Skip to main content

Fujitsu

Japan

アーカイブ コンテンツ

注:このページはアーカイブ化さたコンテンツです。各論文の記載内容は、掲載開始時の最新情報です。

雑誌FUJITSU

2009-9月号 (VOL.60, NO.5)

富士通の最新技術を隔月に紹介する情報誌です。 冊子体の販売はしておりませんのでご了承下さい。


雑誌FUJITSU 2009-9

特集:「研究開発最前線」

本特集号では,ビジネスや生活の現場を変革していくユビキタス技術,新しい価値を生み出す種となる材料・デバイス分野の技術,環境・エネルギー問題に貢献する技術などを,グローバルな体制で創造する富士通研究所の研究開発の取組みの一端をご紹介します。


富士通研究所
代表取締役社長
村野 和雄
富士通研究所 代表取締役社長 村野 和雄 写真

研究開発最前線特集に寄せて(PDF)

インターネットを基盤とする情報通信革命の飛躍的な進展により,世の中の動きや産業構造は大きく,そして急激に変化しています。この変化を先取りし,新しい価値やソリューションをお客様や未来社会に提供し続けるために,富士通研究所は21世紀型研究所を目指した活動を推進しています。21世紀の研究開発では,「科学」と「技術」に加えて,「ビジネスモデル」と「企業の社会的責任」が重要になると考えています。
富士通研究所は,ICTインフラを進化させる最先端テクノロジの研究開発を継続的に深耕するとともに,ビジネスや生活の現場を変革していくユビキタス技術,新しい価値を生み出す種となる材料・デバイス分野の技術,環境・エネルギー問題に貢献する技術などを,グローバルな体制で創造していきます。

特集:研究開発最前線 目次〕

R&D戦略

  • 富士通研究所のR&D戦略
    —ヒューマンセントリックなネットワーク社会を目指して—

海外研究所紹介

  • 富士通研究所の海外拠点における研究開発・活動

環境戦略

  • 富士通研究所の環境イノベーションへの取組み
  • 先端GaN-HEMTデバイス技術
  • On Die電源ノイズ観測技術とPower Gating技術開発への応用
  • リアルタイム超多点温度測定技術
  • 営業店モニタリングへの環境負荷分析の適用

最適なマネジメントを実現するソリューション技術

  • 未来の社会を守るハイパフォーマンスコンピューティング
  • 中国語テキスト音声合成における高品質韻律生成
  • 情報漏えい防止セキュリティ技術開発への取組み

ITインフラを進化させる先端技術

  • 次世代サービスプラットフォーム向けサービスネットワーキング技術
  • ITシステムの障害からの復旧を迅速化する支援技術
  • 大規模ブレードサーバ向け
    10ギガビットイーサネットスイッチブレード

ユビキタス社会のネットワークを支える技術

  • クラウドコンピューティングに適した
    高速ファイル転送ソリューション
  • 100 Gbps光伝送システムのためのデジタルコヒーレント受信技術
  • WiFi/BluetoothとWiMAXの共存技術

ビジネスや生活の現場を変革するユビキタス技術

  • 紙の暗号化技術
  • 全周囲立体モニタシステム
  • サービスロボットenonの開発とその応用

情報システムを支える技術

  • 新しいナノエレクトロニクス材料 グラフェン
  • 数式処理を用いた設計技術
  • 重要な産業問題に対するコンパクトBDDライブラリの新たな応用
  • 45 nm世代のCMOS LSI多層配線技術

特集:研究開発最前線


R&D戦略

富士通がEverything on the Internetというメッセージを世界へ発信してから,すでに10年以上になる。富士通研究所が実現してきた数々のITの進化によって,様々な業種でサービスやビジネスモデルの変革も起こってきた。富士通研究所は「ヒューマンセントリックなネットワーク社会を実現するためのR&D活動」というビジョンを掲げ,個人を取り巻く環境から獲得できる様々な情報や知識をセンシングし,ネットワークを介してクラウドへ提供し,膨大な集合知を新たな価値へ変換し,再び個人や個人を取り巻くビジネス環境へフィードバックすることで,大きな社会変化やビジネス機会など質的変化を提供していく。
「夢をかたちに」することが富士通研究所の役目である。真の意味で21世紀型研究所に変身し,富士通グループの一員として,ヒトを中心に快適で安心できるヒューマンセントリックなネットワーク社会づくりに貢献し,豊かで夢のある未来を世界中の人々に提供していく。

