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「第1回ポーター賞」受賞企業・マブチモーターの経営戦略に学ぶ -- その2
~1本の錐は剣山よりも強い~
マブチモーターは、標準化による少品種大量生産にこだわり続けることで生産コストを下げ、競争優位性を持つようになったことは前回に書いた。しかし、マブチは生産コストを下げることばかりに執着していたわけではない。一方で、小型直流モーターにこだわり続けることで好業績企業になり得た。ここにもマブチ独自の経営戦略が見て取れる。
マブチモーターが生産しているのは、磁石を活用した小型直流モーターに限られている。電子回路を活用した高価で精密な小型モーターは生産していない。昭和48年創業の日本電産は、小型精密モーターの生産メーカーとして急成長を遂げた。ところがマブチは小型精密モーターには見向きもしなかった。その理由を馬渕社長は次のように説明する。
「ユーザーから、他のメーカーにはいろいろな機種があるよといわれたら、営業はそうした声に応えたくなるものです。しかし、モーターと名のつくものは何でもありますよ、というような品揃えをしていると、経営資源が分散してしまいます。当社に経営資源がいっぱいあって、他にやることは無いかなという状態だったら、小型精密モーターにも手を出したと思います。ところが、小型直流モーターで不満なところがたくさんあった。たとえば、テープレコーダのような商品は時代とともにコンパクトになってきている。当然モーターもより小さくしないといけなくなってきます。さらには、寿命を長くしたい、もっと高性能でもっと安くというふうに改善する余地をうーんと残しているのに脇見をしちゃいかんでしょうね」
マブチは、柱が小型直流モーター一本だけに経営基盤が弱いとの指摘もあるが、脇見をしなかった結果として、マーケットが広がり好業績を生み出す企業体質を作り上げたのだ。
「自らの本業(小型直流モーター)に徹してどんどん企業努力をしていくと価格の領域でとれなかったものがとれるようになる。あるいは技術的に壁のあったものが壁がとれてマブチのモーターで用が足りるようにもなってきます。従来、自動車のドアロックには電磁ロックが使われていてロックがかかるときにはガチャッと音がしました。ところがマブチのモーターなら安くて音が静かということで車のドアロックにも使われるようになりました」
マブチは小型直流モーターひと筋だが、上記のような戦略をとった結果、用途を実に見事なまでに広げてきた。マブチは、教材用のモーターからスタートし、玩具用、家電製品、自動車電装部品へとユーザーは広がるばかりだ。ちなみに、自動車には、バックミラー、ウインドー、前出のドアロック等々で70個程度のマブチのモーターが使われている。それだけに、柱が一本だから経営基盤が弱いとの指摘はあてはまらないといえる。
筆者は、これからの企業は、徹底的に的を絞り込んだところで優位性を持つことが何より肝要になってくる、との持論を持っているが、この考えの裏づけになっているのが、マブチの経営戦略なのだ。
「一本の錐のうえだとちょっと乗っただけでも刺さってしまいます。しかし、剣山の上は、ちょっと痛そうだけれども歩けます。密度の多いほど痛くは無いのです。マブチは一本の錐のように、小型直流モーターに特化して深く入っていって極めたから勝てたのではないでしょうか。営業が望むままに、あれもこれもと品揃えしていけば、競争力の無い特長の無い企業になってしまいます」
この馬渕社長の言葉に学ぶべき点は多いにあると思う。本業に徹して企業努力することの重要性に、経営者は今一度思いを馳せて欲しいものだ。
著者プロフィール
疋田 文明(ひきた ふみあき)
有限会社 ABO
経営コンサルタント・元気塾主宰- 日本交通公社(JTB)勤務後、中小企業経営者を対象とした各種セミナーの企画・運営会社等々を経て、1979年に竹村健一未来経営研究会を企画設立し事務局長に就任。1986年に竹村健一氏のもとから独立。現在、フリーランスのライターとして活躍中。
http://www.hikita10.jp
[2002年5月15日 掲載]
- 第55回 「第1回ポーター賞」受賞企業・マブチモーターの経営戦略に学ぶ --その1
- 第56回 「第1回ポーター賞」受賞企業・マブチモーターの経営戦略に学ぶ --その2
- 第57回 「世界にない機械をつくる」―島精機製作所の経営に学ぶ --その1
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