*本講座は4回連載です
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文章作成は仕事の基本。論理的な内容を正確に伝達し、残しておくためには、やはり文章が一番です。現代人は書くことが苦手といわれますが、考えてみれば毎日の業務日誌やメールのやり取りも同じこと。文章を書かない日など、一日もないといってよいかもしれません。本講座は、「FUJITSUファミリ会2009年度論文 執筆の手引き」をもとに、日常のビジネスシーンで役立つ文章作成力と一般的な論文作成のためのポイントを4回連載でご紹介していきます。ぜひこの機会に文章作成力に磨きをかけてみてください。


第1回 短文のススメ

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《第1回のねらい》
良い文章の基本は短文にあり。短い文章をテンポよく連係させることで、メッセージは読者に誤解なく伝わります。短い文章を書くことの大切さと、その際に気をつけることを学びましょう。重複していることや自明の内容などを省略すると文章が短くなり、全体がすっきりします。 また「は」と「が」の使い方の違い1つで誤解を招くこともあり、良い文章と悪い文章を分けてしまう場合すらあります。そこで今回は、短文作成のポイントをみていきます。


1. 良い文章の基本は短文にあり

高校生時代に世界史で習った、ローマ皇帝カエサルの名言を覚えていますか。「来た。見た。勝った」。戦場から故国に送られた彼の戦況報告書の全文です。簡潔、的確、その上力強い、手紙文の見本とされています。
一方で、読点や接続詞などを的確に使った文章を書くことも重要なことです。時に相反する両者ですが、文書作成関連のノウハウ本には、必ずといってよいほど「文章はなるべく短くしましょう」と書かれています。なぜ文章は、短くするとわかりやすくなるのでしょうか。
簡単にいえば、文章が短ければ短いほど、“本当にいいたいことしか書けない”からです。書き手の思考は整理され、主語と述語が接近することにより、長文よりも的確に伝わりやすいということです。

〈例文1〉

私はカレーライスです。

この一文だけを読むと、非常におかしな日本語です。私という人間がカレーライスであるはずはありません。しかし、日常の会話でこの表現はよく使われます。
例えば食事を注文するときや好きなものを聞かれたときなど、「私はカレーライスを注文します」、または「私はカレーライスが好きです」というべきところを、会話の際には、「私は」という主語に対して、述語となる「注文します」「好きです」という述語部分を省略して伝える場合もあります。

文章化する際も、例えば、

〈例文2〉

小論文で大切なポイントは、「論旨明快」ということです。簡単にいえば、「わかりやすさ」です。

この例文のどこに省略があるか、わかりますか。
2番目の文に「大切なポイントは」が主語として入るはずですが、それが省略されていますね。なぜ省略されているのかというと、読者が当然了解している、と考えられるからであり、もう1つの理由は繰り返しを避けるためです。
文章は、論理的であればよいというだけではありません。読みやすさとか、リズム感に気を配ると、より読者の好感を得られる文章になります。省略は、文章の表現、言葉の表現としても必要です。

実践練習を1つ。次の課題文の重複した語や内容を省略し、すっきりとした文章に仕上げてください。

〈課題文1〉

弊社は、お客様により確かな製品をお届けするために、製造メーカーの品質管理の徹底ならびに検査体制の強化を図っております。また海外メーカーから納入された製品を社内独自の検査体制による検査を実施し、お客様に納入させていただいております。

ビジネスにおいてよく目にするような課題文を作ってみました。「製造メーカー」という言葉は、すぐに変だと思われたかもしれません。しかし、ここでの課題は、重複した語や内容の省略です。省略できる個所が見つからないと感じましたか。同じような文章は世の中に氾濫していますから、特に気にならないのかもしれません。

〈解答例1〉

弊社は、品質管理の徹底ならびに検査体制の強化を図り、確かな製品をお届けするように心がけております。輸入製品に対しても、十分に社内検査を実施しています。

課題文に比べ解答例では、重要な言葉が省略されています。それは「お客様」です。なぜこの言葉を省いたかというと、文の内容から、「お届けする」「納入する」相手先が「お客様」であることは自明と考えられるからです。確かに「お客様」という言葉を入れて、強調させたいという場合もあるかもしれません。しかし「お客様」を入れると、文章全体が必要以上にへりくだったものになりがちです。ここでは、わかりやすい解答例として省略しました。同じように、行き過ぎた丁寧語も省いています。