吉川 誠一, 佐々木 繁

海外研究所紹介

富士通研究所は,米国・中国・欧州の三つの拠点に海外研究所を展開し,グローバルに研究開発を推進する体制を築いてきた。各海外拠点では,現地の大学や研究機関との密接な協力関係のもとに,地域に根ざした技術を含めて研究を進めている。設立当初は,各拠点で研究機能を立ち上げることを目標として,オリジナリティを生かした研究活動を推進した。2005年ごろからは,グローバル連携によるアウトプットをより強く意識した研究マネジメントを強化し,さらにオープンイノベーションを促進している。現地の大学や研究機関との密接な協力関係や,現地の優れた環境や人材の活用など,各地域の特色を生かしながら,研究開発・ビジネスインキュベーションを進めており,顕著な成果を生み出してきた。
本稿では,三つの海外拠点のそれぞれの研究開発・活動状況を紹介する。

松本 均, 山村 毅, 丸山 文宏

環境戦略

環境問題への的確な対応が,継続的な企業活動における最重要課題の一つになっている。IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change)は,その4次報告で,炭酸ガスなどの温室効果ガスの排出をこのような状態で続けると,21世紀末には地球の平均気温が2~6℃上昇し,人類存続の危機となると警告している。2050年において排出量半減を目標とした温室効果ガスの削減には,ITによるイノベーションが重要・不可欠であり,富士通研究所においても,様々な環境貢献技術の開発を進めている。開発方針の策定においては,研究開発ロードマップに環境視点を導入し,開発対象をLCA(Life Cycle Assessment)で評価し,事前に環境貢献を予測している。また材料・デバイスから,システム・ソリューションに至るトータルな技術開発を推進し,それらを統合してエコロジカルバリューチェーンを構築し,効果的な省エネを目指している。本稿ではこれら取組みの概要について述べる。

矢野 映

富士通研究所は,モバイルWiMAX(Worldwide Interoperability for Microwave Access)基地局向け送信用増幅器に使用する高効率窒化ガリウム(GaN)高電子移動度トランジスタ(HEMT:High Electron Mobility Transistor)の開発を行ってきた。一方でGaN-HEMTはその優れた材料性能から大電流・高電圧動作が要求される電源用省電力素子への応用が検討されている。今回,電源用途への適用を見据えて高ドレイン電流・高耐圧を有するノーマリーオフ型デバイスの開発を行った。伝導電子濃度を高めるための新規結晶構造とリセスゲート構造,およびMIS(Metal Insulator Semiconductor)構造を用いることでしきい値電圧3 V,ドレイン電流800 mA/mm,オフ耐圧320 Vのデバイス特性を実現した。これらの結果により,ノーマリーオフ型GaNデバイスが将来の電源用途への応用に対しても有望であることを実証した。

金村 雅仁, 多木 俊裕, 吉川 俊英

LSIの低消費電力化のためには,電源電圧制御技術を使い,できるだけ電源電圧を低下させることが有効である。しかし,Power Gating技術やDVFS(Dynamic Voltage and Frequency Scaling)技術では,電力モードを移行する際に大きな電源ノイズが発生し,LSIの誤動作のリスク要因となる。富士通研究所は,今回,精密な電源電圧制御技術を確立するためにOn Dieで電源ノイズを観測できる技術を開発し,Power Gating技術の開発に利用した。開発したPower Gating技術は,電源復帰を高速に行っても発生する電源ノイズを抑えることのできる新規技術である。On Dieノイズ観測回路を搭載したテストチップを90 nmテクノロジで設計し,ノイズ予測技術と設計ルールの妥当性を10%以内の誤差で確認した。この結果,電源ノイズを従来技術と比較して87.5%低減することができ,1μs以下という短時間で復帰できるPower Gating技術を開発した。

