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渋沢栄一が学んだ『論語』

孔子式人物鑑定法

歴史的企業家、渋沢栄一さんの座右の書は「論語」だったという。君子の道、道徳を説く「論語」の何が渋沢さんの経営の助けになったのか。氏の著書「論語の読み方」を読み解きながら紹介したい。

「孔子は、広く民に施して大衆を救う者ならば、これは仁以上の仁で、聖人と称すべきだといっている。広く民に施そうとすれば財産がなければならず、大衆を救おうとすればこれまた資本が必要だ。何事をするにも先立つものはやはり金銭である。いかに民に施し大衆を救おうとしても富がなければその希望を達し得ない。ない袖は振れない。今日の文明政治を行うには、ますます富の必要があるのである。算盤をとって富を図るのはけっして悪いことではないが、算盤の基礎を仁義の上においていなければいけない。私は明治六年に役人を辞めて、民間で実業に従事してから50年、この信念はいささかも変わらない。あたかもマホメットが片手に剣、片手に経典を振りかざして世界に臨んだように、片手に『論語』、片手に算盤を振りかざして今日に及んでいる」

渋沢さんは、経済と道徳は両立するという。ところが、ここ十年近く、日本では『算盤』のほうが優先されすぎたのではないだろうか。

企業経営においては、経済合理性がなにより優先されるべきだと思う。しかし、どんなにいいことでも行き過ぎれば弊害が出てくるものだ。

経済合理性優先の社会では、アウトプットの多い人間が高く評価され、ただひたすら真面目に働く人たちの評価は低い。結果として、現場の人たちが疲弊してしまうのだ。

今に生きる経営者の皆さんには、両手に『算盤』ではなく、片手には『論語』を持って経営に取り組んで頂きたいと思う。

人の道、道徳を説く『論語』だが、経営に資する教えも多々ある。片手に論語を持って経営に臨んだ渋沢さんは、とりわけ孔子の人物鑑定法が役に立ったという。

「子曰く、その以(な)す所を視、その由る所を観、その安んずる所を察すれば、人いずくんぞかくさんや。人いずくんぞかくさんや」(為政篇)

孔子は、人を評価するに際しては、まず、その人の外面に現れた行為の善悪正邪を視るといい、次に、その人の行為の動機は何であるかをとくと観きわめ、最後には、その人の行為の落ち行くところはどこか、その人は何に満足して生きているかを察知するようにすれば、必ず、その人の真の性格が見えてくると指摘する。

人物鑑定が、経営者にとって一番難しいことだと考えていた渋沢さんは、この孔子式三段階人物鑑定法が大いに参考になったという。

孔子の、「視、観、察」の三段階のモノの見方は、経営者が変化対応能力を身につける上でも参考になる。

対象物をただ単に視るだけでなく、そこに普段との違いがないかと観、違いがあれば、なぜなのかと察知するようにする。察知した後に、さらに想像力を働かせれば、変化が予見できるようになるのだ。

経営者に求められる資質のひとつに「先見力」があるが、それは、「観察力」と「想像力」があって生まれてくるものだと理解すればいいだろう。

経営者にお勧めしたいのは、自社の社員を日常的に、「視、観、察」することだ。

日本のサラリーマンで意欲的に仕事に取り組んでいるのは2%に過ぎないとの調査データがある。少なくとも、入社直後には意欲を見せていた社員が、なぜ、かくもやる気を無くしてしまうのか。本人に問題があるケースは意外に少ないのだ。

上司の何気ない一言でやる気を無くすケースもあれば、持てる能力と与えられた仕事のミスマッチでやる気を無くすケースもあるだろう。いずれにしても大事なのは、社員の言動を見ていて、なにか変化が出てくれば、早い時点で察して手を打つことだ。やる気のない社員を放置すること以上のムダはないのだから……。

著者プロフィール

疋田 文明(ひきた ふみあき)
有限会社 ABO
経営コンサルタント・元気塾主宰
日本交通公社(JTB)勤務後、中小企業経営者を対象とした各種セミナーの企画・運営会社等々を経て、1979年に竹村健一未来経営研究会を企画設立し事務局長に就任。1986年に竹村健一氏のもとから独立。現在、フリーランスのライターとして活躍中。
http://www.hikita10.jp

[2007年11月8日 掲載]

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