Skip to main content

Fujitsu

Japan

アーカイブ コンテンツ

注:このページはアーカイブ化さたコンテンツです。各論文の記載内容は、掲載開始時の最新情報です。

雑誌FUJITSU

2008-11月号 (VOL.59, NO.6)

富士通の最新技術を隔月に紹介する情報誌です。 冊子体の販売はしておりませんのでご了承下さい。


雑誌FUJITSU 2008-11

特集:「ヒューマンセンタード・デザイン」

ITシステムは,現在の社会において欠くことができない存在である一方,高度に発達し,非常に複雑なものになっています。富士通グループでは,ITシステムを利用する「人」に焦点を当てた設計「ヒューマンセンタード・デザイン(Human Centered Design:HCD)」に基づいた製品・サービスの開発に取り組んでいます。
本特集では,HCD推進のためのプロセスや組織改革,ガイドラインやツールの開発,製品事例の紹介などを紹介します。


経営執行役上席常務
村嶋 純一
経営執行役上席常務 村嶋 純一 写真

ヒューマンセンタード・デザイン特集に寄せて(PDF)

ITシステムを経営の要素として効果的にご活用いただくためには,ITシステムを活用する人,適用する業務や場において,最大限の効果を引き出すものでなくてはなりません。そのためには,利用する人を重視し,現場から課題を抽出し,改善を進めていかねばなりません。今以上,Human Centered Design(HCD)が重要な時代はないと確信します。
人間中心のHCDの取組みは,お客様現場のフィールドイノベーションや,お客様起点の経営につながることと確信しています。

特集:ヒューマンセンタード・デザイン 目次〕

動向と富士通の取組み

  • 富士通のヒューマンセンタード・デザインへの取組み
  • ヒューマンセンタード・デザイン標準化の枠組みと各地域の動向

視点・活動

  • ヒューマンセンタードビジネスプロセスマネジメント
  • サービスオリエンテッド・デザインプロセスの提案
  • 製品設計における感性品質の管理
  • フィールドワークを活用したSE匠の技の伝承
  • ミドルウェアにおけるヒューマンセンタード・デザインの取組み

調査・分析手法

  • お客様視点の質的デザイン
  • 富士通キッズサイトにおけるペルソナマーケティングの実践
  • ユーザー・エクスペリエンススケール指標
    —マグニチュード推定法を応用したユーザビリティの数値化—

製品・サービス事例

  • 携帯電話開発におけるヒューマンセンタード・デザインへの取組み
  • 医療分野におけるヒューマンセンタード・デザイン
  • Webアクセシビリティ向上に向けた取組み
  • 色判別アプリケーション"ColorAttendant"

特集:ヒューマンセンタード・デザイン


動向と富士通の取組み

日々の業務から,日常生活に至るまで,くまなくITが浸透し,ITはもはや欠くことができない存在になっている。また,様々な目的に対応するITはそれ自体,非常に複雑なものになっている。その一方で,日常不可欠になったITシステムは,様々な人が容易に利用できるように設計されていることが重要視されている。
このような状況で,良質なITシステムをお客様に提供し続けるためには,まず,ITシステムを利用する「人」に焦点を当てることが重要である。利用する人の思いや,現場での作業やコミュニケーション,機器や空間まで含め,人間中心に総合的に現場から課題を分析し,利用する人間の特性を意識してそれらを対象に総合的に最適化を図っていくことが必要と言える。本稿では,こうした富士通グループのHuman Centered Designの考え方と,現在進めている各種の活動を紹介する。

加藤 公敬, 岩崎 昭浩

Human Centered Design(HCD)の対象領域は非常に広範で体系的な理解が困難なため,標準化の様々な枠組みは目指すべき方向性の記述のみにとどまるか,その部分的概念で規定しているものが多かった。しかし,HCDをより上位の大きな枠組みで普遍的にとらえ,同時により具体的な評価の視点や試験項目を盛り込もうとする動きも出てきており,世界各地域においては実情に即した様々な取組みも多く見られる。また,国際規格化に向けた活動では,とくに日本の果たしてきた役割は大きく,今後も大きな期待が寄せられている。
本稿では,HCDの取組みを進めるに当たり,準拠すべき国内・国際規格,デファクトスタンダードあるいは法律による規制など,HCDに関連する枠組みを概観し,欧米およびアジアでの最近の動向を紹介する。

蔦谷 邦夫

視点・活動

人間のアクション(行動)とスキル(熟練度)を最も重要な要素と考えて,その上で,ビジネスプロセスを支援するためにIT機能を用いて補うというプロセスを開発する手段を提起する。この取組みは,容易には自動化で置き換えられない役割を人間が本質的に担う「ファシリテータプロセス」と同定されるビジネスプロセスに適している。

