導入事例
理化学研究所様
国内最高性能のLinuxクラスタシステムを中核に
次世代大型計算機センター、始動
[2004年7月2日 掲載]
目次・要約
- 【導入の背景】
独立行政法人化による統合の流れ、ユーザートレンドの変化に対応するために - 新システムの導入では、規模の目安として理論性能10TFLOPS(テラフロップス)、サービスの拡充を目標に。これを達成するために最適なコストパフォーマンスを発揮できるシステムとしてLinuxクラスタを選択。
- 【導入の経緯】
目標は、Linuxクラスタで10TFLOPS超え。実効性能を引き出すためにInfiniBandTMを選択 - Linuxクラスタで理論性能10TFLOPS超えを目標とし、実効性能を引き出すための選択肢として、次世代インターフェース規格InfiniBandTMを選択。当時、国内で最も開発が先行していたのが富士通。
- 【システムの概要】
グリッド、Web技術を駆使し大型計算機センターの可能性を拓く - グリッド技術とWeb技術を駆使。ユーザーは、個々の計算機を意識することもコマンドなどを覚える必要もなく、大規模な計算をWebブラウザで簡単に実行できる。
- 【今後の展望】
5年後、10年後を見据えてさらなるフロンティアへ挑戦 - LINPACKベンチマークを実行した結果、世界のトップ10にランクイン。次のトレンドは何か。ユーザーに必要なものは何か。5年後、10年後のトレンドを見据えた取り組みもスタート。

理化学研究所様は、世界でもトップレベルで知られる自然科学の総合研究機関です。独立行政法人化による新時代を迎えた同研究所では、国際競争力の向上や研究者へのサービス拡充を図るべく新スーパーコンピュータシステム「理研スーパー・コンバインド・クラスタ(RSCC)」を導入し、2004年3月1日より運用を開始しました。RSCCには、Linuxクラスタ、グリッドをはじめ、富士通の先進技術、ノウハウが結集されています。
導入の背景
独立行政法人化による統合の流れ、ユーザートレンドの変化に対応するために

姫野 龍太郎氏
工学博士
情報基盤センター長 中央研究所 生体力学シミュレーション特別研究ユニットリーダー
理化学研究所様では、物理、化学、生物、工学など幅広い分野における最先端の研究が行われています。同研究所の研究開発力を情報サービスの側面から支えているのが、情報基盤センターです。情報基盤センターでは同研究所全体の情報基盤の整備、運営および最先端の情報技術の研究開発を行っています。
2004年3月1日より情報基盤センターで運用が開始された新スーパーコンピュータシステム「理研スーパー・コンバインド・クラスタ(RSCC)」は、日本で最初に大規模Linuxクラスタシステムを大型計算機センターの中核マシンに採用したモデルケースとして内外から大きな注目を集めています。RSCCの導入背景について情報基盤センター長の姫野龍太郎工学博士は次のように語ります。
「独立行政法人化により、今後、大型計算機センターの統合が進んで行くことが予想できます。その中で生き残るためには大規模であることと、サービスを提供することによりユーザーを増やす努力が大切になります。常にサービスを広げ、先を見据えて手当てをしていくことが、これからの大型計算機センターには求められます」
また、ユーザートレンドの変化も今回のシステム導入には大きく影響しています。「ユーザーは自分でプログラムをつくらなくなりつつあり、従来のVPP(ベクトル型並列スーパーコンピュータ)(注1)に適したプログラムの比率が減ってきました。また、ゲノムの相同性検索(注2)などデータベースの大規模な検索や、実験データの解析といった新たなニーズも増えてきました」(姫野氏)
新システムの導入では、CPUの性能向上から規模の目安として理論性能10TFLOPS(注3)、そして新たなユーザーニーズへの対応といったサービスの拡充を目標に掲げました。こうした目標を達成するために最適なコストパフォーマンスを発揮できるシステムとしてLinuxクラスタ(注4)を選択しました。
導入の経緯
目標は、Linuxクラスタで10TFLOPS超え。実効性能を引き出すためにInfiniBandTMを選択
