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製造業の知恵を小売業に、小売業の知恵を製造業に
~ウォルマートはデミングに学び、トヨタ生産方式はスーパーに学ぶ~
筆者は、ここ20数年、小売業、製造業、サービス業を問わず、実に様々な企業を取材してきた。その中で漠然と考えてきたことがある。それは、成功している小売業は、意図しているかどうかは別にして、例外なく製造業の知恵を取りこみ、成功している製造業は、小売業の知恵を取り込んでいることである。その代表例を、ウォルマートとトヨタ自動車で検証する。
ウォルマートの創業者、サム・ウォルトンはその著書、「私のウォルマート商法」の中で、次のような記述をしている。
「会社が成長するにつれ、責任と権限を現場の最前線、つまり、陳列棚に商品を並べ、お客と実際に言葉を交わす売場主任へ移すことがますます重要になってくる。会社が小さい頃は、私はそのことに思い至らなかった。だが、1970年代中ごろ、日本人に生産性と競争について教えたW・エドワーズ・デミングの著作を読み始め、経営哲学を熱心に学んだ。また、ヘレンと一緒に日本と韓国に旅行して実際に視察もしてきた。わが社のチームワークを見なおし、現場にもっと権限を持たせる実際的方法を考え始めたのは、その頃のことだったと思う」
一方、トヨタ生産方式の生みの親、大野耐一(元副社長)さんは、その著書、「トヨタ生産方式」で次のような記述をしている。
「実は『かんばん方式』はアメリカのスーパーマーケットからヒントを得たのである。――略――私は昭和31年にアメリカに行き、GMやフォード、その他機械会社の生産現場を見学した。そのとき、アメリカでいちばん強い印象を受けたのはスーパーマーケットの普及がいかに著しいかであった。私には特別な理由もあったのだ。すでに昭和20年代の後半から、トヨタ自工内で私が担当していた機械工場では、アメリカのスーパーマーケットの研究をし、実地に応用を始めていたからである。
自動車とスーパーマーケットの取り合わせ――。妙に映るかもしれないが、早くからアメリカのスーパーマーケットの仕組みを人づてに聞くにつれ、これは私どもの考えている『ジャスト・イン・タイム』に結びつくものではないかと、想像をたくましくしていたのである。スーパーマーケットというのは、顧客にとって、必要とする品物を、必要なときに、必要な量だけ入手できる店である。――略――スーパーマーケットから得られたヒントとは、スーパーマーケットを生産ラインにおける前工程とみてはどうかということであった」
世界一の小売業者の創業者が、製造業に学んだといい、世界に冠たるトヨタ生産方式の生みの親が、スーパーマーケットに学んだという。この二冊の本に出会うことで、筆者の漠たる思いが実証されたと思っている。
ウォルマートがデミングから学んだことは大きくはふたつある。ひとつは、先の記述に見られるように、現場に権限をもたせることだが、この考えを、サム・ウォルトンは、どのようにアレンジしたのだろうか。ウォルマートにおける現場は、いうまでもなく店舗だ。この店舗の売場を細分化して、店の中の店と位置付け、各売場の責任者に、権限と責任を与えたのである。先のウォルマートの著書には、「小さく考えろ」とのサブタイトルがついているが、この発想が生まれたのは、デミングの本を読んでのことだというのだ。
いまひとつ、サム・ウォルトンがデミングから学んだことは、「根本を正しく」ということだった。小売業の場合、社内に問題が起こると、その場しのぎで対症療法するケースが多かった。ウォルマートの場合には、問題を修復するために、新たな役職を付け加えることが多かったという。これでは、組織が肥大化するばかりで、本当の意味での問題解決はできていない。デミングを学んでからのウォルマートは、「問題の根源」にまで遡ることで、企業の体質を強くしてきたというのだ。
大野さんが、スーパーマーケットから学んだことについては、先の記述から十分ご理解いただけるだろう。
著者プロフィール
疋田 文明(ひきた ふみあき)
有限会社 ABO
経営コンサルタント・元気塾主宰- 日本交通公社(JTB)勤務後、中小企業経営者を対象とした各種セミナーの企画・運営会社等々を経て、1979年に竹村健一未来経営研究会を企画設立し事務局長に就任。1986年に竹村健一氏のもとから独立。現在、フリーランスのライターとして活躍中。
http://www.hikita10.jp
[2004年 掲載]
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