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日本マクドナルドの「知られざる経営」その2

~アルバイトの笑顔はマニュアルからは出てこない~

日本マクドナルドの店では、「いらっしゃいませ」から始まって「こちらでお召し上がりですか、お持ち帰りですか」に至るまで、どこへ行っても同じ対応をされる。これはマニュアル教育のなせる技なのだが、こうした姿だけを見ていると、同社の本質を見逃してしまう。マクドナルドは、マニュアルでアルバイトを育てているわけではないのだ。

日本マクドナルドでは、現在6000人の社員と13万人のアルバイトが働いている。圧倒的にアルバイトが多い。それだけに、マクドナルドではアルバイトの教育に力を入れているのだが、そのあり様が、外から持つイメージと違っているのだ。

一般的には、マクドナルドのアルバイトはマニュアルで教育されていると思われている。たしかに、マクドナルドには25章からなるマニュアルがある。しかし、マクドナルドのアルバイト教育でマニュアルの占める比重は驚くほどに低いのだ。

マクドナルドの下山博志トレーニング部部長に、「マクドナルドはマニュアル教育が有名ですが」と問いかけると、穏やかな口調ながらも次のように否定してみせた。

「マニュアルなんかほとんど覚えてないですよ。といったらおかしいですけれども、マニュアルには最低限のことしか書いていないのです。仕事中になにか問題が起きたときやなにか意思決定するときに、マニュアルを検索して参考になるものを探し出す。これがマニュアルの役割です。たしかに、入ってすぐの頃はマニュアルで仕事を覚えてもらいますが、後はできるだけ自分で考えてということです」

本当にそうなのだろうか。首都圏のある店で3年間のアルバイト経験を持つ武田直子さんに聞いてみた。武田さんは、昨年11月シカゴで行われた第1回マクドナルド世界クルーコンテストで金メダルを受賞した日本チームの一員でもある。

「マニュアルで教えられたことだけをやっていると限界があるし、面白くないですね。周りのお手本を参考にし、また、自分で考えながら、自分でできることを探していくことが、マクドナルドの仕事では大事だと思います」と、下山部長の話を裏付ける発言をする。

金メダルを受賞するほどの武田さんは、アルバイトの中では異質の存在に思えるが、そんなことはない。武田さんが働く店のほかのアルバイトも、例外なくきびきびと笑顔で仕事を楽しんでいた。武田さんと比較して遜色はない。 武田さんのような仕事を楽しみ、自分で考えることのできるアルバイトは、マニュアルだけでは育たないということだ。

藤田田社長は、マクドナルドでの店頭での一番の武器は、「アルバイトの笑顔」だという。「笑顔の後に、ご一緒にコーラはいかがですかと、いえば、3分の一は注文してくれます」というほどに、笑顔の効果は大きいと話す。この笑顔こそマニュアルによって教え込んだものだと思うのだが、下山さんはこれも否定した。

「笑い方なんて絶対に教えないですよ。テクニカルなことで笑わせようというのは絶対に無理だと思いますね。笑顔を出させる最大の秘訣は、アルバイトの人たちに仕事の面白さを教えることだと思います」

マクドナルドでは、アルバイトも3ヶ月に1回の人事考課に基づいて昇給させているが、お金ばかりでモチベーションを高めさせているわけではない。

「マクドナルドの出店条件のひとつに、アルバイトの人たちの休憩できる専用の『クルールーム』の設置があります。ここで交わされる会話が非常に象徴的なのですが、スタートしたばかりの店は会話が少ないのです。そこで店長が、一緒に休憩を取りながら間に入って、学校やテレビの話しをしたりします。発展した店になると、今日の売上はどうだとかといった仕事の話をするようになり、成熟した店では、経験のある人が経験の浅い人の悩みの相談に乗ったりするようになってきます。これがマクドナルドの強さだと思いますよ」(下山)

昇給があり、さらには「クルールーム」での語らい。こういったことが相俟って、初めて笑顔は出てくるのだ。

マクドナルド=マニュアル教育、と考えていては、同社の本質を理解することはできない。

著者プロフィール

疋田 文明(ひきた ふみあき)
有限会社 ABO
経営コンサルタント・元気塾主宰
日本交通公社(JTB)勤務後、中小企業経営者を対象とした各種セミナーの企画・運営会社等々を経て、1979年に竹村健一未来経営研究会を企画設立し事務局長に就任。1986年に竹村健一氏のもとから独立。現在、フリーランスのライターとして活躍中。
http://www.hikita10.jp

[2001年11月19日 掲載]

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