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コストという名の魔物

~「一律何%のコスト削減」が企業を危うくする~

ローコストオペレーションの重要さはよくわかるが、経営の世界では削減していいコストと削減してはならないコストがある。経営者がコスト意識を持つことは何より大事だが、コスト=削減では、企業は縮小均衡するばかりである。 元気印企業の経営者は、「一律何%のコスト削減」は、間違っても口にしない。

コスト意識の持てない企業人はビジネスの世界では成功しない、との考えを筆者は持っているのだが、最近の経営者のコストのとらえかたには、いささかの疑問を持っている。

筆者は、コスト意識を持つことが肝要だといいたいのだが、多くの経営者は、コストと聞くと削減と続けてしまう。長引く不況のせいもあるのだろうが、一律何%のコスト削減を口にする経営者も少なくない。たしかに過剰なコストは削減しなければならないし、ローコストオペレーションが重要なこともよくわかる。

しかし、経営の世界では削減していいコストと削減してはならないコストがある。一律のコスト削減などといっていると、企業は縮小均衡に陥るばかりだし、部門部門のコストは削減できても、コストダウンのいきすぎた結果として、全く新しいコストが発生して、最終的にはコストアップにつながることもあるのだ。

製造業を例に考えてみよう。社長が工場長に、「コストを削減して商品を作れ」と指示を出したとしよう。工場長は期待に応えるべく懸命にコスト削減に取り組む。結果、質の伴わない商品が出来たとしたらどうなるのか。いまは、質の伴わない商品はいくら安くても売れない時代なのだ。品質に問題のある商品は売るためのコストがかかるし、在庫の期間が長くなると金利という別のコストがかかる。期末に在庫で持てば財務面でのデメリットも出てくる。欠陥商品でも出そうものなら、悲惨な結末が待っていることは、最近の数多くの事例が物語っている。

最近、コストがらみで筆者が考えさせられたのは、大手量販店の「長崎屋」のケースだ。業績不振に陥った長崎屋は、徹底した合理化に取り組んだのだが、その結果は満足できるものではなかった。破綻にいたるまでの直近の5年間で販売管理費を25.8%削減したという。これはこれで立派なことだとは思うのだが、その結果収益力はどうなったのか。おなじ5年間で30.4%も落ち込んだと聞く。コストダウンの成果以上に収益が落ち込んだのでは意味がない。

経営の世界では、コストという言葉も使い方いかんで魔物にもなってしまうということだ。今の経済社会では、勝ち残るために、ITの導入やISOの取得は不可欠だと、筆者は考えているが、そうした分野への投資まで、コスト削減の名目で躊躇する経営者がいるとすれば、残念でならない。

なぜ経営者がコスト削減と口をそろえてしまうのか。それはひとえに、経営者の自信のなさからくるものだといわれる。企業が、この不況を乗り越え、継続して栄える組織になるためには、好むと好まざるにかかわらず、リストラ、リエンジニアリングに取り組まなくてはならないのだが、自信のない経営者は、何をなせばいいのかの答えを持っていない。結果として、リストラ、リエンジニアリング=コスト削減と単純に考えてしまっているのではないだろうか。

最近は、コスト削減の波が雇用にまで及んでいる。雇用調整に乗り出した企業が、リストラの成功企業として取り上げられ、株価が上昇するというのだから何をかいわんやである。大企業の経営者の間で、雇用をめぐる議論が交わされているが、筆者には理解できないものがある。

某企業の経営トップは、「リストラによって人の行く末を断つということは、経営者として失格といわざるを得ない」といっている。間違いなくこれは正論だ。しかし、続く言葉がいけない。「苦境にあっても経営者は、少しでも雇用を守るための手だてを考えるべきであって、ワークシェアリングはそのための有効な手段の一つである」。

この言葉を筆者は黙って受け入れることが出来ないのだ。ワークシェアリングでは、雇用は確保できても賃金は下がる。サラリーマンに負担を強いることに違いはない。本物の経営者ならば、業績が落ち込んでから雇用調整をいうのではく、力のある内に新たな事業にうってでて雇用を創出しておくべきなのだ。

筆者の知る限り、元気印企業の経営者は、間違っても一律何%のコスト削減なんて口に出さない。

著者プロフィール

疋田 文明(ひきた ふみあき)
有限会社 ABO
経営コンサルタント・元気塾主宰
日本交通公社(JTB)勤務後、中小企業経営者を対象とした各種セミナーの企画・運営会社等々を経て、1979年に竹村健一未来経営研究会を企画設立し事務局長に就任。1986年に竹村健一氏のもとから独立。現在、フリーランスのライターとして活躍中。
http://www.hikita10.jp

[2000年9月25日 掲載]

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