2. 「は」と「が」の使い分け

例文1「私はカレーライスです。」は、「あなたは何を注文しますか?」という問いかけに対する答えとして発せられたものです。そうであれば「私は」という主語さえ必要なくて、「カレーライス」だけでも通じます。主語や述語を省略することも多いです。それが文章作成のときにも無意識に表れてしまうことが、主語も述語も不明瞭な、非論理的な文章となる原因の1つです。これを防ぐために知っておきたいのが、助詞「は」と「が」の働きと、その使い方です。

助詞「は」のもっとも主要な働きは、予想の「は」です。「~は」と書かれればだれもが、その後に「~」の答えや結論がくると予想します。予想の「は」というのは、問題提起する語の後に付けることで、その文末に必ずその答えがくることを読み手に「予想」させる助詞ということです。
ですから読み手の予想を裏切ったり、予想がわかりにくくなったりしては、良い文章になりません。短文がなぜ望ましいかというと、読み手が予想している気持ちが失せないうちに、速やかに答えを提示する文章だからです。「~は」と書いたら、できるだけ速やかに答えを出してあげることです。この点を覚えておくだけでも、文章はよりわかりやすい文章に変わっていくでしょう。

「は」と同じように、よく主語の後に付く助詞とされているものに、「が」があります。
そこで「が」と「は」とはどこがどう違うのか、考えてみましょう。主語を表す助詞「が」と「は」にはそれぞれ働きに違いがあるのです。
短文を意識した際の1文字の使い方に気をつける一例です。

〈例文3〉

キリンは首が長い。

「キリンは」の「は」は主語を表しています。その述語は何でしょうか。「長い」という答えではやや不十分です。「首が長い」が正しい答えです。この場合の「が」はその直前の語と直後の語を接着する働きを持っています。実は、この例文では「動物です」という本来の述語にあたる部分が省かれています。本来は「キリンは首が長い動物です」とあるところを、「動物です」という自明の部分を省略しているわけです。

そこで少し例文を変えて、

〈例文4〉

キリン長い動物です。

としてみましょう。こうすると、主語「キリン」の述語は「動物です」になります。その間に入った「首が長い」は、「動物です」の属性を表す修飾文ということになります。
「首」と「長い」は主語と述語の関係にあるわけですが、これを別の言い方に変更することもできます。

〈例文5〉

キリン長い動物です。

〈例文6〉

キリン長い動物です。

例文4の「が」は、例文5のように「の」に変更しても同じ意味です。
しかし問題は例文6の2つ目の「は」です。この「は」には言葉には表さないが、「胴体や、脚などは別にして」といったような特定個所を強調させる意味が含まれています。だからこの文だけでは読んでも、何がいいたいのかよくわかりません。日本語の「は」の使い方の難しさを表す例の1つです。

以上をまとめると、〈例文6〉のような使い方もありますが、助詞「は」は主語についての情報を「予想」させる働きを持ち、助詞「が」は所有や所属・属性を表す働きを持つということになります。同じように主語を示す助詞でも、その使い方には、このように大きな違いがあります。

最後にウンチクを1つ。江戸時代より以前、「が」には、「首が長い」という使い方はありませんでした。どう使ったかというと、茅ヶ崎、霞が関、おらが春、のように「の」とほぼ同じ、所有や所属・属性を表す語でした。だから「が」には「の」とよく似た役割が、いまも強く残っているのです。

ふだん何気なく使っている日本語ですが、いざ、文章を書くとなると、苦戦することも少なくありません。日頃から、新聞や雑誌、小説などを読んで、日本語の省略法が実際どのように使われているかと意識してみておくのも、文章作成の力をつける1つの方法ではないでしょうか。

今日から使える「文章作成力」
第1回 「短文のススメ」のポイント


  • 主語と述語は近いほどわかりやすいと知る
  • 日本語の「省略法」を正しく使いこなす
  • 「は」と「が」の違いを心得る

【参考文献】

  • 日本語練習帳 (大野晋 著/岩波新書)

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