井上 淳樹, 塩田 哲義, 佐藤 富夫, 川崎 健一

プレスリリースシステムLSIの低電力化を実現する電源遮断技術を開発

プレスリリースLSI内の電源変動をリアルタイムに観測する技術を開発

ITインフラの高速大容量化とサーバなどIT機器の著しい増加に従い,データセンタで消費されるエネルギーは飛躍的に増大しつつある。データセンタのエネルギー消費において空調が占める割合は約40%程度と多く,地球温暖化防止を背景にデータセンタにおける空調エネルギーの削減が大きな課題となっている。データセンタの省エネに向けた綿密な温度環境の測定を実現するため,著者らは,光ファイバのラマン散乱光測定に基づく温度測定原理を採用した温度分布測定装置において,その出力信号処理を独自のアルゴリズムで補正することにより,従来比2倍以上の空間分解能に高める補正技術を確立した。また,サーバラックへの光ファイバ敷設を高速かつ確実に行うことができる敷設技術を開発した。これらの技術により,データセンタ内の温度分布を正確かつ綿密に行うことが可能となり,空調の適正化による省エネ効果が期待される。

武井 文雄, 宇野 和史, 笠嶋 丈夫

プレスリリースデータセンター向けリアルタイム多点温度測定技術を開発

日本における温室効果ガス排出量は,京都議定書の基準年である1990年よりも9.0%増加しており,とくにオフィスを含む業務その他部門における増加が顕著となっている。業務その他部門では,ITに起因する温室効果ガスの排出が大きく,これを改善すべきITソリューションの提供が急務となっている。これまでに富士通では,現場での課題を抽出し,ワークフローやITシステムを改善するための手法として,業務分析・ワーカ分析・空間分析による営業店モニタリングを提案してきた。これに加え,現場におけるITソリューション導入による環境負荷の削減効果を明らかにするために,富士通研究所が開発した環境負荷分析を実施している。
本稿では,銀行店舗を対象として,営業店モニタリングへ環境負荷分析を適用した具体的な事例について紹介する。

中澤 克仁, 植田 秀文, 西井 耕太

最適なマネジメントを実現するソリューション技術

社会は,地球温暖化による気候変動,高騰する新薬のコスト,ウイルスの世界的蔓(まん)延の脅威など,多方面からの課題に直面している。ハイパフォーマンスコンピューティングは,これらの課題の解決を支援して社会を守るという枢要な役割を担う。欧州富士通研究所(FLE)は,富士通の次世代ハイパフォーマンスコンピューティング技術をこれらの切迫した社会問題に集中させるために,主要な欧州の研究機関との戦略的協力関係を確立している。
本稿では,インペリアル・カレッジ・ロンドンとの協力による海洋力学のマルチスケールモデリング,EUが資金提供するpreDiCTプロジェクトでの心臓シミュレーション,オックスフォード大学などとの協力によるウイルス–タンパク質シミュレーションについて紹介する。

Elena Akhmatskaya, Peter Chow, Ross Nobes, James Southern, Nicholas Wilson

テキスト音声合成(TTS)装置は,コンピュータ上で扱われるテキストデータを自動的に音声で読み上げるシステムである。富士通では,最先端技術を用いた標準中国語TTSシステムの研究開発を行っている。TTSシステムにおいて,了解性や自然性の高い合成音声を生成するためには,合成するテキストの韻律構造を正しく解析する必要がある。
本稿では,韻律構造の最低単位である韻律語を予測するための「全体確率推定法」を提案する。実験の結果,本方法は極めて有望であり,その精度とメモリコストの点で,著者らがこれまでに開発した韻律バイナリツリー法よりも優れていることが確認できた。

郭 庆, 张 洁, 片江 伸之, 于 浩

情報漏えいは,あらゆる組織において解決すべき重要な課題となっているものの,漏えい経路は複雑化しておりその対策も一筋縄ではいかない。富士通研究所では従来から培ってきた暗号などのセキュリティ技術に加えて,モバイル機器や情報検索に関する技術やノウハウも統合した情報漏えい対策技術を開発し,社内実践により効果を検証して実用化へとつなげている。
本稿では,その最新の取組みとして,企業内だけではなく,オフラインのお客様先や協力会社も含め組織をまたがる場面でも,利用者に負担をかけずに一貫した安全性を保証した上で情報を利活用する三つの技術を紹介する。まず,USBメモリによる社外への安全なデータ持出しソリューション,つぎに誤送信防止メールフィルタ,最後に編集を含むライフサイクルにわたる文書保護技術について,実践評価を踏まえて紹介するとともに,SaaS(Software as a Service)・クラウド時代に向けた情報漏えい対策技術の展望について述べる。

