル粒子のうち、成層圏に全球的に存在している成層圏硫酸エアロゾルと、両極域の冬季に形成される極成層圏雲について説明します。
成層圏硫酸エアロゾル
成層圏に広い範囲では、硫酸と水蒸気からなるサブミクロンの液体硫酸エアロゾル粒子が存在しています。 硫酸エアロゾルは対流圏界面から約30km付近まであらゆる緯度帯に連続に存在しており、 典型的な粒子半径は約0.1ミクロン、質量混合比は約10-9(=1ppbv)、 数密度は約10個/cm3となっています。
成層圏硫酸エアロゾルの定常的な生成は主に、硫化カルボニル(OCS)や二酸化硫黄(SO2)のような硫黄化合物が酸化されて生成されると考えられています。このとき生成する硫酸は下部成層圏では 飽和蒸気圧が非常に低いために微粒子形態を取っています。気相から粒子への正確な変換メカニズムは完全には明かされていませんが、 同相間の核化(気体物質(硫酸)のみが結合して粒子になる現象)か、 異相間の核化(固体物質(例:火山灰、すす等)の上で気体の硫酸が粒子に取り込まれる現象)によって 形成されると考えられています。
成層圏中の硫酸エアロゾルはまた、断続的に起こる大規模な火山噴火によっても生成されます。大規模な火山噴火では大量の硫黄が放出され、この200年間で成層圏中に放出された火山性硫黄の平均流量は 年間約1Tgであったと推定されています。火山噴火以外の成層圏の硫黄の主要なソースは、 硫化カルボニルの酸化であるとされています。
成層圏の典型的な条件下では、硫酸より水蒸気の方が非常に高い濃度で存在しているために、硫酸エアロゾル粒子の組成は気温と湿度のみで決まり、理論的に硫酸の重量パーセント濃度が 60~80%となります。
次に、成層圏エアロゾル粒子の生成・成長過程と輸送との関わりに関して、成層圏エアロゾルのライフサイクルの概念図(図1.1)をもとに説明します。

図1.1 成層圏エアロゾルのライフサイクル概念図
生成・成長過程
対流圏の空気塊は熱帯上空の上昇気流に乗って上部対流圏まで上昇していきます。 その上昇の過程で、粒径の大きいエアロゾルは雲に取り込まれます。この上部対流圏付近の低温域で、硫酸の粒子形成(図中:核化)が観測されています。 生成された微小な硫酸の粒子を含む空気塊は対流圏界面を越えて上昇し、成層圏に入ります。 その後、微小な粒子は凝集過程(複数の微小粒子が衝突によって結合する過程。この過程により粒子数は少なくなり、粒径の範囲が広がり、中心半径は大粒径に遷移する)や水蒸気との凝結過程(水蒸気が付着して粒子が大きくなる過程。この過程により中心半径は大粒径に移行するが、数密度、粒径分布の幅は変わらない)によってエアロゾル粒子は成長します。これらの成長過程は、成層圏内で熱帯から極に輸送されながら引き続いて起こっています。
輸送過程
熱帯上空で成層圏に入ったエアロゾル粒子は、熱帯から中緯度にBrewer-Dobson循環にのって 輸送されていきます。成長したエアロゾル粒子は重力沈降や成層圏-対流圏交換過程、また極域の下降流によって 対流圏へと沈降して成層圏から除去されます。重力沈降する速度は、エアロゾル粒子の大きさと粒子が 存在する大気密度によって決まることがわかっています。
極成層圏雲(Polar Stratospheric Clouds;PSCs)
極域下部成層圏の冬季に、非常に冷たい領域で観測される雲を極成層圏雲と呼びます。 北半球では、主に北部スカンジナビアの冬季に見られています。 雲中の粒径の分布が一様であるために入射太陽光の散乱に波長依存性があり、 色彩に富んだ姿をしています。このため極成層圏雲は別名、真珠母雲や真珠層雲と名づけられています。
極成層圏雲の成長過程には、異なった二つの成長段階があることがわかっており、霜点より2~6K上で形成される粒子(以後、TypeⅠと呼ぶ)と霜点より低温で形成される粒子(以後、TypeⅡと呼ぶ)に分類されています。TypeⅠ粒子にはさらに、非球形で固相の粒子(例:硝酸三水和物)と 球形で液相の粒子(例:三成分系液滴エアロゾル)に分類されます。TypeⅡ粒子については半径1μm以上の氷晶(Ice)だと考えれています。
硝酸水和物、硫酸水和物、Iceの相遷移を示した図を図1.2に示します。 固相粒子の形成メカニズムが大変複雑であることがわかります。

図1.2 硝酸水和物・硫酸水和物・Iceの安定領域及び相遷移
(独立法人国立環境研究所ポスドクフェロー齋藤様提供)
凡例(番号)
- 凍らずに硫酸エアロゾルに硝酸が取り込まれて STS になる過程
- 温度が上昇して STS が蒸発して硫酸エアロゾルになる過程
- Ice の形成温度を数K下回る低温で STS から Ice に凍る過程
- STS を覆われていた Ice 粒子が蒸発する過程
- Ice の結晶が大きくなり、直接蒸気にさらされる過程
- 単一気体相からNATの堆積形成を始める過程
- Ice の形成温度を数K下回る低温域で硫酸エアロゾルから Ice になる過程
- Ice の蒸発
- NAT の蒸発
- NAT 形成後、硫酸エアロゾルが Ice か NAT 表面で SAT になる過程
- Ice の形成温度を数度下回る低温域で NAT や SAT 上で Ice が形成される過程
- Ice の蒸発
- SAT は NAT の核になりにくい。しかし、一度 NAT の核化に関わった SAT は以降、NAT の核になりやすいという説がある。
- NAT の蒸発
- SAT の溶解
- SAT 粒子が潮解して STS となる過程
- SAT が潮解した過程で NAT が形成される過程
- STS から直接的に NAT が形成される過程
- NAT の核化が起こった後、NAT が結晶化する過程
- Ice 粒子が NAT にコーティングされて、Ice 形成温度より数K上回る温度でも存在しうる過程