Keith Swenson, Jim Farris

現在,企業で行われているデザイン開発は,市場調査やユーザー調査などに基づいて行われている。しかし,ユーザーの消費意識は「モノ」から「こと」へと変わり,「新たなエクスペリエンス」に価値を求めるようになっており,従来のモノづくりではお客様の気持ちをとらえたデザイン開発が難しくなっている。
これから本格化するユビキタス時代における商品やサービスの開発では,未来の社会を見据え仕事や生活のあり方を創造し,人間生活に必要なサービスを考え,サービスを利用するお客様を描き,サービスとお客様に最も適したインタラクションを構想し,そのインタラクションを具現化するITシステムやプロダクトをデザインする「サービスオリエンテッドなデザイン開発」が重要になると考えている。本稿ではそのためのデザインプロセスと具体的なデザイン事例を紹介する。

上田 義弘

Human Centered Design(HCD)の考え方に基づき利用者の立場に立った満足度を徹底的に追求していくと,利用者の作業効率や操作ミスの頻度,処理速度,格納容量,設置・携帯性(大きさや重量),堅ろう性,電力消費量など客観的な計測評価が容易な要素だけではなく,感性的な満足度も向上させていくことが重要になってきている。感性を満足させる要素を感性品質と呼ぶ。
富士通では,心の働きのプロセスを六つの要素から成る概念モデルを採用して感性品質を定義している。こういった感性品質の重点項目を製品ごとに抽出した上で,チェックリスト化して,製品設計のプロセスに取り込む試行を行っている。
本稿では,富士通の感性品質の概念モデルとそれを活用した製品設計のプロセスにおける感性品質管理の取組みを紹介する。

浅輪 武生, 後藤 直子, 金澤 洋之

ベテランSEの技を伝承させる取組みは多様であるが,どれも決定打にはなり得ていない。そこには,情報が一般論としてしか取り込まれず受け手の腑(ふ)に落ちていないという根本的な問題がある。富士通のソーシャルサイエンスセンターが従来から取り組むフィールドワークには「人中心・事実起点」のアプローチに利点があり,この点に着目して開発した新たなメニュー「SE匠(たくみ)の技の伝承」は,人間系のふるまいに焦点を当てて技の実践をとらえていくHuman Centered Design(HCD)により,「技の可視化」,「技の体系化」,「技の共有」という三つのプロセスがある。2007年から実施するこの取組みは,技のリアルな可視化と,共同検討会における技の分析支援という仕掛けにより,従来のヒューマンスキル研修などでは実現されていない「現場業務のOff-JT」という課題に対する一つの解を示す。

岸本 孝治, 竹田 博之, 塩田 武志

富士通ソフトウェア事業本部UIセンターでは,2008年度のオープン系ミドルウェア製品がユニバーサルデザインであることを目標に,開発プロセスにUI設計/UI評価を組み込むよう取り組んでいる。
ミドルウェア製品のユニバーサルデザインでは,対象製品のユーザーを理解した上で,そのユーザーにとって,使いやすく分かりやすいかということを考慮して,機能設計を進めている。
具体的な取組みとしては,UIアーキテクトの育成,標準化とプロセス改革,専門家によるUI評価の実践という,三つの分野で進めている。また,UI品質の高い製品を提供し続けるためには,他社ベンチマーク,UI上の課題分析,ユーザー分析など,Human Centered Design(HCD)の手法に基づいて,操作性や機能を考える,きめ細かいUI設計/評価ができるUIアーキテクトの育成が最優先課題となっている。

小林 正, 宮本 博世, 小松 実智代

調査・分析手法

お客様視点に深く根差したビジネスソリューションを企画するために,富士通研究所は質的デザイン方法論エイム(AIm:Appreciative & Imaginative)インタビューを開発した。エイムは,個々の現場ユーザーの視点から見た組織の活動,問題意識,中心的価値観,中長期的方向性を俯瞰(ふかん)して視覚化し,ビジネスソリューションのコンセプトをデザインする。本方法論は,独自の戦略的フレームワークに基づいた四つの方法から構成される。それは質的データを収集する現状把握セッションおよび理想像把握セッション,振り返りワークショップ,そして質的データ分析である。フレームワークは,七つの枠で構成されている。それは現在の状況,価値観,エネルギー源,強み,理想像,ギャップ,そしてビジネスコンセプトである。本方法論は,人を中心とした有機的な関係性とミドルアップダウンの意思決定スタイルで成り立つ日本的組織のビジネスの文脈把握と本質追求に特に効果的である。

八木 龍平, 原田 博一, 石垣 一司

2007年12月,社会全体の子ども向けサイトにおける,ユニバーサルデザイン(UD)の普及・発展,良質なコンテンツ作成の促進を目指し,「富士通 キッズコンテンツ作成ハンドブック」を公開した。その中で,新たな取組みとして「ペルソナマーケティング」を実践している。
ペルソナは,ユーザーを「見える化」したものであり,ユーザー理解を容易にする。製品・サービスの開発工程のユーザー参加が可能であり,ユーザーの課題を明らかにし,満足させることが可能である。現在,ペルソナは,Human Centered Design(HCD)やマーケティングの分野で注目され,広く実践されている。
本稿では,「ペルソナマーケティング」の特色を述べ,富士通キッズサイトにおけるペルソナ作成プロセスとサイトレビューにおける活用,およびその効果について紹介する。

