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日本国内メーカーの勝ち組、島精機製作所の経営 --その2

~「産業革命的」と評価されるホールガーメント~

本連載の57回、58回で、和歌山県の島精機製作所を紹介した。その後ちょうど1年が経過したが、同社の経営は、年商363億円で経常利益54億円と相変わらず順調だ。同社の創業者で、今も社長を務める島正博社長に、改めて話を伺う機会があった。そこで、前回に引き続いて、島社長の声を交えながら、同社の経営を紹介したい。

島精機製作所が、次々と新機種を開発し続けることで躍進していることは前回書いた。全ての機械が「世界で初めて」と評価されるものだが、特筆すべきは、1995年に、ホールガーメントの名称で世に問われた「無縫製型コンピュータ横編み機」だ。ヨーロッパに初お目見えしたときには、「産業革命的」とまで評価されたと聞く。これは、一切縫うことなく、糸から一気に三次元のニット製品を作り上げるという機械なのだが、素人目には、縫製工程を省いただけの機械のように見えるが、その効果のほどは、驚くほどに大きい。

従来、ニット製品製作の過程では、生地をカットしてデザインを合わせるという作業が必要だった。この段階で、平均で3分の一のカットロスがでるという。例えば、300グラムのセーターを編むのに450グラムの糸が必要で、150グラムを捨てていた。省資源が叫ばれる時代に、これほど無駄なことはないし、なによりもコストアップの要因になっていた。この問題が、「ホールガーメント」では、一気に解消されるというわけだ。裏地に縫い代がないからリバーシブルにもでき、縫い代がない分軽くもなる。まさに、「産業革命的」な機械なのだ。

しかし、島社長にとっては、以上のようなメリットは、それほど大きいものではなかった。島社長には、もっと大きな狙いがあった。「ホールガーメント」には、日本のニット業界をなんとか復活させたいとの熱い思いが、込められているというのだ。

「繊維産業は、典型的な労働集約型で、どうしても人件費などのコストの安い国に、生産拠点がシフトしていきます。一時期は、日本で消費される繊維製品のうち、国産品の占める比率は3パーセント台にまで落ち込みました。私は、少なくとも国産比率を20%ぐらいの水準にまで戻せないかと考え、それを具現化するために『ホールガーメント』を開発したのです。この機械の説明をすると、『無縫製だから減量のロスが出ないでしょう、縫い賃がいらないでしょう、安くできますね』と百人中百人がいうわけです。たしかにその通りなんですが、私の狙いはそうしたことだけではないのです。『ホールガーメント』なら、コンピュータグラフィックスでデザインをおこして、糸をセットして機械を動かせば、シンプルなベストだったら20分、ちょっとあらいセーターで30分、目の細かいドレスのようなものでも100分でできあがります。日本でも中国でも、コスト面では大差なく、生産できるということです」

この「ホールガーメント」の場合には、重要になるのが、デザイン力であり、企画力であって、ローコストで生産する能力ではない。島精機がいくら進化させたとはいえ、従来の横編み機を使っての繊維産業は労働集約型に分類される。それだけに、中国等々の生産地が主流となり得たのだ。ところが、デザイン力や企画力が何より問われる「ホールガーメント」を活用すれば、知識集約型となれるのである。知識集約型となれば、日本にも出番があるということだ。

島社長は、「ホールガーメントなら、小ロットで、消費地で生産することができるのです」ともいうが、これの意味するところは実に大きい。流行性が高く、ニーズが多様化するばかりのファッションの世界では、売れ筋を見ながら、迅速に対応することが肝要になってくる。こんな特性を持つ事業では、「消費地で生産する」ことが、大きな武器になるということだ。

島精機本社ビル一階のエントランスホールには、芸術作品がいくつか展示してある。とりわけ、筆者の目を引いたのが、ロダンの「考える人」だった。なぜ、「考える人」なのかと、島社長に聞いてみた。

「我々の機械は創造性がないと開発できません。創造性を象徴するものとして、『考える人』を置いてあるのですが、となりに飾ってあるイタリアの彫刻家ボッテーロの『ラージハンド』という作品も是非見て下さい。モノづくりの世界では、ただ長い間考えるだけで行動しないというのはいけません。人間には、考える頭と行動するハンドが必要なのです。このふたつが、魅力有るものづくり、商品づくりにつながっているのです」

創造性と行動力が、島精機の強い企業体質を築き上げてきたと考えれば間違いないだろう。

著者プロフィール

疋田 文明(ひきた ふみあき)
有限会社 ABO
経営コンサルタント・元気塾主宰
日本交通公社(JTB)勤務後、中小企業経営者を対象とした各種セミナーの企画・運営会社等々を経て、1979年に竹村健一未来経営研究会を企画設立し事務局長に就任。1986年に竹村健一氏のもとから独立。現在、フリーランスのライターとして活躍中。
http://www.hikita10.jp

[2003年6月6日 掲載]

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