竹林 知善, 津田 宏, 長谷部 高行, 益岡 竜介

ITインフラを進化させる先端技術

アプリケーション,コンピュータ資源,ストレージなど様々なものをネットワークを介して利用したいというお客様のニーズに応えるため,ネットワークサービス事業者や通信事業者は,種々のサービスに共通なネットワーク機能をサービスの部品として提供するプラットフォームであるSDP(Service Delivery Platform)に着目している。富士通では,システム構築で培った技術やデータセンタ運用で蓄積したノウハウを活用し,低コストかつ迅速に高信頼のサービスを提供できるサービスプラットフォームの開発に取り組んでいる。
本稿では,このプラットフォームを実現するサービスネットワーキング技術として,サービス部品が様々な端末やアプリケーションとの間でやり取りするメッセージを中継する技術,およびサービス部品の構造化技術について述べる。これらの技術によって,サービス部品のスケーラビリティを確保し,またアプリケーション開発者が端末やネットワーク依存の複雑な処理を意識せずにアプリケーションを開発し,迅速にサービス提供できるようになる。

阿比留 健一, 久保田 真, 雨宮 宏一郎

プレスリリース異なる通信プロトコルの間で負荷分散を実現するメッセージ中継技術を開発

ITシステムの障害の多くが既知の障害であると言われている。過去のITシステムの障害からの復旧プロセスを形式知化したものを再利用することで,障害からの復旧を迅速化する技術が望まれている。
本稿では,まず,現状のITシステムの障害対応プロセスの課題について述べる。そして,過去に起こったITシステムの障害の症状・対処を蓄積するシンプトンDBを使った,ITシステムの障害対応システムのアーキテクチャについて説明する。つぎに,シンプトンのデータ構造について述べる。さらに,シンプトンDBを使った障害対応ナビゲーション技術とその評価について触れ,最後に障害対応システムのロードマップについて述べる。

松本 安英

近年,ブレードサーバの導入が急速に進んでいる。ブレードサーバのネットワーク機能を提供する重要な構成要素であるスイッチブレードは,以下のような要件が求められる。まず,FCoE(Fibre Channel over Ethernet)といったストレージ用ネットワークのイーサネットへの統合技術の普及に対しても対応できる高い通信性能,つぎに実装密度の高いブレードサーバに対応する小型化,省電力化,そして,サーバとネットワークが一体化したブレードサーバの構造に最適化されたスイッチ機能と運用設定を簡単化するスイッチソフトウェアの実現である。著者らは,これらの要件を満たす大規模ブレードサーバ向け10ギガビットイーサネットスイッチブレードを開発した。
本稿では,ブレードサーバに最適化した10ギガビットイーサネットスイッチLSI"MB86C69"の特長,スイッチLSIに内蔵された高密度・省電力の高速送受信回路,およびスイッチブレードの設定簡単化を実現したスイッチソフトウェアを中心に解説する。

小柳 洋一, 新家 正総, 梅澤 靖

プレスリリース業界最高クラスとなる18枚搭載の大規模ブレードサーバ「PRIMERGY BX900」を販売開始

プレスリリースブレードサーバの高速化を実現する多チャネル高速送受信回路を開発

ユビキタス社会のネットワークを支える技術

近年,インターネットなどのネットワークを通じて様々なサービスを提供するクラウドコンピューティングが注目されている。クラウドコンピューティングではクラウドを構成するサーバ間や,利用者とクラウド間で頻繁にデータの転送が発生するが,距離が遠いため従来から用いられてきた転送手法では転送速度が低下する。この問題に対し,主にハードウェアによる高速化とソフトウェアによる高速化が提案されているが,とくにクラウドと利用者間についてはハードウェアでは導入コストが高い。そこで著者らは,独自の消失訂正符号を用いたソフトウェアによる高速ファイル転送ソリューションBI.DAN-GUNを開発した。
本稿では,BI.DAN-GUNのコア技術である独自の消失訂正符号RPS(Random Parity Stream),BI.DAN-GUNとその適用例,BI.DAN-GUNとRPSの今後の発展性について解説する。

亀山 裕亮, 佐藤 裕一, 吉田 義史, 瓜田 誠一

プレスリリース国内初!JAXA様の人工衛星を利用したアジア太平洋域災害管理システムを富士通が受注

デジタルコヒーレント受信技術は,100 Gbps光伝送システムの必須技術として期待されている。富士通研究所および富士通は,その安定性・信頼性の確立に向け,光周波数オフセット補償回路・搬送波位相推定回路といった,デジタルコヒーレント受信の基本を成す回路を試作した。その性能を実験的に評価した結果,理論限界に1 dBと迫る良好な誤り率特性を確認した。

