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下請けの成功に満足せずに成長を続ける由利工業グループ
積層セラミックチップコンデンサで世界で有数の生産能力
電気製品、電子回路に欠かすことのできない積層セラミックチップコンデンサ(民生用)で有数の生産能力を持つ由利工業(秋田県由利本庄市)の経営は本当に示唆に富んでいる。TDKの協力企業として昭和30年に創業された由利工業は、いまでは、国内8社、海外1社をようし、全体の社員数は1400人を数え、年商は460億円を超えるまでになった。須田精一社長の声を紹介しながら、その秘密に迫ってみたい。
須田さんが社長になった頃の由利工業は、TDKのコンデンサを受注生産していたものの、規模的には町工場にすぎなかった。仕事は安定せず、従業員も定着しないような状態が続いていた。しかし、須田社長の心には期するものがあった。「TDKの下請けに徹し、下請けのナンバーワンを目指す」と力強く宣言したと聞く。
TDKからは貪欲に技術を吸収し、コンデンサが、円筒型セラミックから円板型へ、さらには積層セラミックチップへと進化するのに合わせて、由利工業は対応できるべく設備、陣容を整えていった。
コンデンサが使用される電子機器は、浮き沈みの激しい世界で、技術の進化は日進月歩どころではなく、秒進分歩だといわれる。それだけに、下請企業として、一定レベルの成功を手にしたとしても、自らが変化に対応し進化できなければ切り捨てられていってしまう。
世界的レベルで生存競争を強いられている日本の大手メーカーの、品質、価格、リードタイムの短縮等々での下請企業に対する要求は、TDKに限らずエスカレートするばかり。しかし、そうした要求に愚直なまでに応え続けてきたことで、由利工業の技術力が高度化し、結果として成長することができたのだ。ただ、TDKの要望に応え続けることだけでは今日の企業グループを形成することはできなかった。下請けとしての成功に満足しなかったところに須田社長の経営の素晴らしさがあるのだ。
TDK以外の企業からの依頼もくるが、「TDKの下請けに徹する」と宣言しているだけに、安易に引き受けるわけにもいかない。しかし、TDK一社の仕事に限定していたのでは、自ずと成長に限界はある。由利工業がいかに素晴らしい協力工場とは言っても、TDKとしては、リスク管理の面からも一社に仕事を集中することはできない。そこで取った策が、分社化だったのだが、そこにも須田社長ならではの想いが貫かれていた。
須田社長が、1981年に秋田県横手市に設立した横手精工は、東芝の協力工場として立ち上げた会社だが、TDKとバッティングする仕事ではなかった。それどころか、TDKの電子部品を横手精工で買うことになり、有難い存在だったと聞く。
「その頃の東芝さんは、ベータを作っていてビデオで立ち遅れていたのです。VHSをつくらないといけなかったのですが、場所もなく受け手を探していたのです。タイミングが実に良かった。最初は基盤実装だけをやらないかという話だったのですが、やるんだったら完成品までをと…。東芝さんから、人ももらったし、教育もしてもらいました。資本金も、臆面もなく人様にもお願いしました。自分のお金、自分の器、能力でやるのは家業で、人のお金、人の器、人の能力をつかってやるのが企業、事業ではないでしょうか」
その後は、プリント基盤実装から製品組み立てまでの一貫生産、機械装置組み立て等にまで事業領域を広げ、最近では『医用電子血圧計』等々の機器の製造を手掛けるまでになっている。由利工業の機械部門が独立して設立された秋田精工は、シリコンウェハの研磨装置にまで事業領域を広げ、今年の1月には20億円の投資で天井6メートルのクリーンルームを持つ新工場が完成し、半導体関連の事業も拡大するばかりなのだ。
本連載でも紹介したパトライトのように、下請け時代に培った技術力を武器に、自社製品に切り替えて飛躍した企業は少なからずある。しかし、由利工業グループの戦略は、それらの企業とは違って、いまなお、TDKの下請企業ナンバーワンを目標に定めながら、一方でTDKに頼らない世界で新しい事業基盤を開拓し、強い企業グループを構築してきた。ここに須田社長の経営の真髄があると筆者は理解している。
著者プロフィール
疋田 文明(ひきた ふみあき)
有限会社 ABO
経営コンサルタント・元気塾主宰- 日本交通公社(JTB)勤務後、中小企業経営者を対象とした各種セミナーの企画・運営会社等々を経て、1979年に竹村健一未来経営研究会を企画設立し事務局長に就任。1986年に竹村健一氏のもとから独立。現在、フリーランスのライターとして活躍中。
http://www.hikita10.jp
[2007年5月10日 掲載]
- 第119回 『加賀屋』(和倉温泉)、27年連続日本一の秘密に迫る
- 第120回 下請けの成功に満足せずに成長を続ける由利工業グループ
- 第121回 「想像力」を磨いて「変化対応能力」を身につける
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