久鍋 裕美

従来のユーザビリティ評価手法は,問題点の改善を主目的とした課題発見型の評価法が多く,開発プロセスにおける評価での利用に限定されていた。また,対象製品のユーザビリティ全体を定量的にとらえる効果的な手法が存在しないため,結果の全容については疑問が残っていた。精神物理学のマグニチュード推定法を応用したMagnitude Usability(MU)は,上記の問題を解決するのに非常にたけた手法である。富士通デザイン(株)では,この手法を活用し様々なHuman Centered Design(HCD)プロセスのシーンで利用できるユーザー・エクスペリエンス(UX)スケール指標の開発を試みた。非専門家でも分かりやすく,製品開発の様々な場面で課題発見や方針決定に有効活用できるものである。

宇多村 志伸, 村瀬 周子, 濱谷 幸代, 永野 行記

製品・サービス事例

富士通では,携帯電話のユーザビリティ改善のために,Human Centered Design(HCD)の考えに基づき,調査工程,開発工程,評価工程,人材強化の4点から包括的に取り組んでいる。調査工程では第三者調査やペルソナ策定など,評価工程ではユーザーテストやヒューリスティック評価など,人材強化では講習会などを開催している。開発工程では,既存のWeb版のシナリオウォークスルー法を携帯電話向けに強化して,設計段階でユーザビリティの非専門家でも適用できる体制を確立した。また,開発者向けにユーザビリティ上の課題を事例集としてまとめたユーザビリティ辞書を作成した。これらの取組みにより,継続的に実施可能なHCD設計プロセスを確立し,製品のユーザビリティを改善することができた。本稿では,各工程での取組みの概要を説明するとともに,具体的な改善事例について紹介する。

谷村 壮, 金澤 昌信, 須藤 拓磨

Human Centered Design(HCD)の一要因であるヒューマンエラーの視点から,富士通のオーダリング/電子カルテシステムHOPE/EGMAIN-FXおよびGXにおける取組みを紹介する。
主にデザインの統一,操作性の統一,操作性の向上の三つのポイントを改善することによって,使いやすく,分かりやすく,親しみやすく,快適なデザインを目指した。この取組みにより,今日のオーダリング/電子カルテシステムの礎となった開発過渡期を経た製品が再整理され,ヒトに優しいシステムへと進化した。
今回の取組みでは,電子カルテ開発部門と総合デザインセンターが最初の協業を行ってユーザーインタフェース(UI)改善を図り,さらに,開発や医療の現場の声,業務の特殊性を反映しつつデザイン開発を推進することで,UIの重要性を再認識する結果となった。

安藤 慶祥, 中野 直樹, 遠山 夏子

インターネットの普及に伴い,Web利用者の人数や多様性は大きくなり,電子申請などWebの役割も重要になった。これを受け,官公庁・自治体も,障害者基本法に基づくu-Japan構想やIT新改革戦略などの政策方針や「みんなの公共サイト運用モデル」など取組みモデルの整備などにより,高齢者や障がい者をはじめ,より多くの人が利用可能なWebの構築を実施するようになった。このような社会動向に対し,富士通でも,2002年に富士通ウェブ・アクセシビリティ指針を策定して以来,診断ツールの無償配布や販売,支援ツールの販売などを行ってきた。
2008年度後半には,実質的な国際標準規格とも言えるWeb Content Accessibility Guidelineが改版され,これに該当する日本工業規格JIS X 8341-3も2009年に改版が予定されている。ここで,改めて,富士通のこれまでのWebアクセシビリティ向上に向けた取組みを,JIS Z 8530の人間中心設計プロセスの観点から整理し,今後の課題と活動の方向性を論じる。

永野 行記, 杉妻 謙, 吉本 浩二, 土屋 由美

近年の携帯電話の普及と,公共空間などにおける色覚障がい者への配慮や,日常生活での色の見分けやすさへのニーズなどを背景として,富士通では携帯電話を利用した色判別を支援するアプリケーション"ColorAttendant"を開発した。開発においてはHuman Centered Design(HCD)のプロセスを実践し,ユーザーヒアリングなどにより日常生活における困難や工夫点を理解し,コンセプトや各種機能を決定した。さらに,障がい者・色彩の専門家による評価を実施し,色合いや色判別機能の調整およびユーザビリティの改善を行った。その結果,手軽で簡単な操作で色判別の困難を解消するだけでなく,色の名前を発見できる楽しさも体験できるアプリケーションをリリースすることができた。本稿では,HCDプロセスに基づいたColorAttendantの特徴と改善について紹介する。

吉本 浩二, 近藤 真太郎, 土屋 由美


---> English (Abstracts of Papers)