Jens C. Rasmussen, 星田 剛司, 中島 久雄

モバイルWiMAX(IEEE 802.16e)はOFDMA方式を用いる次世代ワイヤレスブロードバンドアクセス技術として期待されている。しかし,その運用帯域(2.3 GHz/2.5 GHz)はWiFi/Bluetoothで使用するISM(Industrial Scientific and Medical)帯(2.4 GHz)と隣接しており,普及には電波妨害によるシステム間干渉の解決が求められる。次期標準化改訂による対策普及までの複数年間のサービスギャップを埋める有効手段として,富士通独自のシステム共存技術を確立した。この独自共存技術は既存仕様に変更を加えず互換性を維持したまま,再送の仕組みを用いてシステム共存を実現する。懸念されるシステムスループットへの影響も,システム容量の75%以下のトラフィック負荷では発生しないことをシミュレーションにより明らかにした。
本稿では,WiFi/BluetoothとWiMAXのシステム共存に対する問題と,確立した富士通独自の共存技術について概要を述べる。

近藤 泰二, 藤田 裕志, 吉田 誠, 齊藤 民雄

プレスリリースモバイルPC向けWiMAX™ベースバンドLSI新発売

プレスリリースモバイルWiMAX™端末向けチップセット新発売

ビジネスや生活の現場を変革するユビキタス技術

個人情報保護法の全面施行(2005年4月)を契機とし,様々な情報漏えい対策が進められている。「印刷をさせない」ことによる情報漏えい抑止,「印刷者のログを記録」するシステムや,印刷物の中にIDなどの追跡情報を埋め込む電子透かし技術なども利用されている。しかし,「印刷させない」システムは,業務によっては適合しないこともあり利便性を損なう場合もある。また「電子透かし」は情報漏えいが起きた後に犯人探しを行う事後対策のため,情報漏えいそのものは発生する。印刷を許しながら,なおかつ情報漏えいそのものを防ぐために,富士通研究所では印刷物を電子データのように暗号化し,パスワードを知る人のみが隠蔽(ぺい)された情報を閲覧することができる「紙の暗号化技術」を世界に先駆けて実現した。
本稿では,紙の暗号化技術の概要を紹介するとともに,本技術の用途や応用例などについて紹介する。

阿南 泰三, 倉木 健介, 高橋 潤

近年,バックモニタなど自動車へのカメラ搭載が進んでおり,車両周辺の死角を削減することでドライバの運転操作を支援している。このような背景のもと,著者らは四つの車載カメラ映像から死角のない全周囲映像を合成し,任意の視点から自車両周辺を確認できる全周囲立体モニタ技術を開発した。本技術は,富士通マイクロエレクトロニクス株式会社の車載向けグラフィクスSoC(MB86R01)と,四つのカメラ映像を同期しつつ多重化合成するFPGAを搭載した車載システム上に実装されており,入力映像を1フレームあたり30 ms以下で処理してドライバに表示できる性能を持つ。本技術により,駐車時,狭い道でのすれ違い,見通しの悪い交差点への進入や右左折など,様々なシーンでのドライバへの視覚支援が可能となる。
本稿では,全周囲立体モニタ技術,および車載システムへの実装について報告する。

清水 誠也, 河合 淳, 山田 浩

プレスリリース世界初! 車両全周囲の見たい所を見やすくリアルタイムで表示する映像処理技術を開発

少子高齢化社会による労働力不足が懸念されており,人が行っていた様々なサービス業務を代行するサービスロボットが求められている。このようなサービスロボットでは,不特定多数の人と共存してサービスを提供する必要があり,状況に合わせた効果的なサービス提供が重要となる。富士通研究所では,2005年にネットワークに接続し,情報提供や案内業務などのサービスを提供できるサービスロボットenonを開発した。本サービスロボットenonは,3次元視覚を使って自律移動が可能で,場所を変えたサービス提供ができる。展示施設での案内業務などを行うとともに,現在,多数の人が集まるショッピングセンタで試行運用を行い,効果的なサービスの見極めを行っている。
本稿では,サービスロボットenonが行ったショッピングセンタでの試行運用と結果,サービス提供のためのネットワーク仕様,3次元視覚処理技術とその処理結果を紹介する。

