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「小さな巨人」――南武の経営に学ぶ

職場環境の改善で町工場を優良企業に

筆者の持論は、「21世紀は中小企業の時代」というものだが、今回は、この説を裏付けてくれる企業を紹介したいと思う。東京都大田区蒲田に本社と主力工場を持つ南武ほど、「小さな巨人」という形容が似合う企業はない。社員は約100名で年商は18億6千万円と中小企業そのものだが、申告所得は2億2千万円で、主力商品であるダイカスト鋳造金型用中子抜き油圧シリンダのシェアは80%を超えている。南武の強さの秘密はどこにあるのか……。

いまでこそ、「小さな巨人」形容される南武も、順風満帆な歩みをしてきたわけではない。今回話を伺った野村和史さんが、二代目社長に就任した頃は、多くの問題を抱えていた。

1941年、現社長の父親三郎さんによって創業された南武は、55年から、油圧シリンダを手掛けるようになり、町工場としては順調に業績を伸ばしていた。野村社長は、大学卒業後の58年に同社に入社したのだが、63年に社屋が全焼、休業を余儀なくされたのだ。

父親の事業は二年後に見事再スタートを切ったが、休業を期に、英国系の商社に転職していた野村社長は戻らなかった。商社マンとしてビジネスと生活を謳歌していた野村社長が南武に戻ったのは、1984年のことだ。

「当時、社員25人ぐらいの規模でしたが、後継者がいませんでした。後継者のいない小企業は、お得意先からも金融機関からも信頼されなくて、社会的に成立しないんですよ。そこで、親父が『お前の給料は保証してやるから戻って来い』と――。ところが、給料は安いし、月月火水木金金で、土、日も休めない、3Kそのものの職場ですよ。若い人が入っても2,3日で辞めてしまう。先代は、根っからの職人気質。『いいものさえ作っていれば他社に負けない』というのが信条で、実際にその通りにやっていましたから、技術力はありましたよ」

そんな状況の中で復帰した野村社長が取り組んだのは、職場環境の改善よみだった。いくら技術力に優れていても、その技術を承継する若い人たちがいないと企業の継続が覚束なくなってくる。若い人たちが、すぐに辞めるのは、環境のせいだとすれば、これを改善するしかないと、野村社長は考えたのだ。

工場では、整理、整頓、清掃、清潔、しつけの5Sを徹底、レイアウトにも工夫を凝らして、安全性と作業効率を高め、明るい雰囲気になるように照明器具も変え、エアコンや有線放送も導入して、とにもかくにも3Kからの脱皮を図った。

南武の場合、長時間労働ばかりでなく、低賃金も是正され、経営が見事なまでにディスクローズされている。

「毎日、商品出荷に基づいた『売上日報』と営業状況をレポートした『営業日報』がでてき、毎月、試算表が出てきます。やはり気になるので、私のところに一番に持って来させますが、情報はすべてオープンにしています。いくら利益が出たかは、隠そうと思ってもできません。非上場でも、ダイヤモンド社なんかが申告所得を公表しますからね」

ベースアップにしても中小企業にしては群を抜いた処遇だ。

「一定レベル以上の利益が出れば、夏、冬のボーナス以外に、9月末には決算賞与を出すようにしています。ベースアップは、ときの成長産業、今なら自動車、製鉄に準じるようにしていますから、これも去年よりはよくなりますよ」

野村さんが社長に就任した時点での南武は、技術力はあったが、それを活かせてなかった。南武に限らず、大田区の町工場の多くは、それぞれの分野で誇るべき技術を持っていたはずだ。ところが、そのほとんどが古い体質から脱皮できずに衰退してしまったのだが、野村社長は違った。商社で培った経営センスで町工場を様変わりさせてしまったのだ。

一般的には、まず仕事を確保することが優先されるが、先代が築き上げた技術力のお蔭で、南武の場合には、その必要がなかった。野村社長が、躊躇なく、まず職場環境の改善を取り組めたことが結果的には「小さな巨人」への道につながったと考えたい。

著者プロフィール

疋田 文明(ひきた ふみあき)
有限会社 ABO
経営コンサルタント・元気塾主宰
日本交通公社(JTB)勤務後、中小企業経営者を対象とした各種セミナーの企画・運営会社等々を経て、1979年に竹村健一未来経営研究会を企画設立し事務局長に就任。1986年に竹村健一氏のもとから独立。現在、フリーランスのライターとして活躍中。
http://www.hikita10.jp

[2006年7月13日 掲載]

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