Linuxクラスタで理論性能10TFLOPSを超え、かつ実効性能を最大限に引き出すためにどうすればいいか。「そのときの選択肢として次世代インターフェース規格InfiniBandTMを使うことにしました」と姫野氏は当時を振り返ります。当時、InfiniBandTMの開発で最も先行していたのが富士通でした。
InfiniBandTMは、複数のコンピュータ間およびコンピュータと周辺機器の間を最大8Gbpsで高速接続する次世代インターフェース規格です。RSCCでは、富士通が共同参画した経済産業省の新情報処理開発機構(RWCP)プロジェクトの成果であるクラスタ制御ソフトウェアSCore(注5)に対応したInfiniBandTMアダプターを開発し、システム性能を最大限に引き出すことを可能としました。
「私はRSCCのプロジェクトそのものが研究開発であると考えています。世の中のトレンドとしてこれから先、何が主流になっていくのか。そうした視点からLinux
クラスタやInfiniBandTMを選択しました。コストパフォーマンスを考えるとこれからのシステムはLinux クラスタへのシフトが予想できますが、現在はまだソフトウェアが十分ではありません。また、オープンな時代のインターフェース規格としてInfiniBandTMの拡大も予想できますが、現在はまだ実績が足りません。そこで大規模なファーストユーザーになり、ユーザーに実績やノウハウを積んでもらい、後につづく人たちのためのモデルケースとしての役割を果たしたい。それも情報基盤センターの使命の一つであると考えています」(姫野氏)
システムの概要
グリッド、Web技術を駆使し大型計算機センターの可能性を拓く

RSCCは、国内最高性能のLinuxクラスタシステム(2048CPU、総演算性能12.5TFLOPS)を中核に、大規模メモリ計算機(共有メモリ型ベクトル計算機)、フロントエンド計算機、高速磁気ディスク装置(20TB)、テープライブラリシステム(200TB)で構成されています。
Linuxクラスタシステムはコストと運用面を考慮し、1ノード(注6)2CPU(Intel Xeon 3.06GHz)で1024ノードからなり、5つのセグメントに分割されています。最大のセグメントは512ノード1024CPUで各ノード間はInfiniBandTMネットワークで接続されています。
RSCCは全国に広がる理化学研究所様の所内での利用はもとより、国内研究所機関の相互連携を推進するITBLプロジェクト(注7)に参加する他の研究所の計算機センターとの相互利用も可能にしています。
「Linuxクラスタ、ベクトル型計算機、他の研究所の計算機。RSCCを利用するユーザーからみると、どれを使えばいいのかと悩むことになります。そこで、ユーザーは個々の計算機の存在を意識することなく、システム側で目的に最適な計算機を自動的に選択しユーザーにその結果を返すといったグリッド技術(注8)の仕組みも取り入れています」(姫野氏)
RSCCでは、グリッド技術とWeb技術を駆使し、コマンドなどを覚えなくても大規模な計算をWebブラウザで簡単に実行できます。その象徴的なサービスがポータルです。
「これまでライフサイエンス分野(注9)において、特にゲノムの相同性検索ではスーパーコンピュータを利用していませんでした。これは、データベースの検索は並列化できても、ベクトル化できないためです。RSCCでは、ポータルというサービスの提供により、たとえばゲノムの相同性検索なども通常のサーチエンジンの使い勝手で簡単に利用できます」(姫野氏)
性能を最大限に求める今までのスーパーコンピュータのユーザーにとっても、従来システムに比べて処理性能が30倍にアップするなどRSCCは大きな可能性を秘めています。また、既存資産の継承も実現しています。「従来のVPPで動くFortran(注10)の資産をRSCCのLinuxクラスタで動くようにコンパイラを富士通につくってもらいました。過渡的な対処としてではなく、短期間で効率的に並列化できる優れた言語として多くの開発者の方にぜひ使っていただきたいと思います」(姫野氏)

今後の展望
5年後、10年後を見据えてさらなるフロンティアへ挑戦
RSCCは、LINPACKを用いた実効性能の測定で8.7TFLOPSを達成し、地球シミュレーターに次いで国内第2位。世界的にも7位にランクされました。Linuxクラスタとしては、国内第1位、世界第3位になります。
