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メガネの「三城」を躍進させた「本物の顧客本位経営」

~カスタマーリレーションシップマネジメントの原点を三城に見る~

「プロダクト・アウト」から「カスタマー・イン」へ。こんな時代にはなにより大切なのが顧客と企業のリレーションシップだ。そこでCRMの登場となるのだが、筆者にはテクニック論ばかりが先行しているように思えてならない。CRMを実践するに際してなにが大事なのかを、「三城」の中興の祖、多根裕詞さんの考えに学びたい。

取材で経営者に、「御社の経営におけるモットーはなんですか」と聞くと、「顧客中心」「顧客本位」といった言葉が多く返ってくる。そんなとき筆者は、「では具体的にどのような取り組みをやっておられますか」と続けて質問するのだが、納得できる答えが返ってくることは極めて数少ない。その数少ない経営者の一人に、メガネの『三城』の多根裕詞さんがいる。

昨年社長を退いた多根さんが、親父さんから継いだのは兵庫県姫路市の商店街にある小さなお店一つだった。それがいまでは、海外6店舗を含めて900店舗を超え、年商800億円弱で経常利益150億円を上げるまでに成長した。この不況の中にありながら、過去最高の利益を出している。

これだけの企業を育て上げた多根さんに、10年も前にインタビューし、「経営理念は」と聞いたことがある。そのときの答えが、「顧客本位」だった。「では具体的に」と問いかけると、次の様な答えが返ってきた。

「各店では利益を考えなくてもいいようになっています。店はお客さんのことだけを考えてやったらいいんです。原価がいくらで、売ったらいくら儲かるかなんてことは考えなくていいんです。考えるからお客さんに怪しまれる。みんな見る目がありますよ。うちの店長は原価がいくらか知りませんよ。売値よりもその人に合うかどうかを考えて商売する。そんなことは当り前なんです。顧客本位だといいながら、数字で締めつけたりすると空中分解しますよ。いくら儲かるかを考えるよりも、お客さんがなにを望んでおられるかを考えるほうが大切なんです」

店舗には売上目標もなく、数字の責任はすべて本社が負うシステムになっているとも聞いた。多根さんは、「このやり方をほかの経営者がどう考えるかはわかりませんがと」と前置きした上で、次の様に続けた。

「顧客本位ということを商売のテクニックでつかっている企業が多いようですが、うちは違います。本物でやっています。テクニックか本物かはお客さんが一番よくわかりますよ。心からというのがないとダメです。これは海外でも同じことで論を待たない」

最近、経営の世界では、まず顧客ありきのカスタマー リレーションシップ マネジメント(CRM)の必要性がさかんにいわれる。たしかにその通りなのだが、言葉ばかりが先行しているように思える。三城のように、「顧客本位」と、胸をはって言えるだけの具体的な取り組みがないと、顧客の支持は得られないということだ。

「顧客本位」が、これからの企業経営で重要なことはいうまでもないが、問題は、言葉通りの経営ができるかどうかだ。多根さんが指摘するようにテクニックだけで終わっていてはいけない。具体的になにをやるかが問われているのだ。 多根さんに、「お客さんがなにを望んでいるか」は、どうすればわかるのでしょうかとも聞いたのだが、その答えも紹介しておこう。

「それは、自分が客の立場に立てばわかることでしょう。日本人は自分が主役だったら、いつまでも主役だと思っている。僕はメガネを提供する時以外は消費者です。ですから自分が消費者の時に勉強するんです。脇役の目を持てない人は主役ができません。今の日本は主役になりたい人ばかりだから、うちの会社がいけているんじゃないかな・・・」

10年近くも前に聞いた話だが、いまも充分に通用する考えだ。IT以前も「顧客本位」はいわれてきた。それが、ITの進化によって、だれもがCRMを実践できるようになってきた。しかし、多根さんが指摘したように、いまもテクニック論ばかりが先行しているように思える。本物のCRMを実践するのなら、そのベースに多根さん的な考えが必要だと指摘しておきたい。

著者プロフィール

疋田 文明(ひきた ふみあき)
有限会社 ABO
経営コンサルタント・元気塾主宰
日本交通公社(JTB)勤務後、中小企業経営者を対象とした各種セミナーの企画・運営会社等々を経て、1979年に竹村健一未来経営研究会を企画設立し事務局長に就任。1986年に竹村健一氏のもとから独立。現在、フリーランスのライターとして活躍中。
http://www.hikita10.jp

[2001年12月7日 掲載]

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