神田 真司, 岡林 桂樹, 沢崎 直之

情報システムを支える技術

グラフェンは層状物質グラファイト(黒鉛)の1層分のことで,炭素原子の六員環が連なって平面状になった理想的な2次元材料である。1層のグラフェンが発見されたのは最近のことで,同時に非常に優れた電気的・熱的性質を持つことが明らかとなった。そのためグラフェンは,将来のエレクトロニクス材料として注目されている。富士通研究所は第一原理計算と呼ばれる実験に依存するパラメタを用いない手法で,数層までのグラフェンの電界下の電子状態や金属電極との界面の電子状態を解明した。またそれに基づいてトランジスタ特性を予測するとともに,数層のグラフェンが,現在最も高周波応答に優れているInP-HEMTを超える魅力的な高速・高周波トランジスタチャネル材料となり得ることを示した。さらに実験的には,基板上へのグラフェンや,グラフェンとカーボンナノチューブの複合構造の合成に成功した。本稿では,グラフェンの応用を目指した,このような富士通研究所の理論的,実験的取組みについて紹介する。

佐藤 信太郎, 原田 直樹, 近藤 大雄, 大淵 真理

様々な「ものづくり」における設計問題など理工学・産業上の広範な問題は,制約解消や最適化問題として定式化される。それらを処理する技術は,現在のところ数値計算技術がベースとなっている。しかし,実用上重要な多くの問題が数値的計算法では取扱いが困難な非凸な問題となることが明らかになっている。そのため,非凸な問題にも有効な最適化手法の開発が望まれている。
本稿では,数式処理による最適化を用いた設計手法を紹介する。まず,非凸最適化の基本となる代数的な算法QE(Quantifier Elimination)を紹介し,つぎに,制御系設計への適用例により本手法の有効性を示す。さらに,実際のものづくりへの応用として,HDD設計における磁気ヘッドスライダ形状最適化への適用例を紹介する。

穴井 宏和, 金児 純司, 屋並 仁史, 岩根 秀直

米国富士通研究所(FLA)は,ParDDと呼ばれるプロジェクトのもとで,BDD(Binary Decision Diagram)によるブール関数処理技術の研究開発を長年にわたり行ってきた。FLAはこれまでに,ブール関数を分割してコンパクトに表現することで,超並列計算プラットフォーム上で大規模なブール関数を効率良く処理できる技術を開発した。この技術は,EDA(電子機器設計自動化)の分野において,様々な目的に応用されてきた。
近年,FLAは,このプロジェクトのもとで,新しいBDDライブラリ(NanoDD)を開発した。これは,BDDの個々のノードのデータ量が,BDDの全体の容量によってほぼ決まるというものである。このコンパクトなデータ構造により,BDDがこれまでほとんど適用されなかった分野への応用が可能となる。例えば,NanoDDを用いてコンパクトな転置インデックス(inverted index)を作成した。転置インデックスは,Webなどのデータベースにおける文書の索引化に用いられる行列である。また,Webクエリの満足度,インターネットルータの重要なコンポーネントであるアクセス制御リスト(ACL)をコンパクトに表現し,NanoDDの性能分析を行った。

Stergios Stergiou, Jawahar Jain

45 nm世代のCMOS LSIの高速化に向けて,2.25の低い比誘電率と弾性率10 GPaの高い機械的強度を持つポーラスLow-k材料,ナノクラスタリングシリカ(NCS)を開発し,配線層,ビア層にNCSを適用したCu/Full-NCS多層配線の形成技術を確立した。Cu/Full-NCS多層配線は,ワイヤボンディングや樹脂パッケージ工程においてもCu配線の破壊を生じない高い信頼性を示した。
本稿では,まず45 nm世代のCMOS LSI多層配線技術として,ポーラス系Low-k材料NCSを紹介し,つぎにLow-k材料をLSI多層配線に適用する際の課題を述べ,最後にNCSを適用した45 nm世代のCMOS LSIの配線性能および信頼性について述べる。

中田 義弘, 尾崎 史朗, 工藤 寛

プレスリリースLow-k多層配線の材料・プロセス技術を確立

プレスリリース45ナノメートル世代LSI向け多層配線技術を開発

プレスリリース45nm世代ロジックLSI向け低消費電力・高性能化技術を開発


---> English (Abstracts of Papers)