「LINPACKベンチマーク(注11)は、物理的に複数のクラスタに分割したRSCCには不利といえます。しかしRSCCの存在価値や国際競争力を高める面からも世界トップ10入りにはこだわりました。富士通および富士通研究所にはとても感謝しています」(姫野氏)
情報基盤センターでは5年後、10年後のトレンドを見据えてすでに動き出しています。
「研究分野やITトレンドの5年後、10年後を見据えて理化学研究所HPC研究会を年4回、開催する予定です。私たちの要求は、その時点ではニッチかもしれませんが、すべての要求は、今後、必ず主流になる可能性のあるものです。富士通には私たちの思いを共有し、ハードウェア性能の開発強化をはじめ、使い勝手を向上するための新しい機能の開発など今後もパイオニアとして一緒に取り組んでほしいと思います」(姫野氏)
ユビキタス時代に向け、「ビジネスの成長・拡大」「スピーディーな業務構築」「システムの安定運用とTCO削減」といった社会・企業活動における課題の解決を支援するのが富士通のIT基盤「TRIOLE」です。富士通は、理化学研究所様のRSCCをはじめ先進的な取り組みに今後も積極的にチャレンジし、そこで培った経験とノウハウを活かして「TRIOLE」を強化、発展させてまいります。
(注)InfiniBandは、InfiniBand Trade Associationの商標です。
【企業概要】
独立行政法人 理化学研究所
- 設立: 1917年(大正6年)、創設。2003年(平成15年)10月、文部科学省所管の独立行政法人 理化学研究所として再発足
- 人員: 定員 693名(平成16年度)、外来研究者等 2,872名(平成14年度実績延べ人数)
- 国内研究所: 和光研究所、筑波研究所、播磨研究所、横浜研究所、神戸研究所、フォトダイナミクス研究センター、バイオ・ミメティクコントロール研究センター
- 事業内容: 科学技術の水準の向上を目的とし、日本で唯一の自然科学の総合研究所
- ホームページ: 理化学研究所ホームページ
【お問い合わせ】
用語解説
- 注1: VPP(ベクトル型並列スーパーコンピュータ)
- ベクトル型プロセッサを並列に構成し、高速のプロセッサ間通信を可能にしたスーパーコンピュータ。
- 注2: ゲノムの相同性検索
- 生物学的な類似性に基づいて、類似度の高い遺伝子配列情報をデータベースから検索すること。未知の遺伝子配列情報の機能や構造を推定するためによく用いられる。
- 注3: TFLOPS(テラフロップス)
- 1秒間に1兆回の浮動小数点演算ができる演算能力。
- 注4: クラスタ
- 複数の独立したサーバが、あたかも1つのサーバシステムのように機能するシステム。従来、スーパーコンピュータでしかできなかった大規模の計算も高いコストパフォーマンスで実現。
- 注5: SCore
- クラスタ制御ソフトウェア。経済産業省のReal World Computing(RWC)プロジェクトを推進した技術研究組合「新情報処理開発機構」の開発成果物。
- 注6: ノード
- ネットワークに接続されているコンピュータやハブなどの機器の総称。
- 注7: ITBL(Information Technology Based Laboratory)プロジェクト
- 文部科学省が2001年度から開始したIT技術を活用して仮想的な共同研究環境を実現するプロジェクト。
- 注8: グリッド技術
- 組織・拠点を超えて、ネットワーク環境下の計算機やストレージ等の資源や情報を、安全に・安定して・容易に享受することを可能にする基盤技術。
- 注9: ライフサイエンス分野
- 生物が営む生命現象の複雑かつ精緻なメカニズムを解明する研究分野。その成果を、医療や健康、農業、環境に役立てる研究が近年注目されている。
- 注10: Fortran(フォートラン)
- プログラミング言語。
- 注11: LINPACKベンチマーク
- LINear equations software PACKage、米国テネシー大学のJ.Dongarra博士によって開発された連立一次方程式の解法プログラム。このベンチマークテスト結果は、スーパーコンピュータからワークステーション、パーソナルコンピュータに至るまで数多くの計算機について登録・報告されている。
本事例中に記載の肩書きや数値、固有名詞等は掲載日現在のものであり、このページの閲覧時には変更されている可能性があることをご了承ください。
